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本編

1話 ご主人様を求めて異世界に転生します

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ここは何処?
真っ暗で何も見えないよ。

「わお~~~ん、わお~~~ん(ご主人様~~~ご主人様~~~)」

ダメだ。
どれだけ吠えても、どれだけ歩いても、誰にも会えないし返事もしてくれない。
ご主人様は、何処にいるの?

あ、かなり先に灯りが見える‼️
誰かいるかもしれないから、あの場所へ行ってみよう。

これは……ご主人様の匂いだ‼︎
近づくにつれて、匂いが強くなってくる。
あそこに、ご主人様がいるんだ‼︎

「……へ行き、幸せな生活を送りたいです‼︎」 

ご主人様の声だ‼︎
私は灯りの見える場所へ全力で駆けだす。

「それがあなたの選択なのね。なら、お行きなさい。次の転生先でも、幸せな生活を送れますように」

「はい!!」

私は全力で走り出し、遂にご主人様のいる場所へ辿り着くと、2人の女性がいた。

「わお~~~ん(ご主人様~~~)」
「え……リコッタ‼︎」

ご主人様が振り向いて私に気づいてくれた。私は全速力で走り、抱いてもらおうと飛びつこうとしたら、何故かすり抜けてしまう。

慌てて振り向くと、先程までいた場所にご主人様の姿はなかった。

「わん!? わおーーーん(消えた!? ご主人様~~~)」

どうして、突然消えたの?

ご主人様と話し合っていた綺麗な女性は、私を見てかなり驚いているけど、どうしたのかな?

「まさか…自力でこの空間を見つけたの? 警察官でもあるあの女性から事情を聞いてはいたけど、相当強い縁で結ばれているのね。警察犬(パピヨン)の女の子、リコッタというのはあなたですか?」

この人、今私のことを呼んだの?

「ワン(そうです)」 

人間の言葉を少ししか理解していないから全部聞き取れないけど、私の名前を呼んだよね? これまで出会ってきた人と何処か違う雰囲気を放っているし、清涼な匂いがする。

「ああ、犬は人の言葉を殆ど理解できないのよね。ほら、これならどうかしら? あなたの知能を人の10歳児並みに引き上げて、人の言語も話せるようにしたわ。どう、私の言葉を理解できる?」

あれ…わかる…わかります‼︎ 女の人が私の頭を撫でた途端、頭の中がスッキリしてきて言葉を全て理解できる‼︎

「ありがとうございます!! 私はリコッタと言います」

本当だ、人の言語も話せる‼︎
この人、凄い!!

「ちゃんと自己紹介してくれたのね、えらいわ。それに敬語で話しているようだし、あなたはあの女性に大切に育てられてきたのね。私は、日本で言うところの《神》に値するものよ」

知らない人に対しては、自己紹介するのが当たり前だと思います。
ご主人様だって、いつもこんな話し方でした。

神様という言葉は、私も頻繁に耳にしています。特に神社へ言った時、ご主人様が必死に祈っている時、この言葉を使っていました。そんな凄いお方なら、ご主人様の消えた理由を知っているかもしれません。

「女神様、ご主人様が私の目の前で消えちゃいました。何処に行ったのでしょう?」

質問した途端、何故か苦笑いを浮かべました。

「リコッタ、落ち着いて聞いてね。あなたたちの身に起きた状況を理解できるかしら?」

状況? 
行方不明者を捜索中、私とご主人様は信号無視をした暴走車にはねられた。

凄く痛くて目の前で倒れているご主人様に向けて、「ク~ンク~ン」と鳴いたら、ご主人様は悲しそうな表情を浮かべ、私の頭をゆっくり撫でて…

『リコッ…タ…ごめん…ヘマ…しちゃった。ごめん…ね』

そう言ったら、ご主人様の手がぱたっと地面に落ちた。必死に叫ぼうとしたけど、私の身体も動かず、段々と痛みも引いてきて気づいたらここにいた。もしかして、私たちは死んじゃったの?

「その通りよ、あなたたちは死んだの。そして、私はあなたのご主人様の記憶を保たせたまま、魂を新たな命へと転生させたの。次は、あなたの番ね。生まれ変わるにあたって、何かお願いがあるかしら?」

転生…生まれ変わる…あれ?
何故か、意味がわかります。
《記憶を保たせたまま》ということは、私との思い出も残るということですよね?

「私も記憶を維持したまま、ご主人-安優香様のもとへ行きたいです!!」

嫌な記憶もありますが、ご主人様との思い出を無くしたくありません。
女神様は、何故か困った表情を浮かべた。

「私は、彼女を異世界《ラストリア》へと転生させたわ。ここからあの世界に転生できる人数が決められていてね。当分は無理かな~」

「え、そんな!?」
 
私はご主人様に恩返しをしたい。

今の私なら、小さい頃に経験したあの状況が《多頭飼育崩壊》とわかります。警官だったご主人様は、私をその状況から救ってくれて、そこから訓練されて警察犬になって、一緒に色んな所に行って行方不明者を見つけたりもした。

私は、ご主人に拾われて幸せだった。
もう一度、ご主人様のもとへ行って飼われたい。
私の願いは、それ一択だけなのに……。

「(この子、年齢は7歳のはず、邪念が全くないわ。動物でも、ここまで純粋な子っていないわよ。やめて、そんな目で見つめないで!! これは決まりなの…でも、もしかしたら空きがあるかも……)あ~ちょ~と待ってね」

女神様が懐からスマートフォンを急に取り出して、誰かに連絡しています。

「ねえ、もう1人…いえ1匹分だけそっちに送っていいかしら?」

ご主人様の転生先は《異世界》って言ってたけど、どういう意味なのかな?

