元構造解析研究者の異世界冒険譚

犬社護

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《シャーロットが帝王となった場合のifルート》第2部 8歳〜アストレカ大陸編【ガーランド法王国

シャーロット、行動開始!

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私があの提案を皆に話してから、5分程の時間が経過した。あとは、国王陛下の許可を待つだけ……なんだけど、肝心の陛下が両手で顔を覆い、未だに考えあぐねている。この重苦しい雰囲気に我慢できなくなったのか、カムイが話し出した。

「もうブライアン、優柔不断だよ! 国王なんでしょ? 早く許可を出してよ! 僕はシャーロットの案を早く実行したくて、身体がウズウズしているんだ!」

カムイの一言で、国王陛下は顔を上げた。

「ねえカムイ、ちょっと待ってくれない? 臣下の者達と会議……」
「そんな悠長なことを言っている場合じゃないよ! 今この時点で、多くの人々が大怪我を負ったり、死んだりしているんでしょ? だったら、ここは即決でしょ?」

カムイが、国王陛下をどんどん追い込んでいる。そして、誰も陛下を助けようとしない。この緊急事態を乗り越えるには、私の案が正解だと言っているようなものだ。国王陛下がルルリア様やヘンデル様に助けを求めようにも、2人とも彼と目を合わせようとせず、顔を背けてしまった。全ての判断を陛下に委ねる気だ。

「私の責任が…重すぎる。許可を出したら、アストレカ大陸全てが……各国になんて言えば…」

私の案は、そこまでおかしいだろうか?

亡者の大侵攻が、アストレカ大陸全土で起きている。大陸の南半分では、亡者の数こそ多いけれど、弱いから被害も少ないだろう。危険なのは、北半分だ。人々に回復魔法を施しても、亡者の数が減らないと、再び大勢の人々が大怪我を負ってしまう。

【それなら、話は簡単だよね! 私が大陸全土にいる亡者達を、一網打尽にすればいいのだ!】

ただ、国王陛下やヘンデル様から、《聖女を超える行いは禁止》と言われ、現在の私は行動を大きく制限されている。だから、私個人は大陸全土において、人々の大怪我を一気に回復させたり、亡者を一気に殲滅したりできない。でも、制限されているのは、【私】だけだ。それに、この数ヶ月で、ヒール系回復魔法の使い手達が急増していると、お父様から聞いている。それならば……

【大怪我を負っている人々に関しては、現地にいる冒険者達に任せればいい】
【亡者殲滅に関しては、私の従魔が行えばいい】

彼らは元々魔物だから、恐怖の対象として見られている。
亡者殲滅作業に、適任なのだ。

私の提案した案は、【亡者達は強者の威圧に弱い】という弱点を利用している。

方法は簡単だ。デッドスクリーム、カムイ、フロストドラゴンのドレイク、ドールマクスウェル、ドールXX、ドールXを召喚し、彼らが大陸の北と南に分担して飛んでもらい、スキル《威圧》で亡者全てを駆逐していくというものだ。

ただ、皆が早期解決を望んでいるため、大陸に蔓延する亡者共を人や他の魔物と選別してから威圧するという方法をとれない。これだと、時間がかかるためだ。

そこで、威圧範囲を魔物限定にすればいい。人と魔物から感じる魔力と気配は別物だから、判別は容易にできる。判別後、威圧していけば、亡者は討伐され、他の魔物達は気絶する。上空を飛んで威圧するだけなので、人々に迷惑も掛けない。

大陸北半分に、デッドスクリーム・カムイ・ドールマクスウェルのSSランク3体、大陸南半分には、フロストドラゴンのドレイク・ドールXX・ドールXに行ってもらえば、1日くらいで亡者を駆逐できるだろう。

今回の大事件、私ではなく、従魔の強さで解決に導けば、私は強大な従魔を付き従える聖女として、崇められると思う。私や家族・友人達に手を出せば、従魔達が黙っていないしね。全ての行程を終わらせてから、私・ネルエルさん・ベルナデットさんは、ガーランド法王国に行けばいい。

「はあ~~、ブライアン…諦めましょう。シャーロットちゃんの案で行けば、各国も従魔を恐れて手出ししないわよ。こうなったら、とことんやってもらいましょう!」

ルルリア様が、遂に観念したようだ。何故か『もう、どうにでもなれ』と投げやりな表情となっている。

「陛下、ルルリア様の言う通りです! 今後、シャーロットがこの国に滞在する以上、覚悟を決めねばなりませんぞ!」

ヘンデル様も同じだ。完全に『後のことは知るか!』と吹っ切れた表情となっている。

「お前達……ふ、そうだな。後のことを考えている余裕はない。わかった……シャーロットの案を採用しよう。早速、臣下の者達に知らせる!」

国王陛下も、やっと重い腰を上げてくれた。
さあ、亡者達を一網打尽にしましょうか!!


