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2巻

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 3話 初めての友達


 全ての準備が整ったのは良いけど、服装だけは変えようがない。学会のために新調したお気に入りの服が、衝突時の衝撃や訓練もあって、ところどころ破れている。できれば、魔人族の村で冒険者用の服をもらおう。さて下山して、あの森を突き抜けよう。それじゃあ出発!!
 ……この森、魔素濃度が山頂よりも大幅に低い。それでもエルディア王国に比べると、三倍くらいかな。普通の人間なら絶対に死んでるはずだけど、私には全く影響がない。
 それに、一時間以上歩いているのに息切れ一つしないし、魔物と遭遇そうぐうしても、戦おうと少し魔力を出しただけで相手が逃げるし、私の身体がどんどん魔王化している気がする。戦闘になっても、魔力を一切外に出さないように戦わなきゃ。
 はあ……この憂鬱ゆううつな気分から脱却するため、走ってストレスを解消しよう。


 おー速い速い。敏捷999だけあって、すごく速い。まだまだ速く走れそうだ。どんどん山を下っていくと、不意に何かが飛び出してきた。
 車は、急に止まれなーーーーい!!
 ――ドーーーーーン!!
 盛大に衝突してしまった。私は問題ないけど、相手は瀕死ひんしだった。
 ナマズのような顔、両サイドにある二本の口髭くちひげ、全身青色の硬そうな皮膚ひふに覆われた、全長二メートルほどの恐竜に見える。この子、すごくユニークな顔をしているね。
 可哀想だから回復してあげよう。

「ハイヒール」
「……!?」

 あ、気づいたようだ。こっちを見て威嚇いかくしている。まずは構造解析してみよう。


 名前 レドルカ
 種族 ザウルス族/性別 男/年齢 58歳/出身地 ケルビウム大森林
 レベル38/HP367/MP221/攻撃385/防御208/敏捷221/器用171/知力204
 魔法適性 雷・光・空間/魔法攻撃198/魔法防御178/魔力量221
 回復魔法:ヒール
 雷魔法:ライトニング・ライトニングボルト・ライトニングストーム
 空間魔法:テレパス
 ノーマルスキル:ライトニングファング Lv9/気配遮断 Lv9/魔力感知 Lv8/魔力操作 Lv8/魔力循環 Lv8/聴力拡大 Lv8/気配察知 Lv7/身体強化 Lv7/危機察知 Lv7/威圧 Lv5/短縮詠唱 Lv5/洗濯 Lv3
 ケルビウム大森林において、強さ(強S・A・B・C・D・E・F弱)はBランクに位置している。ザウルス族の指揮を担当しており、仲間たちからも認められている。ただ、気弱な性格のせいで、やや挙動不審なところがある。定期巡回のため、ザウルス族の縄張り周辺をパトロールしていたところ、山頂から一陣の風が吹いてきたので確認しようとしたら、シャーロットと衝突した


 このステータスでBランクか。Sランクは各ステータスが500以上だと聞いたことがある。この子は攻撃力特化のBランクってところか。威嚇いかくしているということは、格上だと気づいてないのかな? 『気配遮断』を使っているから無理もないけど。
 種族のザウルス族って魔人族とどう違うのだろうか? 『ザウルス族』の箇所をタップと。


 ザウルス族
 ハーモニック大陸にいる固有種。はるか遠くに存在する地球という惑星に、かつて住んでいた恐竜たちの子孫。神ガーランドが地球の管理者たちと協力して、この惑星に移動させた。当初は魔物扱いされていたが、現在は魔素のおかげもあって、知能がかなり進化しており、魔人語も話せることから魔物ではなく、ザウルス族と認知されるようになった


 ここで地球という言葉が出てくるとは思わなかった。絶滅する前に、こっちに移動してたんだ。魔物じゃないのなら話し合いはできるよね? 『威圧』はまだ制御が不完全だから、代わりに魔力をほんの少しだけ解放してみよう。『全言語理解』があるので、言葉は問題なく伝わると思う。

「あなた、私の声が聞こえる?」

 あれ? 話しかけた瞬間、後退りした。

「やめて、食べないでください。お願いします。どうか食べないでください」

 よし、伝わった!! でも、このおびえようは本気で怖がっている。

「一瞬感じた魔力で、勝てないことがわかりました。なんでもしますから食べないでください」

 正体不明で、魔力も異常に高いから怖がるのはわかるけど、私を見たら人間ってわかるよね?