「この子の魂を覗いてみなさいよ。……ねえ、綺麗でしょう? できれば、これまでに見聞きした人間たちとの会話や常識を全て理解させた状態で転生させてあげたいわ。この綺麗さなら、不都合は生じないでしょう?」

どんな話をしているのかな?
私は異世界《ラストリア》へ行けるのかな?

「え…そうなの? かなり離れているけど、スキルで彼女の匂いを辿れるようにすれば問題ないわね。それじゃあ、彼女の希望を聞いて、3つのスキルを与えるわね」

女神様がスマートフォンを懐に入れました。

「リコッタ、異世界の神があなたの転生を了承してくれたわ」
「本当ですか!? やったやった!!」
「(この子を抱きしめたい衝動に駆られるけど、女神としての威厳を示さないとね)ただし、急な事もあって、あの子とはかなり離れた場所で生まれるけど、それでもいいかしら?」

私の我儘を通してもらったのだから仕方ないけど、ご主人様の匂いを辿れるかな?

「ご主人様の匂いも変化しているのですか?」

「匂いだけでなく、姿も変化しています。今回、特別措置として、あなたにはあの子の匂いを辿れるようスキル《絶対嗅覚》を与えましょう。効果の一つに、あなたがご主人と認めた者であれば、何処にいようとも匂いを感知し、方向と距離を正確に把握できます」

スキル《絶対嗅覚》? 

それって、私たち犬の持つ《帰巣本能》と似ている気がします。私が迷子になった時も、周囲の匂いを探り、知っているものを辿っていくことで、ご主人様のいる場所へ到着できました。

「ありがとうございます。どんなに離れていても、必ず見つけ出してみせます!!」
「本当に良い子ね。それじゃあ、他に欲しいスキルはあるかしら? あの世界の人類には、初期の時点で3つのスキルストックがあるの」

ということは、残り2つですね。《スキル》という言葉の意味がわからないけど、何か願い事を言えばいいのかな?

「身体を丈夫にしてほしいです」
「健康な身体ね。長距離の旅なのだから、当然ですね」

 健康な身体、それもいいですけど、私の場合は意味が違います。

「私の身体は小型で、他の犬たちより弱いんです。災害救助犬のような災害現場に行けないし、出来ることといえば、臭いを分別して行方不明者を捜索することくらいなんです。どんなところでも進める丈夫な身体が欲しいです」

シェパードやドーベルマンといった警察犬みたいに、私も色んなところに行ってご主人様の役に立ちたいけど、この身体だから出来ることが限られていた。だから、嗅覚に関しては誰にも負けないよう、みっちり訓練して成果を上げたことで表彰されたりもしたし、他の犬たちからも褒められたけど、私も災害に遭った人たちを助けたいと、いつも強く思っていた。

「本当に純粋な子ね。丈夫な身体で攻撃にも転じることができるスキル《身体硬健》を与えましょう。日本の四字熟語と少し意味合いが違いますが、あなたの望むものです。他には、ありませんか?」

やった、嬉しい‼︎ これで、色んな場所に行けます‼︎
他に望むもの……う~ん、やっぱり顎かな?

「他の犬よりも顎の力が弱いので、顎を強くして欲しいです」
「顎ですか!?」

女性は何故か驚いているけど、変なこと言ったかな?

「あなたを獣人の女の子に転生させるので必要ありませんよ? それに、さっきのスキルを応用すれば、顎や牙も強くなります」

獣人という言葉の意味がわからないけど、牙も強くなるのなら嬉しい。

「それならご主人様と再会した時、私だとわかってもらえるよう、この姿に変身できる力が欲しいです」

女性は、何故か微妙な顔をしています。
私は、また変なことを言ってしまったのかな?

「あなたの言いたいことも理解できますが、それだと《犬化》になるから、なんだか勿体無いわね、デメリットしかないわ。《獣化》にして、あなたの身体能力を向上させましょう。それなら獣人の時よりも、速く走れようになります」

やった!! 
この姿に戻れるのなら、ご主人様だってわかってもらえます!!

「ありがとうございます!!」

「元気があってよろしい。あなたの場合、赤ちゃんからだと不都合が生じますから、自我の強くなり始める8歳の時に記憶を呼び起こすようにしましょう。今の精神年齢と近いので、周囲に上手く溶け込めるわ。次目覚めた時、あなたは孤児で必要最低限の知識を身につけた獣人の8歳の女の子です。始めは混乱するでしょうが、落ち着いて行動するように」

今の記憶が目醒めるのは、8歳の時なんですね。
ご主人様と同じ世界に行けるだけでも嬉しいです。
絶対、見つけてみせます!!

「はい、わかりました!!」

「異世界《ラストリア》の世界観は、ヨーロッパ20世紀初頭の文明に近く、魔法やスキルのあるファンタジー世界よ。不便なところもあるでしょうけど、頑張ってね」

魔法とスキル?
知能を引き上げられても、いまいちイメージできません。
私の周りが、どんどん輝いていきます。
目を開けていられない。
安優香様、私は絶対にあなたのもとへ辿り着いてみせますね。
 
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