○○○


許可は出たのだけど、臣下の人達を通り越して、勝手に実行してしまうと、後で非難されるため、国王陛下が特定の貴族達を会議室へと召集させた。そして、国外の亡者大侵攻について触れ、解決策の一つである【従魔による一斉討伐】を話すと、私の強さを知らない者達は、一斉に私を非難した。この事態は想定していたので、召喚される従魔が、どんな者達であるのかを説明すると、非難の声がピタッと止まった。そして、従魔の1体であるカムイが、ほんの少し彼らを威圧し強さを証明すると、臣下全員が私の案を了承してくれたため、私達はそのまま中庭へと移動した。なお、ガーランド法王国に関しては、従魔を放ってから話す予定となっている。中庭に出ると、オーキスを含めた騎士団達が訓練に勤しんでいた。理由を話したことで、訓練を一時中断してもらい、中庭中央を空けてもらった。

準備が整ったところで、国王陛下は拡声魔法を使い、緊急通信と言い放ってから、王都にいる国民達に、国外で起きている亡者大侵攻について通達した。この非常事態を早期に解決させるには、聖女1人では規模が大きすぎるため、今から聖女が従魔を召喚し、その従魔達が全ての亡者を討伐すべく動き出すことを懇切丁寧に説明したのだけど、召喚の際、決して驚かぬようにと、皆に強く強く強~~く訴えた。

国王陛下の通信も終わり、多くの人間達に注目される中、私は5体の従魔を召喚した。5体の大きさが全員バラバラであるため、召喚する際、全員が威圧感溢れるよう全長20メートル程に大きくなってもらった。当然、中庭に入らないので、全員が空中に浮いている。ただ、カムイは幼生体のため、雷魔法で自分の身体を覆い、フランジュ帝国で見せたライトニングドラゴン形態に変身してもらっている。こうして、総勢6体となる私の従魔達が揃ったわけだけど、その光景は圧巻の一言に尽きる。

デッドスクリーム……別名【死神】 
フロストドラゴンとライトニングドラゴン……最上位Sランクのドラゴン
ドール族3体……見たこともない奇妙な人形(日本人形と西洋人形)

国王陛下を始め、臣下の者達全員が空を見上げ、従魔達を見つめている。ドール族以外、エルディア王国でも知られている存在だ。そうそうたる面々のせいか、王都全体に、奇妙な静けさが漂う。国王陛下の言葉がなければ、これだけで大混乱に陥っていただろう。まずは、ドレイクと話そうかな。王都中に聞こえるよう、私も拡声魔法を使用しておこう。

「ドレイク、この場であっちの状況を言ったら、お尻ペンペンするからね」
「は! 絶対言いません!」

私の言葉が何を意味しているのか、6体全員が理解しているだろう。デッドスクリーム以外が、反射的に《ビクッ》と動いた。

「召喚前に言ったように、みんなにはアストレカ大陸中の亡者達を討伐してもらいます。威圧するだけで、奴等の負の念を切断できるから、基本、空を飛び回るだけでいいよ。デッドスクリームは、負の念を食べちゃっていいからね」

「ありがとうございます! 我にとっては、ご馳走ですな」

「「「シャーロット様、私達も食べていいですか?」」」
この質問を言ったのは、ドール族3体か。

「良いけど、食べれるの?」
「我々は人形のため、基本魔素を主食としますが、負の情念なども食べれます」

それは知らなかったよ。

「食べていいけど、従魔同士で喧嘩はダメだからね」
「「「ありがとうございます!」」」

一応、注意事項を再度言っておこう。

「みんな、各村や街を通り過ぎる時、必ず私の名前を言い、これから行なう作業内容も話しておくんだよ。それと、全員が分担して作業するように」

あと、これも従魔だけに、通信で伝えておこう。

《【コネクション】スキルを使って、私の魔力量と直結したよ。皆の消費MPに関しては、私の魔力を使っていくことになるから、気にせず飛べばいい。【マップマッピング】、【暗視】、【視力拡大】、【拡声魔法】もセットしておいたから、6体全員がこれらのスキルを使用可能だからね。カムイは、ここから北にあるガーランド法王国王都に必ず立ち寄ること。そこには、アッシュさんとトキワさんがいるから、挨拶しておいてね》

