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幕間
クロイス・ジストニスの成長
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時系列としては、前話の続きとなります。
○○○ クロイス視点
今日のお昼過ぎ、私がバルコニーでミルクティーを飲み、一息付いていたところ、1つの騒ぎが起こりました。黒い何かが、北東方向の空から、王城目掛けて飛んできたのです。新手の襲撃者かと思い、慌てて部屋の中に戻り、身を隠しました。しかし、いくら待っても、衝撃音が聞こえてきませんでした。
しばらくすると、アトカが私の下へやって来て、こう言いました。
「クロイス、謎の物体の正体が判明した。あれは、リリヤだ」
「「は?」」
アトカの答えに、私も護衛のイミアもおかしな声を上げてしまいました。アトカによると、リリヤはクックイスクイズ第4チェックポイントとなるランダルキア大陸の【ヘルフォールキャニオン】で敗退し、罰ゲームのゴムゴムロープによって、ここまで飛ばされたそうです。
「「ゴムで、ここまで飛ばされたの!?」」
イミアも驚きますよね。
物理的に考えて無理だし……
「ああ。クックイスクイズの総指揮は雷精霊だからな。何でもありだ」
だからといって、ランダルキア大陸からここまで飛ばすなんて……
「アトカ、それでリリヤは?」
あの速度で墜落すれば、スキル全開でも場合によっては大怪我を負います。彼女の容体が気にかかりますね。
「かすり傷程度だから問題ない。あいつ、魔力操作がかなり上手くなっている。墜落予想地点を予め把握し、風魔法と土魔法を上手く利用して、自分自身が上空に上がるよう大きなスロープを作りやがった。風魔法で落下角度を徐々に緩やかにしていき、スロープを伝って上空に上がった後、【フライ】で中庭に着地したよ」
よかった、怪我はないようですね。
「他の仲間達は?」
「そのことで、至急クロイスに伝えたいことがあると言っていた。かなりの重要案件だそうだ。俺が『シャーロット絡みか?』と言ったら、『…………はい。クロイス女王様にとって、今後一生悩ませる程の重要案件です』と答えたよ。今、客室に案内したところだ」
シャーロット絡み……私を一生悩ませる程の案件……聞きたくない。
お腹が……ああ、嫌な予感がします。
「クロイス様……覚悟を決めて行きましょう」
イミア、他人事だと思って簡単に言わないで下さい!
「イミア……病気でお休みということには?」
シャーロット絡みなんだから、何か…私にも思いつかない程の何かが……あるはず……聞きたくない。
「無理です。さあ、行きますよ」
「いや~行きたくな~~い!」
「イミア、連行しろ」
ちょっと~~、私この国の女王ですよーーーー!!
引き摺らないで下さ~~い!
ああ、無情にも、私はイミアとアトカによって、リリヤのいる客室へと連行されてしまいました。アトカとイミアには、動揺の色が見えません。
うう、もしかして私だけに関連することなの?
リリヤのいる客室に入ると、彼女はテーブルの側にあるソファーから立ち上がりました。
「クロイス女王様、先程はお騒がせして申し訳ありませんでした!」
「……いえ、構いませんよ。怪我人も出ていませんし。それよりも、シャーロット絡みの話が気になります。リリヤも、ソファーに座ってお話ししましょう」
私とリリヤは、テーブルを挟んだ2つのソファー中央に対面的に座り、アトカとイミアは私の左右に座りました。
さて、もう覚悟を決めて、シャーロットのことを聞きましょう!
「あの……ややこしくなると思いますので、順に説明して行きますね。まず、第2チェックポイント、バードピア王国【迷いの森】にて、シャーロットは長距離転移魔法を入手しました」
「「「はあ!?」」」
順に説明していくと言いながら、いきなり目標を達成しているじゃないですか!?
「おいリリヤ、順に説明していくと言ったよな?」
「はい……アトカさん……これが最初の出来事なんです」
ということは、目標を達成しているのに、まだクイズに参加している?