「あの落ち着いて。あなたを食べる気ないからね」
「本当ですか!?」
「食べる気なら、こんな風に話しかけたりしないよ」

 私の言葉に納得したのか、この子はジロジロと見てきた。悪者なのか、観察しているのかな?

「……よかった、においや気配を探ったけど、悪い人間じゃなさそうだ。その……さっきはごめんね。気が動転しちゃって、ネーベリックのように僕たちを食べるんじゃないかと思ったんだ」

 ネーベリック?

「君、どうしてこんなところにいるの? もしかして、主人から捨てられたの?」

 ネーベリックという言葉が気になるけど、先に質問に答えよう。

「違うよ。簡単に話すと、アストレカ大陸にあるエルディア王国にいたんだけど、そこの偽聖女に逆恨さかうらみされて、転移石でここに飛ばされたの。あと、魔人語を完全に理解できるのは、スキルのおかげね」
「略しすぎだよ! 一応、大まかには理解できたけどさ。……まあ、こんな場所で嘘を言うとは思えないし、君もなんか複雑な人生を送っているね」

 恐竜にツッコまれるとは思わなかった。あれだけの説明でも理解してくれたんだ。何気なにげに賢い。

「私は、シャーロット・エルバラン」
「僕はレドルカ。ねえ……もしかして山頂から来たの?」

 そうか、山頂で訓練していたから、その魔力で周辺にいる人の方も気づいているんだ。

「そうだけど、それがどうかしたの?」
「じゃあ、あの強大な魔力の正体は君なのかい?」

 やっぱりたずねてくるよね。ここは正直に答えよう。

「うん、何かまずかった?」
「あのさ、この一週間で時折感じた巨大魔力がなんなのか、僕たちの救世主となりえるのか、森に住む種族たち全員が調査しているんだ」

 救世主? この森に何か危機が迫っているの?

「あなたたちが私に危害を加えないのなら、味方になる……かな?」
「ホント!? 絶対に危害を加えない、約束する!! だから、僕たちの天敵ネーベリックを倒して欲しい!!」

 下山途中で、いきなりイベントが発生したよ。私としても、まず仲間が欲しい。そのネーベリックというやつを倒せば、森に住む種族は、私の味方になってくれるかな?

「ちょっと待って。まずは落ち着こう。順に話してもらわないと意味がわからないよ」

 とはいえ、ネーベリックが何者なのか全くわからない。まずは、情報収集だ。

「あ、ごめん。救世主が現れたと思ったから、テンションが上がっちゃった。ネーベリックはタイラントレックス型のザウルス族なんだけど、他の仲間よりも大きくて凶暴なんだ」

 タイラントレックスって、ティラノサウルスのことだよね?

「その凶暴なネーベリックが、この森のボスなの?」
「いや、ボスじゃないよ。あいつは、僕たちの敵さ。今、ネーベリックのせいで、ケルビウム大森林の全種族が絶滅の危機にひんしているんだ。二十日前、ザウルス族、ダークエルフ族、獣猿族じゅうえんぞくの三種族だけで、協同でネーベリックに戦いを挑んだけど、敗北して十人くらいが食べられた」

 ネーベリックは、大昔の肉食恐竜みたいだね。

「レドルカ、タイラントレックス型って言ってたけど、その名前、誰が決めたの?」
「名前? 確か……ヴェロキのお母さんが言ってたよ。あいつはタイラントレックス、別名ティラノサウルスだって。あいつは凶暴だから、連携して戦わないといけないって、僕たちに連携方法を教えてくれたんだ」

 ……ヴェロキって、まさかヴェロキラプトル? きっとヴェロキのお母さんは、自分たちがヴェロキラプトルだから、子供にヴェロキって名づけたんだ。ティラノサウルスの件と言い、ヴェロキのお母さんは地球の知識を持っている。きっと転生者なんだろう。

「ヴェロキのお母さんは、今も健在なの?」
「……ううん、もう一人の子供、プードルの身代わりになって食べられた」

 プードル!? 