6体全員が、静かに頷いた。

「それでは作業開始!」

6体全員が、一斉に空高くに舞い上がり、二手に分かれて、一気に飛び去った。6体がいなくなった中庭では余りの出来事のせいか、皆、言葉を失っている。しかし、その状況の中、オーキスだけが足をフラつかせながら、私のもとに来た。

「シャーロット……あんな凶悪な魔物達をよく従魔にできたね?」

ふふふ、言われると思ったよ。その答えも用意してある。

「聖女というのは回復専門で、攻撃も防御も低く、か弱い存在でしょ? だから、私を守護してくれる攻撃専用の強い魔物が欲しかったの」

私がニッコリした可愛い笑顔で話すと、オーキスのホホがヒクヒクと動いている。

「あ…はは、だからって…Sランクの魔物達を、普通従魔にできないよ?」

オーキスの言葉に、周囲の者達が同調している。

「ハーモニック大陸で冒険している時、あの6体と出会ったのだけど、命の危険が迫った者、私と気が合った者、状況がそれぞれ違っているけど、みんなが私を主人として認めてくれたんだ。ちなみに、1番強いのは1番小さいカムイだからね」

「え!? あの小さいドラゴンが!? だから、常にシャーロットの側にいたのか!」

これで、【カムイが聖女を守護する存在だ】と、皆も理解したはずだ。

「私を誘拐しようとしたり、何かに利用しようとしたら、従魔達が容赦しないよ。彼らが怒ってしまうと、見境なく周囲を破壊すると思う。彼らにとって、人間の身分なんて関係ないからね」

この発言は、周囲にいる貴族達への牽制だ。相当な馬鹿でもない限り、私を利用しようとする連中も現れないだろう。

「でも、今回のように、従魔達全員を使ったら、私は無防備となってしまう。その時は、オーキスが私を護って。あなたの潜在能力は、カムイ以上にある。だから、強くなってね」

その瞬間、オーキスの顔が真っ赤になった。こんな顔も可愛いね。私の言った言葉は本当だ。勇者の場合、称号をランクアップしていけば、自動的に限界突破を果たす。つまり、いずれはステータス999以上の強さを身に付けることができる。

「ま、任せてよ! 必ず強くなる!」

さて、私の仕事は、ここで一旦中断だ。従魔達の成果を待とう。


○○○ カムイ視点


あははは、楽しいな~~~。魔物限定で威圧していくのが面倒いけど、空を自由に飛び回るのは久しぶりだ! マップマッピングのおかげで、僕達のステータス欄にアストレカ大陸の地図が表示された。行ったことがない場所だからか、細かな地形とかは表示されないけど、大陸全土が見れるだけで十分だよね。2人と相談した結果、マクスウェルは大陸北半分の左側、デッドスクリームが中央、僕が右側だ。ガーランド法王国は、大陸最北端にあるから、最後に行けばいい。おっと、この辺りで地上にいる人達に話しておこう。シャーロットが《拡声魔法にも、限界距離がある》って言ってたもんね。

「周囲にいるみんな~~、聞こえるかな~~。僕は、聖女シャーロット・エルバランの従魔カムイって言うんだ~~。大陸北半分の全ての国々において、亡者が大量発生しているようだね~~。大勢の怪我人と死者が発生したこともあって、怪我人の回復要請が、エルディア王国の聖女に届いたの。でも、規模が大きすぎて、全ての怪我人を診ることはできない。だから、従魔である僕達が、問題となっている亡者達を全て討伐していくことになったよ」

この通達だけは、きちんと実行しておかないと、僕がシャーロットに怒られちゃう。

「地上にいる魔物だけを威圧すれば、亡者だけを討伐できるんだ~~。討伐後、冒険者達は怪我人達を回復魔法で治療していってね~~。あとね、ガーランド法王国のせいで、亡者が大量発生したの。だから、聖女シャーロットは、2度とこの事態を引き起こさないよう、ガーランド法王国の法王のもとに行って、原因を探るつもりだよ。上手くいけば、隠蔽している全ての真実が明るみに出るよ。この辺り一帯の亡者達はいなくなったようだね~。怪我人の治療を頼むね~~」

よし、次の地域に移動だ!