「長距離転移魔法を入手したのはいいのですが、魔法を発動させるには、行きたい場所の座標を入手しないといけません。座標の起点となるものは、長距離転移魔法と同時に入手しましたが、シャーロットの故郷となるエルディア王国の座標がわかりませんでした」
なるほど、長距離転移魔法を発動させるには、行きたい場所の座標が必要となる。そうなると、最低1度は目的となる場所に訪れ、座標を入手しないといけませんね。
「現在でも、クイズに参加しているのか?」
アトカの言いたいこともわかります。座標と長距離転移魔法を入手した以上、クイズに参加する意味がありません。
「いえ、参加していません。ここからが重要なんですが、次の第3チェックポイントのフランジュ帝国帝都にて……スキル販売者とその黒幕を捕縛しました」
「「「はあ!?」」」
長距離転移魔法の次は、スキル販売者と黒幕を捕縛した!?
「リリヤ、長距離転移魔法の習得方法を省略するのはいいが、スキル販売者共を捕縛するまでの過程を飛ばすな!」
「そうよ、そこは重要なところでしょ!もう少し詳しく説明しなさい!」
アトカとイミアの意見に同意です。スキル販売者に関しては、ジストニス王国も大きく関与しています。そこを省略してはいけません。
「……すいません。そのなんと言いますか…当人達は既にこの世界にいない…この惑星に存在しないので、言っても信用してもらえないかな~と思い省略しました」
「「「おいおいおい」」」
リリヤ、目をキョロキョロさせて、反応が挙動不審になっていますよ。スキル販売者達は、既に世界に存在しない? この惑星に存在しない?
なんと言いますか、絶対シャーロットが絡んでいますね。
「それでは説明します……全てが真実です」
リリヤは、第2チェックポイント以降で何が起こったのか、丁寧に説明してくれました。ガーランド様からの緊急要請、スキル販売者の罠、魂の交換、地球という惑星への転移、スキル販売者の裏に潜む地球の神、シャーロット帰還早々のやらかし、簡易神人化、神へのお仕置き、スキル販売者ユアラへの神罰、それら全てが私達の許容量を大きく超えていました。通常であれば、絶対に信頼すべき事項ではないでしょう。しかし、あのシャーロットが絡んでいる以上、これらの内容は全て真実! 疑ってはいけない、疑ってはいけないのです。
ただ、《シャーロットが長距離転移魔法で故郷に帰還した》という報告は、私にとって嬉しい報せでした。
○○○
リリヤの説明が終わり、私もアトカもイミアも、しばらく頭が働きませんでした。シャーロットの仕出かした内容全てが、あまりにも刺激的すぎるからです。私達3人の中で、我を取り戻したのはアトカでした。
「スキル販売者が地球という惑星の人間。その黒幕が地球にいる神。シャーロットはそいつらを撃退させ、元いた場所へと帰した。……これは……仕方ないだろう。ガーランド様が絡んでいる以上、俺達からは何も言えない。ただ、クロイスにとって、一生悩ませる程の重要案件というのは何だ? 長距離転移魔法のことか?」
あ、そうでした!?
私が一生悩ませる程の案件というのは何でしょうか? まあ、ここまでの情報が、各国の首脳陣を悩ませる程の大きな案件ではありますが。微妙に違うような気もします。
「……そこは、まだ話していません。1番重要なところなので、今からお話しします」
リリヤの深刻な顔、先程までの情報よりも、もっと恐ろしいものなのでしょうか? 私の第6感が、これ以上聞いてはいけないと告げています。
「さあ、公務の続きをしましょうか~」
「「逃げるな」」
私が立ち上がろうとしたら、アトカとイミアが私の両肩を掴み、強制的にソファーへ押し戻された!
「アトカもイミアも私の護衛でしょ~。これ以上聞いたら、私の精神がーーー」
「「諦めろ(て)」」
「いや~~聞きたくなーーーい」
あ、両手で耳を塞ごうとする前に、がっしりと2人の手が私の両手に!
「「リリヤ」」
わかりました!
聞きますよ!