「差しさわりがなければ、そのお母さんの子供の名前を教えて」
「別に良いけど。三人いて、ヴェロキとラプトルとプードルだよ」

 ぐはっ!! やばい、噴き出して笑いそうになってしまった。不謹慎すぎる。いや、転生者ということは、きっとガーランド様のフォローが入るはずだから、そんなに深刻な気持ちになれないっていうのもあるんだけど……

「どうしたの? 震えてるけど大丈夫?」

 レドルカがうつむいている私を心配して、顔をのぞき込んできた。まずい、我慢がまんしないと。

「……くく……いや……大丈夫……可哀想だと思って…ね」

 ヴェロキのお母さん、そのネーミングは安直すぎる。ヴェロキラプトルだから、ヴェロキとラプトル、あと思いつかないからプードルにしたんだ。

「シャーロット、泣いてくれて、ありがとう。種族が違うのに、そこまで思ってくれるなんて」

 笑いを我慢がまんしたから、涙が出たとは言えない。誤解されたままにしておこう。
 あと、ヴェロキのお母さんのことは、機会があればガーランド様に聞いてみなきゃね。

「それで、現在はどうなってるの?」
「二十日前の戦いで、みんな大怪我おおけがを負ったから、それぞれ次の戦いに向けて回復中だよ。ネーベリックは強い魔物と戦うために、ケルビウム大森林の北側に移動した」

 ケルビウム大森林の北側? 山頂での訓練中、時折感じていた強大な魔力、あれがネーベリックだったのか。ネーベリックの強さは、ステータスの数値だと600~800ぐらいだ。他の人たちも、レドルカと同等の強さだとしたら、普通のやり方では絶対に勝てない。

「大体、事情がわかった。村で傷をいやし、力をめているときに、山頂から巨大な魔力を感じて、その正体を探ろうとしていたんだね?」
「そうだよ。多分、ネーベリックもかんづいて、近日中にこっちに戻ってくると思う。シャーロット、改めてお願いするね。どうか、ケルビウム大森林の救世主になってくれませんか?」

 レドルカのお願いを無視して森を抜けることも可能だけど、ここまで事情を知ったからには、ヴェロキのお母さんのためにも、協力するしかない。

「私で良ければ協力するよ」
「ホント!! やったーーーーー」
「喜んでいるところ悪いけど、私は実戦経験ゼロだから、みんなの協力がいるけど大丈夫?」

 初の実戦が、いきなり世界最強クラスの化け物とはね。

「もちろん!! いくら魔力量がネーベリックを超えていても、子供一人に戦わせないよ。みんなに紹介したいから、僕たちザウルス族の村に来てくれない?」

 よかった、協力してくれる。一人では、ティラノサウルスと戦いたくないよ。ただ、どうしてかな? それほど、怖さを感じないんだよね。

「いいよ。まずは、私の力を認識してもらわないとね」

 ザウルス族はどんな家に住んでいるのかな? ていうか、恐竜が家を建設できるのだろうか?


         ○○○


 ザウルス族の村は、ここから少し離れているという。歩いていくと、少し時間がかかるらしいから、今のうちにネーベリックや魔人族について聞いておこう。

「ケルビウム大森林にいる全種族が一致団結して、ネーベリックと戦ったことはあるの?」
「一年前に対戦したよ。結果はこちらが壊滅だった。あいつはみんなを食べることで、どんどん強くなっていった。二十日前の戦いでも大敗して、もう誰が挑んでも太刀打ちできないんだ。でも、シャーロットが参加してくれれば、ネーベリックに勝てる可能性が出てくる」

 食べると強くなるか。特殊なスキルを持っているのかもしれない。レドルカの味方となる以上、私の攻撃手段を教えておこう。

「私の攻撃方法は、かなり特殊でね、相手に触れないといけないの。当然、ネーベリックも、得体の知れない女の子を自分の間合いには入れないと思う」
「相手に触れないといけないの? 武器とかは?」
「必要ない。私の魔力は、ネーベリックよりも上だから、やつに接触できれば、『内部破壊』という特殊なスキルで倒せると思う」
「『内部破壊』? 聞いたことないスキルだ。倒せる可能性があるのなら、それにけるよ」

