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第二章 波乱の魔導具品評会

二十三話 突然の誘拐

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 あ~まずったな~誘拐されちゃったな~どうしようかな~(棒読み)
 誘拐された目的も丸わかりだな~(棒読み)
 犯人も、察しがつくな~(棒読み)
 手足も縛られて、わ~怖いです~と叫んじゃおうかな~(棒読み)

 護衛のルミネがスウェンとの訓練で離れている放課後に狙われたのだけど、実行犯は中々の手練れね。私が皆と別れて学園の廊下を一人で歩いている時に、後方から気配なく目隠しと猿轡を一瞬でされてしまい、腹に一撃をもらい、ぐらついた私を易々と担ぎ上げると、すぐに頑丈な箱の中に入れ蓋で覆い隠し、それを台車に乗せ学園内を歩いていき、堂々と学園の敷地外に出たのだもの。私が暴れても衝撃吸収材で四方を覆っているのか、誰一人怪しむ者はいなかった。視界がゼロでも、人の声の感じで様子がわかる。

 品評会まで残り一週間、高等部メンバーの魔導具開発で、何かトラブルが起き途方に暮れている場合、そろそろ追い詰められている頃合いだから、何者かが何かを仕掛けてくると思ったのだけど、結構大胆な手段を使ってきたわね。

 犯人って……本当に私の掌の上で転がってくれるわよね~。
 誰なんだろうね~。

 こいつらの目的は一目瞭然。
 私は絶対に殺されないと断言できる。
 ただ、実行犯も馬鹿じゃない。

 これだけスムーズに誘拐しているのだから、私があえて隙を見せていることに気づいているはずよ。とりあえず、目的地までは静かにしていよう。

○○○

 外から聞こえてくる台車の音、賑やかな人々の声、実行犯は何も語らず、只管目的地に向けて私を運んでいる。

 あれから一時間ほど経過したのか、遂に変化が訪れる。

 ドアを開く音がして以降、鳥の声などが一切なくなり、静けさだけが漂うようになった。周辺から人の気配を感じるから、多分家に中へ入ったのだと思う。そこから台車の音が止み、箱ごと持ち上げられ、多分階段を降りているような感覚を感じ、そして再びドアが開いたところで、箱が床へと置かれ、蓋が開かれる。

「姫さん、長いことすまん。到着だ」

 私は実行犯に優しく出され、目隠しと猿轡も外され、紐できつく縛られた手足も解放されたので、ゆっくりと立ち上がり、背伸びをする。実行犯の顔を拝もうとそいつのいる方を振り向くと……

「ねえ、それは何の真似よ?」

 私の目に飛び込んできたのは、馬のお面を被った一人の男。

「はは、悪い悪い。誘拐初日だから、あんたに恐怖を与えないよう、依頼人から言われているんだ。俺の素顔を知られたくないという意味もあるけどな」

 明るく快活な男ね。
 背丈、骨格、服装から判断して、二十代の冒険者ってところか。
 今のところ、好印象だわ。

 改めて部屋を見渡すと、広さは十五畳程度、一面がグレーの壁で覆われており、換気扇が一つ、冷暖房魔導具が一台、窓だけが一つもないことから、ここは地下室だと思う。

壁際には立派な机が配備されており、そこに一枚の大きな紙が広げられている。そこへ歩いていき内容を確認すると、案の定私の描いたものをコピーした設計図なのだけど、どこか乱雑で描かれているためか、細部がわかりにくい。

「これは依頼主からの命令だ。『その設計図に描かれている魔導具を四日以内に完成させろ』。材料に関しては、そこに置かれているものを使用しろだとさ」

 馬男の指差す方向には、長方形の箱が置かれており、中には無垢の小さな金属、魔導具回路に必要なレアメタルの配線と魔石などが入っているのだけど、どれもこれもが何の加工も施されていないし、そもそも部品が足りない。

「はあ~」

 犯人は、《魔導具製作士》という職業を持つ者全員を馬鹿にしている。設計図と適当に用意した材料だけで、誰もが認める魔導具なんて製作できるわけがない。ましてや、一人で四日以内に製作しろだなんて不可能よ。

 本来、こういった未加工の部品を金属の成型や変型に長けた《加工技術士》たちに依頼し、魔導具製作士が完成された加工品を基に、魔導具を形成させていく。仮に加工品が完成しても、製作者の求める性能でない場合、再び加工技術士に金属の加工を依頼し、再度加工された部品を組み込み、性能をチェックしていく。こう言った流れ作業を焦らず着実に進めていくことで、製作者の求める理想的な魔導具が完成する。私一人で、金属の加工なんてできるわけがない。そもそも、ここに金属を加工させるための特殊器材が一つも置かれていない。

「おいおい、ため息なんて吐いてどうした?」
「あなた、わかってて言っているでしょう?」

 こいつは一見飄々としているけど、只者じゃないと理解できる。
 この男から感じる雰囲気は、ルミネと似ている。
 それに、悪意や殺意を感じ取れない。
 だからこそ、今から言う言葉を依頼人に伝えてくれると信じたい。

「ねえ、あなたの役目は何処までなの?」

「お、そこを追求する~さすがだね~姫さん。俺は、君をここへ運ばせるだけの運搬屋だ。俺がここを離れても、一階には姫さんを見張る荒くれ者たちがいる。一応、君のお世話は、女がやる手筈となっているから安心してくれ」

 荒くれ者ね、どうせ期限ギリギリになっても捗らないようなら、私を精神的に脅して無理矢理製作させようという腹づもりね。ふふ、もうすぐお別れするのなら丁度いいわ。

「それなら、今から伝える動作と言葉を依頼主に伝えて。ほら、これが依頼料。少量だけど、ミスリルだからそれなりに高値で売れるはずよ」

 私は無造作に放置されている材料の中から子供の拳ぐらいの金属の塊を取り出し、馬男へ乱暴に投げる。彼は全く焦ることなく、それを余裕で受け止める。

「あはは、始めから製作するつもりはサラサラないってか‼︎ いいね面白い、必ず伝えよう」

 私は、右手人差し指を自分のコメカミ付近を小突く。
 そして、あの言葉を告げる。

「『お・前・は・馬・鹿・か? 魔・導・具・製・作・を・舐・め・る・な。もう容赦はしない。絶望を与えてやるから覚悟しておけ』よ」

「姫さんは面白いな~~。俺の見た限り、魔力量は子供レベル、体術に関しては動きを見る限り、そこそこできるようだが、奴らを全滅させるほどの攻撃力を持っていない。一人でここを脱出するのは困難のはずだが、その自信はどこから出てくるんだ?」

「それは……『乙女の秘密』ってことで」

 プライズを入手する前だったら屈辱を受けていたかもしれないけど、今の私には相手を容易に捕縛できる手段を持っている。そして、こう言ったことを予期していたからこそ、余裕でいられるのよ。
 
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