「あはは…言いますね。シャーロットは、フランジュ帝国帝都上空で巨大化して、Sランクの魔物達にお尻ペンペンしちゃいました。それを……王族貴族平民……多くの人々が目撃しました。その結果……」
「「「あ! まさか……」」」
フランジュ帝国……あの国は元々1人のSランク冒険者が建国したもの。武闘大会で戦い抜いた最後の強者こそが、帝王となりえる。そして、王族と呼ばれるべき存在は帝王のみ。その血縁者達は、王族になりえない。実質の支配者は、政治中枢を握る貴族達。帝王は、国家間の戦争を未然に防ぐための抑止力として存在する。
「はい……シャーロットが、新たな帝王として即位します」
やっぱり……私の一生を悩ませる……この事だったのですね。
まさか、シャーロットが帝王になるなんて……
フランジュ帝国はここから北東方向にあって、ジストニス王国と隣接している国。ハーモニック大陸の国々にいる王族の中でも、私がシャーロットと最も友好な関係を築けている。シャーロットが帝王となる以上、帝国との貿易も盛んになるでしょう。
そして……
今後、ハーモニック大陸でもアストレカ大陸でも、色々と大きな動きが起こる。いずれ、アストレカ大陸の国々との国交を回復させるか否かも、表の議題として現れる。
その時は、女王である私も歴史と向き合い、話し合いに参加しなければならない。
私も……覚悟を決めないといけませんね。
「なるほど……これは私にとって、一生悩むべき案件です。今後、アストレカ大陸の方では、彼女を手に入れようと、裏で暗躍する国々も数多く現れる。シャーロットは戦争を好みませんから、そういった国々は、彼女自ら何らかの裁きを与えていく。10年…いえ…おそらく5年以内に、シャーロットの名前が世界中に知れ渡るかもしれません。まずは、ハーモニック大陸内の国々だけで、結束を固めておきましょう。シャーロット自身も、国家間の会議に参加します。彼女からアストレカ大陸の現状を知ることもできますから、その情報を基にどう行動するか、各国の王と話し合えばいいでしょう」
あら? どうしてか、アトカもイミアもリリヤも呆然としながら、私を見つめています。
「クロイス様、シャーロット関係に関してはいつも弱腰だったのに、そんな真っ当な意見を言うなんて……」
う、イミア、はっきり言いますね。否定はしませんが、私だっていつまでもシャーロットのやらかしに怯えるわけにはいかないんです。
「クロイス、成長したな。これまでの《シャーロットのやらかし》のおかげで、耐性が付いたか」
アトカ、もう少し別の言い方で褒めて欲しいのですが?
リリヤは、何故かキラキラした目で私を見つめていますね。
「クロイス女王様、素敵です! 私の場合、シャーロットが何かやらかした時、いつも驚くばかりで、そこから考えることを拒否していました!」
「リリヤの言いたいこともわかります。ですが、私はこの国の女王、そしてシャーロットが帝王となった今、今後もっと大きなやらかしが待っているでしょう。シャーロットを見たことのない各国首脳陣が、フランジュ帝国での大きなやらかしを自国で実行されたら、動きを完全に停止し対応しきれないでしょう。それを防ぐためも、私が先頭になって導いていかねばなりません!」
そう、【シャーロットのやらかし】から逃げてはいけないのです!
これを上手く利用すれば、各国の結束力も固まります。
「リリヤ、シャーロットの帝王への即位式は、いつ頃ですか?」
「まだ決まっていません」
解決してから2日しか経過していないのであれば、当然ですね。
「王宮が半壊したとはいえ、国民の前で新たな帝王になることを宣言した以上、熱が冷めないうちに即位式を行うはずです。王宮の修繕作業、帝都周辺で起きた災害の対処、即位式の準備のことを含めると、おそらく最短1ヶ月程で用意が整うと思います。アトカ、数日中には帝国の大臣からの手紙が、従魔によって届けられるかもしれません」
「ああ。これから忙しくなりそうだな」
近日中に、帝国からの報せが各国に届けられる。おそらく、子供のシャーロットが帝王となる以上、下手な嘘はつかず、ありのままの真実を伝えるはずです。彼女の仕出かした帝都でのやらかしがハーモニック大陸中の全ての国々が知ることになる。少し前、私自らがシャーロットの存在とその脅威を記した手紙を各国に送ったばかりです。皆、彼女の名前を知っていても、その脅威がどれ程のものか理解していない。今回の1件で、全員が理解してくれるといいのですが。
