婚約破棄を卒論に組み込んだら悪魔に魅入られてしまい国から追放されました

犬社護

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第一章 不遇からの脱出

六話 想定外の治癒

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 私の額から、嫌な汗が滴り落ちる。
 この質問で、キューブがどう回答するのか、それで私の人生が大きく左右される。

「デモンズキューブ、あなたは【候補者】と呼んでいるけど、私は魔力欠損症という病気で、魔力を有していないのだけど?」

 さて、どう返答してくる?

【全ての生物は、必ず魔力を有している。何らかの要因で、人の持つ魔力の器にヒビが入り、魔力生成機構に欠陥が生じてしまい発症するのが魔力欠損症、他者が患者の魔力許容量内に収まる無属性魔力で、欠損部位を薄くコーティングすれば、それが定着し容易に完治する。ティアナ・アレイザードの持つヒビに関しては、ここに入った時点で治療済だ】

 ………え? 今、大変な事を言われたわよね? 

【我の魔力で魔力生成器官を全て覆っておいた。今後、二度と欠損することはない】

 魔力の器…ヒビ…魔力生成機構に欠損…既に治療済…え…治療済!? 
 つまり、今の私の身体には魔力が流れている?
 唐突にそんな事を言われても、全然実感が湧かない。
 本当に、治療済なの? 

 これまでこの病気に関しては、どの国の研究者であっても、原因の糸口すら掴めていないから、完治不可能とさえ言われている。それをこうも簡単に原因と治療法を言い放ち、治療済と言われても、すぐに信じられない。

【それでは、今から選別試験を始める】

 心は混乱で吹き荒れているのに、キューブはそんな私の状況を気にすることなく、先へと進めていく。

【選別試験】、キューブがそう言い放つと、私たちのいる場所の近辺の地面から、直径二十センチほどの五つの台が等間隔で迫り上がってくる。台の上には、一辺センチ程の立方体が置かれており、その外観があまりにも悪趣味なデザインだったため、全員が顔を顰める。
 
 立方体の六つの面には、悪魔が天使の脇腹を齧り付く場面・悪魔が人間の腕を齧り付く場面・悪魔が神の下半身を食していく場面、天使も人間も神も、悲鳴をあげ苦痛で顔を歪めている。これら三つが各二面ずつに描かれており、どれもが残酷に表現されている。

【今から三十分後、その絵柄となるパズルをばらす。九十分以内に、元の絵に戻せ。この制限時間を迎えても戻せない者は、我の糧となる。四十五分から九十分以内に戻せた者は帰還できる。四十五分未満で戻せた場合、その者は我デモンズキューブNo.3の継承者になってもらった上で、参加者全員を帰還させる。まずは三十分間の猶予をやろう。その間に、絵柄を記憶し、攻略法を考えろ。試験中、いくつかの仕掛けを発動させるから、そのつもりで身構えておけ】

 声が聞こえなくなった。

 このギミック、一面三×三で分割されているから、地球のルー○ックキ○ーブと似ているけど、その難易度はこちらの方が遥かに高い。不気味な絵柄、悪魔側は暗い色彩となっており、それとは逆に人、天使、神側の方は明るい。絵自体もプロの画家が描いたかのような繊細さ、おまけに立体感もあり、色合いも似ているからこそ、揃えづらいし記憶もしづらい。

 私たちは近場に置かれているギミックへと歩き、それをじっくりと観察する。

「何のために…俺は…仮にここを脱出できたとしても…詰んでいる…取り返しのつかないミスを…俺は…」

 兄は、ショックから未だに立ち直れていない。
 何もしなかったら、ここで死ぬ。
 脱出できたとしても、キューブを解放した犯人として処罰される。
 八方塞がりの状態だもの、すぐには復帰できそうにない。
 クリス様はどうかしら?

「ただの色だけならともかく、こんな複雑でわかりにくい絵柄を元の配置に戻すのは無理よ。それに、この蒸し暑さのせいで、頭も回りにくくなっているし…それでもやるしかない。ここから脱出するには、パズルを解くしか道はない。……諦めないわ‼︎」

 嘆いてはいるけど、諦めたわけじゃない。

 当然、私自身も諦めていないのだけど、さっきから身体がおかしい。三十分しかない以上、時間を無駄にしたくないのに、お腹周辺がムズムズする。腹痛とは少し違うし、この感覚は何なの? もしかして、本当に病気が完治したせいで、私の中で魔力が作られている?

 そんな中、今まで黙秘を貫いていたミルフィア様が大声をあげる。

「みんな、ごめんなさい!!」

 私たちはその声で一斉に顔を上げ、ミルフィア様を見る。

「私がきちんとウィンドル様と向き合っていれば、《キューブを解放させる》という手段を取らせなかった。全部、私が悪いのよ‼︎」

 急に声をあげるものだから、何を言うのかと思ったら……決して間違いではないのだけど、そこまで責任を負わせるつもりはない。私がフォローしようと口を開く前に、クリス様がキューブを台にそっと置き、ミルフィア様を見つめる。

「ミルフィア様、顔をあげてください。私もティアナ様も、あなたのことを恨んでなどいません。そもそも、ウィンドル様は私たちに対して、本性を隠していました。多分、クラス全員が気づいていないと思います。仮にきちんと話し合えたとしても、本音を言わなかったと思います。そうですよね、ティアナ様?」

