婚約破棄を卒論に組み込んだら悪魔に魅入られてしまい国から追放されました

犬社護

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第一章 不遇からの脱出

二話 共通事項は《卒業論文》

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 お父様たちが激怒して出て行くくらいだから、通常の病気ではない。

「え~と……その……《知恵熱》だそうです」

 原因を聞いた途端、顔面の筋肉がひくつく。

「マジで?」
「……はい」

 そりゃあ、激怒するのも無理ないか。

 初等部・中等部・高等部、それぞれが三学年あり、最終学年最後の月に《卒論発表》がある。この内容次第で、これまで築いてきた高成績がひっくり返る可能性もありうる。たとえ、知識や技術が優れていても、それを活かし国に貢献できなければ意味がないからだ。

 しかも、王族貴族のみに限り、中等部の評価次第では、もれなく平民落ちもありうる。実力のないものは、どんな身分であろうとも、容赦なく切り落とす。そういった実力社会だからこそ、今の治世が築かれている。そして、その卒論の規準には……

《発表者自身がテーマを考え、魔法を使って、何らかの目新しい成果を出すこと》

というものがあるため、今の私の状況は非常に危うい。

 私には、魔力そのものがないのだから。
 卒論発表を二ヶ月後に控えているにも関わらず、研究は全く進んでいないし、タイトルすらも決まっていない。

 平民落ちがほぼ決定しているからこそ、口調だって誰からも咎められることはない。王族としての教育も必要最小限に抑えられているから、環境だけで言えば、卒論に集中できるのだけど、そのテーマについて王城の私室で散々悩み抜いた結果、知恵熱を発症させ、丸二日寝込む王女ってどうよ? 

「それだけ追い詰められていたんだ。ルミネ、まだ体調が万全じゃないから、もう少し寝ておくわ。それと、今日の夕食はここで食べるから、料理長には悪いけど、胃に優しいメニューに変更とだけ言っておいて」

「はい、わかりました。ティアナ様、厳しい状況なのはわかりますが、無理をなさらないでくださいね」

 ルミネがそっと出て行き、一人ぼっちとなったことで、頭の中にある記憶の荒波が落ち着きを取り戻し、もう一人の女性の正体がわかった。

 あれは、前世の私。
 前世の名は野川悠陽(ノガワユウヒ)。
 享年二十二歳。

 バスの中で卒論のスピーチ原稿をパソコンに入力していたところ、バスが大型トラックと衝突し、私を含めた乗客の一部がその弾みで外に投げ出された。そこからの記憶がないということは、そこで死亡したのかな。

「このタイミングで、前世の記憶を思い出すか。卒論絡みだから、思い出したのかもしれない」

 初等部では成人していない子供(十五歳未満)ということで、その規準も甘く設定されている。

《魔法で何らかの目新しい成果を出すこと。ただし、独力で発表しても構わないが、補助となる研究協力者を一人指名して発表することも可能である》

 私も、この規定のおかげで辛うじて卒業することができた。でも、中等部からは最終学年で成人することもあって、自分自身の力で魔法を使用し、目新しい成果を出さなければならない。

 そこに、私の入部している魔導具開発クラブの品評会も一ヶ月後に控えていることもあって、同時並行で事を進めていたのだけど、事情を知るクラブ顧問の先生が心配してくれたのか、私に四日間の休みを与えてくれた。丁度、明日と明後日が二連休の祝日となっている。私は卒論だけに集中すべく、誰の邪魔も入らぬよう、寮から王城にある私室へと移動したのだけど、そこでまさかの知恵熱で倒れてしまい、丸二日うなされる羽目になるとは思わなかった。

 せっかくの休みが、無駄になってしまったわ。
 前世の記憶を利用して、この状況を打開できないかな? 
 蔑称《魔抜け王女》《欠陥品》の殻を打ち破りたい。
 でも、そのためには魔法を必ず使用して、卒論を完成させないといけない。
 魔法を使用するには、魔力が必要となる。
 私には、その魔力がない。
 この根本的原因をなんとかしない限り、私には明日がない。
 この考えがずっと頭を占有していて、私は知恵熱を発症した。

 かなり厳しい状況だけど、私は絶対に諦めない。

 前世の私は、頭こそ良くなかったけど、超前向きな性格をしていた。高校の期末テスト中に腹痛を急に発症させてしまい、我慢しながら試験を受けたことで、その日行われた一科目の試験成績を大幅に落とすことになろうが、テニスの部活中に足を骨折しレギュラーから外されようが、親友に恋人を奪われようが、全てのマイナス面を素直に受け止め、前へ進んだ。

 その性格が今世に少し影響したのか、絶望的な状況であっても、私は諦めずに前へ進もうとしている。このまま何もせず、落第してたまるもんですか。

 不意に、部屋の外から騒がしい声が聞こえてくる。

『…ドル様、困ります。ティアナ様は目覚めたばかりなんです』
『風邪とかならともかく、知恵熱だろうが。この私が見舞いに来たんだ。入らせてもらうぞ』
見舞い相手に対し一斉の配慮もなく、圧迫感だけを与える冷徹な声、その主はノックもせず、無断で私の部屋へ入ってきた。

「やっと起きたようだな、《魔抜け》」

 見舞いにやって来た途端、いきなり蔑称で私を蔑む容姿端麗な金髪イケメン男。
 この人が私にとって天敵とも言える相手、第一王子ウィンドル。
 私の兄だ。
 
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