なんにせよ、私が率先して、シャーロットのことを皆に教えないといけません。彼女の存在が、我々魔人族にとって吉と凶どちらに出るのか、全ては彼女の行動次第ですね。
シャーロット……あなたが思っている以上に、これから世界は大きく動き出しますよ。
○○○ 作者からの一言
次回、スキル販売者ユアラの地球帰還後の小話をUPします。
更新時期は、6/26前後になると思います。
犬社護
○○○ クロイス視点
今日のお昼過ぎ、私がバルコニーでミルクティーを飲み、一息付いていたところ、1つの騒ぎが起こりました。黒い何かが、北東方向の空から、王城目掛けて飛んできたのです。新手の襲撃者かと思い、慌てて部屋の中に戻り、身を隠しました。しかし、いくら待っても、衝撃音が聞こえてきませんでした。
しばらくすると、アトカが私の下へやって来て、こう言いました。
「クロイス、謎の物体の正体が判明した。あれは、リリヤだ」
「「は?」」
アトカの答えに、私も護衛のイミアもおかしな声を上げてしまいました。アトカによると、リリヤはクックイスクイズ第4チェックポイントとなるランダルキア大陸の【ヘルフォールキャニオン】で敗退し、罰ゲームのゴムゴムロープによって、ここまで飛ばされたそうです。
「「ゴムで、ここまで飛ばされたの!?」」
イミアも驚きますよね。
物理的に考えて無理だし……
「ああ。クックイスクイズの総指揮は雷精霊だからな。何でもありだ」
だからといって、ランダルキア大陸からここまで飛ばすなんて……
「アトカ、それでリリヤは?」
あの速度で墜落すれば、スキル全開でも場合によっては大怪我を負います。彼女の容体が気にかかりますね。
「かすり傷程度だから問題ない。あいつ、魔力操作がかなり上手くなっている。墜落予想地点を予め把握し、風魔法と土魔法を上手く利用して、自分自身が上空に上がるよう大きなスロープを作りやがった。風魔法で落下角度を徐々に緩やかにしていき、スロープを伝って上空に上がった後、【フライ】で中庭に着地したよ」
よかった、怪我はないようですね。
「他の仲間達は?」
「そのことで、至急クロイスに伝えたいことがあると言っていた。かなりの重要案件だそうだ。俺が『シャーロット絡みか?』と言ったら、『…………はい。クロイス女王様にとって、今後一生悩ませる程の重要案件です』と答えたよ。今、客室に案内したところだ」
シャーロット絡み……私を一生悩ませる程の案件……聞きたくない。
お腹が……ああ、嫌な予感がします。
「クロイス様……覚悟を決めて行きましょう」
イミア、他人事だと思って簡単に言わないで下さい!
「イミア……病気でお休みということには?」
シャーロット絡みなんだから、何か…私にも思いつかない程の何かが……あるはず……聞きたくない。
「無理です。さあ、行きますよ」
「いや~行きたくな~~い!」
「イミア、連行しろ」
ちょっと~~、私この国の女王ですよーーーー!!
引き摺らないで下さ~~い!
ああ、無情にも、私はイミアとアトカによって、リリヤのいる客室へと連行されてしまいました。アトカとイミアには、動揺の色が見えません。
うう、もしかして私だけに関連することなの?
リリヤのいる客室に入ると、彼女はテーブルの側にあるソファーから立ち上がりました。
「クロイス女王様、先程はお騒がせして申し訳ありませんでした!」
「……いえ、構いませんよ。怪我人も出ていませんし。それよりも、シャーロット絡みの話が気になります。リリヤも、ソファーに座ってお話ししましょう」
私とリリヤは、テーブルを挟んだ2つのソファー中央に対面的に座り、アトカとイミアは私の左右に座りました。
さて、もう覚悟を決めて、シャーロットのことを聞きましょう!
「あの……ややこしくなると思いますので、順に説明して行きますね。まず、第2チェックポイント、バードピア王国【迷いの森】にて、シャーロットは長距離転移魔法を入手しました」
「「「はあ!?」」」
順に説明していくと言いながら、いきなり目標を達成しているじゃないですか!?
「おいリリヤ、順に説明していくと言ったよな?」
「はい……アトカさん……これが最初の出来事なんです」
ということは、目標を達成しているのに、まだクイズに参加している?