 会って間もない私の話をすぐに信用するとは……相当追い詰められている。ネーベリックを倒す手段はあるけど、ザウルス族たちと連携して近づく方法を考えないといけない。

「レドルカ、ネーベリックとは別に気になることがあるんだけど、私たち人間はハーモニック大陸にいる種族を総称して、『魔人族』と呼んでいるんだけど、どのくらいの種族がいるの?」
「ハーモニック大陸には、魔鬼族まきぞく、ダークエルフ族、鳥人族、獣猿族じゅうえんぞく、ザウルス族がいる。魔人族と総称しているのも、きちんした理由があるんだ。僕たちザウルス族が語り継いでいる歴史なんだけど、はるか昔の大戦争で、この大陸一帯の環境が激変して、魔素濃度が人間族のいるアストレカ大陸やランダルキア大陸よりも高くなってしまった。そのため一時期、この大陸に住む全種族が絶滅の危機におちいったんだけど、少しずつみんながこの魔素の環境に適応しはじめた。そして、数十年の歳月が過ぎる頃には、普通に生活できるようになった。そこで『魔素に打ち勝った偉大な人々』ということで、全員を『魔人族』と呼ぶようになったのさ」

 えー、初耳なんだけど!? こっちでは、魔の心にとらわれた悪鬼と語り継がれてきたよ!! 

「魔人族って、そんな偉大な意味があったんだ。全然、知らなかった」
「シャーロットは、どう聞いていたの?」

 言ったら怒るんじゃないかな?

「詳しいことは知らないけど……魔人族は、魔の心に支配された種族のことで、性格は残忍、傲慢ごうまん、野蛮、と最悪だから、仮に出会ったとしても近づいてはいけないと教わったよ。二百年前の戦争も、魔人族がアストレカ大陸を支配しようとして引き起こしたものの、戦争に負けて、ハーモニック大陸に逃げていって……」
「うっわ、なにそれ、どこの種族の話? こっちの歴史と全然違うよ。僕たちザウルス族は、森を出ないから詳しく知らないけど、さっきも言った通り、魔人族ははるか昔からこの大陸に住んでいるよ。それに、魔人族がアストレカ大陸に攻めていったんじゃなくて、人間やエルフたちがハーモニック大陸に攻めてきて、大敗して逃げ帰ったの」

 完全に逆じゃん。こういうときは、相手のことを悪く言う方が嘘をついているもの。大方おおかた、『種族としてのプライドが許さない』というしょうもない理由で、人間側が歴史を改竄かいざんしたんだ。大陸間が離れているから、真実を知ることもできない。それと、ランダルキア大陸の国々はその戦争を傍観するだけで、何もしなかったと教わった。おそらく、両大陸からの有益な資源を失いたくないから、完全中立を維持したんだ。

「そういうことか……教えてくれてありがとうね。この森には、全種族がいるの?」
「昔はみんながケルビウム大森林に住んでいたんだけど、人口が増加したことで、各種族の多くが出ていって、あちこちに国を作ったよ。といっても、森には少ないけど今も全種族がいて、ネーベリックと戦っているんだ」

 当初、環境に適応した人たちは、この森に住んでいたんだ。ここが魔人族発祥の地なんだね。

「あ、村が見えてきた。シャーロットをみんなに紹介するね。さあ、行こう」

 ザウルス族の村か。ネーベリックを倒すためにも、まずは恐竜たちとお友達になろう。



 4話 ザウルス族の村


 ザウルス族の村に着いた。けれど、ここはひらけた場所というわけではなく、他のところよりも木々の間隔が広いくらい。家は一軒もない。あるのは、直径四メートルくらいの鳥の巣のようなベッドだけ。それが、あちこちに点在している。
 そして、肝心かんじんのザウルス族は……ここから見える範囲だと、全長二メートルくらいのヴェロキラプトル、全長二メートル五十センチくらいのデイノニクス、全長一メートルくらいのコンプソグナトゥス、全長五十センチくらいのミクロラプトル、全長一メートル~一メートル五十センチくらいの様々な恐竜の特徴が混じった雑種など――二足歩行の小型恐竜ばかりだった。

「ねえレドルカ、もっと大きなザウルス族はいないの?」
「そんなのは、ネーベリックだけ。はるか昔には、大小様々なザウルスたちがいたらしいけど、まず敏捷性の低い四足歩行のザウルスたちが、魔物の獲物となって大小問わず死んでいった。次に、二足歩行の巨大なザウルス……だったかな?」

 レドルカって、千年以上前の歴史も知ってるんだ。

「二足歩行の大型ザウルスは、なんで死んだの? 敏捷性もあるし強いでしょ?」
「ドラゴンに食べられたんだ。巨大なドラゴンからすれば、僕らも人間と大差ないからね。大きい分目立つし」