時折、遠くにいるデッドスクリームの声も聞こえてくるから、打ち漏らしている地域もなさそうだ。このまま、作業を続行しよう。僕達が亡者達を討伐して、みんなを解放させるんだ!


……7時間後


はあ~~、大陸中を飛び回ったおかげで、僕のストレスも無くなったよ! どうやらデッドスクリームやマクスウェルも、作業を終わらせたようだね。シャーロットと直結してなかったら、僕達もMPを使い切っていたんじゃないかな? 僕は、このままアッシュとトキワのいるガーランド法王国の王都に行こう。この位置なら、10分程で到着だ。

周囲も暗いや。シャーロットのいるエルディア王国王都の時間だと夜9時、僕のいる場所は夜7時なんだ。なんで、表示される時間が違うのだろうか? まあ、いいや。アッシュ達に会いに行こ~っと!

あ、あれかな? なんか城壁が見えてきた。ガーランド法王国は、獣人の国と聞いていたけど、ここからだと全体の7割が獣人かな? 僕の姿が怖いのか、全員が一斉に僕を見て震えている。

「みんな~~、僕はカムイって言うんだ。聖女シャーロット・エルバランの従魔だから、何もしないよ。みんなに、良い知らせを持ってきたんだ。アストレカ大陸中に蔓延っていた亡者達は、僕達従魔が殲滅したよ。だから、怯える必要ないからね。それと、僕は……王都の何処かにいるアッシュとトキワの味方だから、何もしないよ~~」

あれ? 2人の仲間と言い出した途端、獣人達だけが尋常ないくらい怯え出した。そういえば、トキワが王都にいる敵味方全員を戦闘不能にさせたって言っていたよね? 多分、それでかな? 

「カムイ~~、僕とトキワさんはここだ~~~~」

あ、アッシュの声だ! え~と……いた!!!
このままだと降りづらいから、元の姿に戻ろう。

「アッシュ~~~トキワ~~~久しぶり~~~~」

あれ? アッシュの隣に、魔鬼族の女の子がいる。しかも、怯えているせいか、アッシュに抱きついているし! 少し後方にいるトキワがそれを見て、少しだけニヤケている。あ、これって、まさか!?

「あ~~~~~、アッシュが浮気してる~~~~~~!!! リリヤに言いつけてやる~~~~~」

「え、ちょっと誤解だ! 彼女は……」

え? アッシュも女の子もトキワも、急に倒れた! 
なんで? 周囲にいる人達も、次々と倒れ出した!

「僕、何も……してない……」

あ……しまった~~~~~~!!!

ず~っと、亡者達を威圧し続けていたから、スキル解除するのを忘れてた!!!
僕が驚いた拍子で、意識が亡者から人に切り替わったんだ~~~!!!

急いで、威圧を解除しないと!!!

《ピコン》
《従魔カムイが、やらかしました。内容は、威圧の標的を間違えて人に実施したこと。これにより、王都全域にいる人全てが気絶しました。手加減しているため、死者はいません。只今より、マリルがシャーロットに対し、お仕置き【グリグリ】を執行します》

え、なにこれ!?
なんで僕じゃなくて、シャーロットがお仕置きされるの!?

《ぎゃあああ~~~~、カムイ~~~~、なにやらかしてんのよ~~~。従魔のやらかし処分は、その主人に返ってくると言ったでしょ~~~》

あ!!!

《シャーロット~~~ごめ~~~ん。だって、アッシュが浮気していたから、驚いた拍子に、威圧の意識が亡者から人に向いちゃったんだ~~》

《ぐおお~~~、アッシュさんが~~浮気~~!? そんな馬…………》

あれ? シャーロットの気配が、急に消えた?
通信も、反応がない。また、地球に移動したの?

でも、あの時と違って、僕と明確に繋がっているのがわかる。 
まさか…










○○○作者からの一言

次回更新予定日は11/27(火)10時40分です。

次回、ガーランドと精霊が登場し、全ての真相が明かされます!
そして、誰かが……
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