 私の言いたいことを言ってくれたようね。

「ええ、その通りです。まあ、兄は私の前でだけ本性を露わにしてミルフィア様の文句を多々言っていましたが、あそこまで歪んでいるとは思いませんでした。そう言う意味合いでは、言わなかった私も悪いです。それに、元々キューブは私たち四人を生贄として選んでいたようですから、誰がどんな行動を起こそうとも、結局ここに来る運命だったんです。ですから、責任を感じる必要性はありません」

 私とクリス様がフォローしたこともあり、ミルフィア様の表情が柔らかくなっていき、一筋の涙が地面に落ちる。それを見たクリス様が彼女のもとへ行き、優しく抱きしめる。これが、本当の《友》といえる関係なのでしょうね。

 学園のクラスメイトとなる貴族の殆どが、王家に繋がりを持ちたいという意味合いで、私に近づいてくる。下心が丸見えだから、私はそういった人たちとの会話を最小限にしている。逆に、平民の人たちは私に同情してくれることもあり、親身になって私の将来について考えてくれている。

 そのため、お友達の殆どが平民だ。

 貴族の中で、あそこまで真剣に考えてくれる仲間は何人いるのだろう? 
 クラスメイトたちは?
 クラブメンバーは? 
 私の家族は?

 昔のように殻に閉じこもるほどの人間不信には陥っていないけど、それでも真に私のことを思ってくれる人は、学園や王城に何人いるのだろう?

 でも、これだけは言える。

 ミルフィア様は、あの事故以降も、私を差別することなく、一人の王女として接してくれる大切な友達よ。

「ミルフィア様、私たちはあなたを恨んでなどいません。さあ、前を向いて、この強敵キューブを討ち祓いましょう」

 私の言葉がきっかけとなり、ミルフィア様の身体から力強い何かが溢れ出してくる。
 何かオーラのようなものを感じる。
 あれって何だろう?

「ありがとうございます…二人共…ありがとう」

 感動的な光景なんだけど、兄だけが私たちを強く睨んでいる。この人に限り、どちらに進んでも地獄である以上、何かを仕掛けてくる可能性が高い。それなら、そうなる前にこちらから一手仕掛けましょう。

「お兄様、私はキューブ解放の件を、墓場まで持っていくつもりです」
「な!? 貴様、俺に情けをかけるつもりか!?」

 案の定、兄は怒りを露わにする。
 この人は私に対して、何故か強い反発心を持っている。

「お兄様、冷静に考えてください。デモンズキューブともなると、帰還できただけでも、周辺諸国も黙っていません。あなたがキューブを解放したと知れ渡れば、当然相手はそこに漬け込み、内部崩壊を狙ってくるでしょう。最悪、国が滅びます」

 これは、脅しでも何でもない。
 本当に、そうなる可能性が高いのよ。
 
 兄が、キューブの力をどこまで把握しているのか不明だけど、解放の件を私たち以外に知られるわけにはいかない。

 それが父や母であってもだ。

「キューブ解放に関しては、あくまで事故で発生したと話すべきです。どうせ四人共吸引される予定だったのですから、言わなくても何の矛盾も発生しません」

 兄もその危険性を理解したのか、何も言わなくなると、そこへミルフィア様からの援護が放たれる。

「ウィンドル様、私もティアナ様の意見に賛成です。あなたが、何故私やティアナ様を殺そうとしたのかはわかりません。ですが、解放の件に関しては、私もクリスも絶対に他者に言いません。勿論、私の両親や国王陛下、王妃陛下にもです」

「私も、ティアナ様やミルフィア様の意見に賛成です。ウィンドル様、帰還するためにも私たちに協力してください」
 
 クリス様にも言われると、兄は深く項垂れてしまい、両拳を握り締めたまま何も言わない。自分のプライドが邪魔しているのだろうけど、このまま問答を続ければ、全員が間違いなくキューブの贄となってしまう。時間も惜しいから、早く判断して欲しい。

「……わかった、協力しよう」

 兄はそう告げると、近場に設置されているキューブのギミックを持ち、一人黙々と熟考していく。とにかく、これで場が鎮まったのだから、次の段階へ移行しよう。ここからは少し場違いなことを言うけど、誰が私に協力してくれるかな?

「あの~ところで、誰か私に魔力の扱い方を教えてくれませんか? キューブに言われて確認したのだけど、さっきからお腹付近が猛烈に熱くなってきてるの」
 
 そう、さっきからお腹周辺が、どんどん熱くなっている。
 身体の奥底から、何かが溢れ出ているかのような感覚なのよね。

 私がお腹をさすると、ミルフィア様は涙を拭い、これまでの不安げな顔を吹き飛ばし、覚悟を決めて私の元へやって来る。

「ティアナ様、私が教えます!! クリス、悪いんだけど、ウィンドル様と二人で先にパズルの攻略方法を探しておいて。私たちも、すぐに実行するから!!」

「了解です!! 良かった、いつものミルフィア様に戻ってくれたわ」

 私の力が役立てるのか不明だけど、何故か私だけ感情もあまり乱れることなく対応できている。

 この状態なら、これから習う方法で、冷静に魔力を行使できるかもしれない。
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