 納得。ドラゴンは小型でも全長八メートルと本にあった。中型以上に空から襲われれば、ひとたまりもない。自然淘汰とうたの末に、敏捷性があって小型なザウルス族たちだけが生き残ってきたわけか。

「それなら、ネーベリックだけどうして大きいの?」
「そこがわからないんだ。ネーベリックの全長は十メートル。そもそもやつは、この森には住んでいなかった。五年前、ジストニス王国の王都方面からやって来たのさ。多分、王都に行けば、何かわかると思うけど、今は戦力を減らしたくないから、偵察にも行けないんだよ」

 これは、何か事情があるね。あ、一頭のヴェロキラプトルが近づいてきた。

「レドルカ、偵察ご苦労さん。そんで、そこの人間はなに?」

 結構迫力あるな。深緑に覆われた硬い皮膚ひふ、前足の先にある鋭利でカーブした鉤爪かぎづめ、筋骨隆々の後足、ある一点を除いて、映画で観たCGのヴェロキラプトルだ。そのある一点とは目だ。映画では鋭い目で、獲物をにらみつけるけど、このザウルスからは鋭さを感じられない。どこか、温和そうな雰囲気ふんいきを感じる。他のザウルスも同じ感じだ。

「ヴェロキ、この子が山頂の巨大魔力の正体だよ」

 ああ、この人がヴェロキさんなんだね。

「……冗談じょうだんでも笑えないぞ」
「見た目だけは、普通の子供だからね。シャーロット、『威圧』使える?」
「スキルはあるけど、まだ加減できないよ?」
「あ、それはダメだ。下手すると僕もヴェロキも死んじゃう。僕と会ったときみたいに、魔力を十秒ほど外に出してくれない? 『威圧』とは違うけど、魔力の大きさや質は伝わるんだ」

 レドルカと出会ったときの対処は、あれで合っていたのか。

「でも、いいの? あのときのレドルカのようになるよ?」
「『威圧』よりマシさ」

 仕方ない、ヴェロキさんには悪いけど、信用してもらうためにも少し魔力を解放しよう――

「………………」

 あ、ヴェロキさんが目を大きく見開いたまま固まった。後方にいる他のザウルス族たちも固まってしまった。これで私の魔力量が、ネーベリックよりも大きいということが証明されたかな。

「ヴェロキさん、私はシャーロットと言います。レドルカから、ネーベリックの話を聞きました。私は、あなたたちの味方です。敵意を見せない限り、私からは何もしません」
「本当に、俺たちの味方? ネーベリックと戦ってくれるのか?」
「はい。ただ、実戦経験がないので、あなたたちの協力が必要となります。私がネーベリックの頭部に触れることができれば、倒すことは可能です。そうですね……そこの古びた鎧や剣で、私の攻撃方法をお見せしましょう」

 すぐ近くにあった大岩に、古びた鎧や剣が置かれている。サイズが違うから、他の種族の戦死者が使っていたものだろう。まずは、鎧を構造解析する。材質は鋼鉄、金属にも微量の魔素が含まれているため、全ての魔素を瞬時に暴れさせ……一気に外に押し出す!! 
 パアアァァァーーーーーン!
 大きな音とともに、鋼鉄製の鎧が粉々になった。

すごい。『内部破壊』って、本当に内部から破壊されるんだ。これ、僕たちにもできるかな?」
「そこは、よくわからない。対象に含まれる魔力や魔素の位置を正確に把握はあくして、それを自分の『魔力操作』で暴走させるの。少なくとも『魔力操作』を極めていないとできないと思う」

 ああ、全員から吐息といきが漏れた。

「でもよ、なんらかの方法でネーベリックの動きを止めることができれば、シャーロットのそのスキルで勝てるんだよな?」
「ヴェロキさんの言う通りです。この攻撃は相手の防御やスキルを無視するから、誰にでも通用します」

 その瞬間、周囲がざわめき、歓声へと変わった。他のザウルス族も、レドルカ同様、私の気配とにおいから人柄ひとがらを判断して、信用できると思ったのだろう。みんなが涙を流し、戦意がみなぎってきているのがわかる。

「レドルカ、ザウルス族は何人いるの?」
「全部で二百人くらいかな? ただ……その中でもやつと戦えるのは三十人くらいしかいない。というか、今この場にいる連中のことだね。他のみんなは……あまり言いたくないけど、手や足を失ったせいで戦力にならないんだ」