「長距離転移魔法を入手したのはいいのですが、魔法を発動させるには、行きたい場所の座標を入手しないといけません。座標の起点となるものは、長距離転移魔法と同時に入手しましたが、シャーロットの故郷となるエルディア王国の座標がわかりませんでした」
なるほど、長距離転移魔法を発動させるには、行きたい場所の座標が必要となる。そうなると、最低1度は目的となる場所に訪れ、座標を入手しないといけませんね。
「現在でも、クイズに参加しているのか?」
アトカの言いたいこともわかります。座標と長距離転移魔法を入手した以上、クイズに参加する意味がありません。
「いえ、参加していません。ここからが重要なんですが、次の第3チェックポイントのフランジュ帝国帝都にて……スキル販売者とその黒幕を捕縛しました」
「「「はあ!?」」」
長距離転移魔法の次は、スキル販売者と黒幕を捕縛した!?
「リリヤ、長距離転移魔法の習得方法を省略するのはいいが、スキル販売者共を捕縛するまでの過程を飛ばすな!」
「そうよ、そこは重要なところでしょ!もう少し詳しく説明しなさい!」
アトカとイミアの意見に同意です。スキル販売者に関しては、ジストニス王国も大きく関与しています。そこを省略してはいけません。
「……すいません。そのなんと言いますか…当人達は既にこの世界にいない…この惑星に存在しないので、言っても信用してもらえないかな~と思い省略しました」
「「「おいおいおい」」」
リリヤ、目をキョロキョロさせて、反応が挙動不審になっていますよ。スキル販売者達は、既に世界に存在しない? この惑星に存在しない?
なんと言いますか、絶対シャーロットが絡んでいますね。
「それでは説明します……全てが真実です」
リリヤは、第2チェックポイント以降で何が起こったのか、丁寧に説明してくれました。ガーランド様からの緊急要請、スキル販売者の罠、魂の交換、地球という惑星への転移、スキル販売者の裏に潜む地球の神、シャーロット帰還早々のやらかし、簡易神人化、神へのお仕置き、スキル販売者ユアラへの神罰、それら全てが私達の許容量を大きく超えていました。通常であれば、絶対に信頼すべき事項ではないでしょう。しかし、あのシャーロットが絡んでいる以上、これらの内容は全て真実! 疑ってはいけない、疑ってはいけないのです。
ただ、《シャーロットが長距離転移魔法で故郷に帰還した》という報告は、私にとって嬉しい報せでした。
○○○
リリヤの説明が終わり、私もアトカもイミアも、しばらく頭が働きませんでした。シャーロットの仕出かした内容全てが、あまりにも刺激的すぎるからです。私達3人の中で、我を取り戻したのはアトカでした。
「スキル販売者が地球という惑星の人間。その黒幕が地球にいる神。シャーロットはそいつらを撃退させ、元いた場所へと帰した。……これは……仕方ないだろう。ガーランド様が絡んでいる以上、俺達からは何も言えない。ただ、クロイスにとって、一生悩ませる程の重要案件というのは何だ? 長距離転移魔法のことか?」
あ、そうでした!?
私が一生悩ませる程の案件というのは何でしょうか? まあ、ここまでの情報が、各国の首脳陣を悩ませる程の大きな案件ではありますが。微妙に違うような気もします。
「……そこは、まだ話していません。1番重要なところなので、今からお話しします」
リリヤの深刻な顔、先程までの情報よりも、もっと恐ろしいものなのでしょうか? 私の第6感が、これ以上聞いてはいけないと告げています。
「さあ、公務の続きをしましょうか~」
「「逃げるな」」
私が立ち上がろうとしたら、アトカとイミアが私の両肩を掴み、強制的にソファーへ押し戻された!
「アトカもイミアも私の護衛でしょ~。これ以上聞いたら、私の精神がーーー」
「「諦めろ(て)」」
「いや~~聞きたくなーーーい」
あ、両手で耳を塞ごうとする前に、がっしりと2人の手が私の両手に!
「「リリヤ」」
わかりました!
聞きますよ!