 二百人!! 一つの種族が二百人しかいないって絶滅寸前じゃないか!! そうなると、まずは全員を回復させる必要がある。今の私なら、リジェネレーションの範囲もかなり広いはずだ。周囲五百メートル以内に設定して、みんなを回復させよう。

「レドルカ、私は回復魔法のリジェネレーションを使えるの。今から全員を完治させるね」
「え、あの上級魔法を使えるの!?」
「うん。しばらくの間、動かないようにと、怪我けがしてる人たちに伝えて欲しい」
「わかった。みんな、シャーロットの話を聞いたよね? 急いで、全員に通達して!!」

 ザウルス族たちが一斉に動き出した。北の方向から感じるネーベリックの気配は、まだ動きを見せていない。やつがこっちに来る前に、全ての準備を整えておこう。


         ○○○


 現在、リジェネレーション使用中のため、私は動くことができない。魔物が接近した場合は、私の『威圧』で排除すればいい。怪我けがの酷い者たちだけ、構造解析をおこなって治療速度を速めている。
 私は隣にいるレドルカやヴェロキさんから、現在のザウルス族の最大戦力となる者が誰なのか、特殊攻撃をできる者はいないかなど、色々と聞いてみた。
 しかし、ネーベリックは『状態異常耐性』を持っている上に、最大攻撃力423を持つデイノニクスのデイドラさんでも、全く歯が立たないらしい。彼も私のすぐそばにいるので、色々と聞いてみよう。
 デイノニクスのデイドラさん、薄い茶色の毛と濃い茶色の毛がしま模様となって、身体全体を覆っている。頭の上にトサカのようなとげが数多くあるのが特徴的だ。彼は、レドルカやヴェロキさんと違って、雰囲気ふんいきがどこか大人っぽい。

「デイドラさん、あなたの最大攻撃でも、ネーベリックは無傷だったんですか?」
「悔しいが、全くの無傷だ。あの硬さは異常だ。しかも、ヴェロキたち三兄妹の連携攻撃さえ軽々と回避する敏捷性もある。やつの力はSランク、数値で言うなら600以上はある。おまけに、『身体強化』のレベルも高いから手に負えない」

『身体強化』? 私は、まだ持ってない。

「私は『身体強化』を持っていません。習得方法を教えてくれませんか?」
「なに、それはまずい。このスキルは、基本ステータスの数値を底上げしてくれる便利なものだ。リジェネレーション中だが、『魔力循環じゅんかん』と『魔力操作』を使用できるか?」
「もう慣れてきましたから、そのくらいなら大丈夫です」
「よし、血液に流れている魔力を、身体全体にある筋肉の中に染み込ませるんだ」

 ふむふむ、身体の中にある魔力を効率的に活用するんだね。そうなると、筋肉ではなく、細胞に染み込ませるようにしよう。ただ、細胞がつぶれないように、少しずつだ。

《身体強化Lv5を取得しました》

 ……呆気あっけなく取得してしまった。しかもレベル5だ。

「ありがとうございます。『身体強化』レベル5を習得できました」
「「「な!?」」」

 あれ? なんかまずかった?

「シャーロット、習得するのが早すぎるよ!! デイドラがしゃべって、数分しか経過してないよ!! 普通は、最低でも一日くらいかかるんだよ」

 ええ、そうなの!? 

「筋肉に染み込ませても不完全だと思って、細胞に染み込ませたんだけど?」
「「「細胞?」」」
「簡単に言うと、身体の臓器とかを構成しているものだね。細胞が集まって組織になり、組織が集まって臓器になるの。三人も筋肉ではなく、もっと深いところをイメージして魔力を染み込ませたら、スキルレベルが上がると思うよ」
「身体を構成するものか。レドルカ、ヴェロキ、やってみよう」

 三人が瞑想めいそうした。三人のスキルレベルは、どこまで上がるかな?

「僕の『身体強化』が7から8に上がった!!」
「レドルカ、俺も同じだ。あとで、ラプトルとプードルにも教えないと」
「私は、7から9に上がった。こんな簡単に上がっていいのか?」

 多分、デイドラさんのイメージが上手いんだ。あと、これまでの経験もあると思う。早速、『身体強化』を構造解析だ。


 身体強化
 体内にある魔力を身体の組織に染み込ませることで、身体全体が強化される。また、染み込ませた魔力に属性を付与させれば、強化率もさらに上昇し、扱い次第では弱者でも強者を打ち破ることができる


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