「あはは…言いますね。シャーロットは、フランジュ帝国帝都上空で巨大化して、Sランクの魔物達にお尻ペンペンしちゃいました。それを……王族貴族平民……多くの人々が目撃しました。その結果……」
「「「あ! まさか……」」」
フランジュ帝国……あの国は元々1人のSランク冒険者が建国したもの。武闘大会で戦い抜いた最後の強者こそが、帝王となりえる。そして、王族と呼ばれるべき存在は帝王のみ。その血縁者達は、王族になりえない。実質の支配者は、政治中枢を握る貴族達。帝王は、国家間の戦争を未然に防ぐための抑止力として存在する。
「はい……シャーロットが、新たな帝王として即位します」
やっぱり……私の一生を悩ませる……この事だったのですね。
まさか、シャーロットが帝王になるなんて……
フランジュ帝国はここから北東方向にあって、ジストニス王国と隣接している国。ハーモニック大陸の国々にいる王族の中でも、私がシャーロットと最も友好な関係を築けている。シャーロットが帝王となる以上、帝国との貿易も盛んになるでしょう。
そして……
今後、ハーモニック大陸でもアストレカ大陸でも、色々と大きな動きが起こる。いずれ、アストレカ大陸の国々との国交を回復させるか否かも、表の議題として現れる。
その時は、女王である私も歴史と向き合い、話し合いに参加しなければならない。
私も……覚悟を決めないといけませんね。
「なるほど……これは私にとって、一生悩むべき案件です。今後、アストレカ大陸の方では、彼女を手に入れようと、裏で暗躍する国々も数多く現れる。シャーロットは戦争を好みませんから、そういった国々は、彼女自ら何らかの裁きを与えていく。10年…いえ…おそらく5年以内に、シャーロットの名前が世界中に知れ渡るかもしれません。まずは、ハーモニック大陸内の国々だけで、結束を固めておきましょう。シャーロット自身も、国家間の会議に参加します。彼女からアストレカ大陸の現状を知ることもできますから、その情報を基にどう行動するか、各国の王と話し合えばいいでしょう」
あら? どうしてか、アトカもイミアもリリヤも呆然としながら、私を見つめています。
「クロイス様、シャーロット関係に関してはいつも弱腰だったのに、そんな真っ当な意見を言うなんて……」
う、イミア、はっきり言いますね。否定はしませんが、私だっていつまでもシャーロットのやらかしに怯えるわけにはいかないんです。
「クロイス、成長したな。これまでの《シャーロットのやらかし》のおかげで、耐性が付いたか」
アトカ、もう少し別の言い方で褒めて欲しいのですが?
リリヤは、何故かキラキラした目で私を見つめていますね。
「クロイス女王様、素敵です! 私の場合、シャーロットが何かやらかした時、いつも驚くばかりで、そこから考えることを拒否していました!」
「リリヤの言いたいこともわかります。ですが、私はこの国の女王、そしてシャーロットが帝王となった今、今後もっと大きなやらかしが待っているでしょう。シャーロットを見たことのない各国首脳陣が、フランジュ帝国での大きなやらかしを自国で実行されたら、動きを完全に停止し対応しきれないでしょう。それを防ぐためも、私が先頭になって導いていかねばなりません!」
そう、【シャーロットのやらかし】から逃げてはいけないのです!
これを上手く利用すれば、各国の結束力も固まります。
「リリヤ、シャーロットの帝王への即位式は、いつ頃ですか?」
「まだ決まっていません」
解決してから2日しか経過していないのであれば、当然ですね。
「王宮が半壊したとはいえ、国民の前で新たな帝王になることを宣言した以上、熱が冷めないうちに即位式を行うはずです。王宮の修繕作業、帝都周辺で起きた災害の対処、即位式の準備のことを含めると、おそらく最短1ヶ月程で用意が整うと思います。アトカ、数日中には帝国の大臣からの手紙が、従魔によって届けられるかもしれません」
「ああ。これから忙しくなりそうだな」
近日中に、帝国からの報せが各国に届けられる。おそらく、子供のシャーロットが帝王となる以上、下手な嘘はつかず、ありのままの真実を伝えるはずです。彼女の仕出かした帝都でのやらかしがハーモニック大陸中の全ての国々が知ることになる。少し前、私自らがシャーロットの存在とその脅威を記した手紙を各国に送ったばかりです。皆、彼女の名前を知っていても、その脅威がどれ程のものか理解していない。今回の1件で、全員が理解してくれるといいのですが。
なんにせよ、私が率先して、シャーロットのことを皆に教えないといけません。彼女の存在が、我々魔人族にとって吉と凶どちらに出るのか、全ては彼女の行動次第ですね。
シャーロット……あなたが思っている以上に、これから世界は大きく動き出しますよ。
○○○ 作者からの一言
次回、スキル販売者ユアラの地球帰還後の小話をUPします。
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犬社護
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