婚約破棄を卒論に組み込んだら悪魔に魅入られてしまい国から追放されました

犬社護

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第二章 波乱の魔導具品評会

二十五話 悪者退治?

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 一階にいる荒くれ共の一人、犬のマスクを被った男が、私のもとを訪れる。

 誘拐されてから、どのくらいの時間が経過したのかわからないけど、体感的に二日くらい経過している気がする。

「嬢ちゃん、おはよう。あ~お前さんは学生だけど、魔導具製作士の卵なんだろ? 設計図があるんだから、どんなガラクタでもいいから製作してくれねえかな?」

 多分、誘拐されてから三日目の早朝でしょうね。
 見た目は可愛い印象だけど、言葉遣いが荒いから台無しである。
 服装から粗野なイメージを感じるけど、意外と優しい人なのよね。 

 犬のマスクのまま、こっちを見ないでほしい。
 犬の表情と話し方が合っていないから、つい笑いそうになる。
 ここは我慢よ。
 私だって、できれば適当な何かを製作して、ここを離れたいわ。

「あのね、初日から同じことを言うけど、設計図と何の加工もされていない材料だけで、魔導具を製作できるわけないでしょう。おまけに、工具類も一つも用意されていないのよ。この状況で、どうやって作れっていうのよ」

 魔導具製作に関わるものといえば、設計図と材料のみ。
 はっきり言って、人を舐めているとしか思えない。
 あのお兄様が、こんな杜撰すぎるミスを起こすとは思えないわ。

「まあ…そりゃあな。俺らでもわかる…けど、俺らはただの見張り番だから、何も聞かされていねんだ」

 そうなのよ。

 この男は私のもとへ定期的に訪れるのだけど、話し方から察するに、この状況を見て気の毒そうな顔を毎回浮かべるのよね。ていうか、あの馬男もここへ入っているのだから、こうなることを見越していたはず、何も言わずにここを去ったから余計にムカつくのよね。

「あなた達に依頼した人が誰か知らないけど、せめて工具を持ってくるように言ってよ。参考にすべき魔導具関係の本すらも置かれてないから、する事がなくて暇すぎるのよ」

 まあ、実際はプライズを使って、色々と遊んでいるんだけどね。
 犬(男性)さんは、困った顔(多分)を浮かべる。
 この人達も、ある意味大変よね。
 私の知る限り、上にいる連中は全部で六人。
 男性四人、女性が二人。

 誘拐当日の時点で、一階でどんちゃん騒ぎを起こし、声も少しだけ漏れ聞こえていたから、性格的な面でも粗野で荒々しい人たちっていうのもわかる。そんな人たちが私の顔を確認するため、一度ここへ来た。全員が動物の犬・猫・猿・鼠・牛・兎のマスクを被っていたこともあり、恐怖を感じなかった。

 そして、一人の猿の男性が怒気のこもった声で

『おい、早く魔導具を…』

 と言いかけたところで、私の部屋の惨状(机・材料・設計図・ベッド・簡易トイレのみ)を知ってしまい、そこで全員の酔いが覚めたのか、気の毒そうな顔を浮かべて一言…

 猿(男)『製作できねよな…工具もないし…』
 犬(男)『な、言った通りだろ。これは、いくら何でも酷すぎるぜ』
 猫(女)『ねえ…依頼人ってバカなの?』
 牛(男)『どうすんだよ? 絶対に完成しないぞ?』
 兎(女)『どうするって言われても、もう前金で半分もらってるから…』

 男性も女性も、私を怖がらせるためにここへ来たのだろうけど、工具がないのだから、こちらとしても動きようがないことをすぐに理解し同情してくれたのよね。

 そして、一人の猿(男性)が…

『あ~その~なんだ~~お前さんも災難だな。俺らも悪に該当するんだけどよ、この状況は馬鹿な俺らでも理解できるよ。まあ、四日間だけ我慢してくれ』

 と言って、全員が一階に戻ったのよね。
 さて、そこから状況が好転しているのかしら?

「俺らも、依頼人が誰か知らねえ。けど、これは余りにも杜撰だから、仲介人に問い合わせているところだ。中々捕まらなかったが、そろそろ連絡が取れそうなんだよ。もう少しだけ待ってくれ」

「そう、わかったわ」

 犬(男性)がドアを閉めて、一階へと戻っていく。彼らの任務は私を見張るだけ、本来であれば私に多少の暴力を与えて、魔導具を無理矢理完成させれば、報酬の上乗せとかもあるはず。でも、全員がこの惨状を理解してくれるからこそ、何もしてこない。

「お兄様は、魔導具製作を行うにあたり、誰かに指示を出した。その人間がただの馬鹿なのね」

 そもそも、今から必要器材を用意するにしても、指示された人間がそれらを理解しているのかも怪しい。仮に揃えることができたとしても、品評会までの残り日数も考慮すれば、精巧な部品すらも作れないでしょうね。

 お兄様が今の私の状況を知ったら、絶対私にプライズを使うよう強要してくる。
 このままここに滞在し続けるのは不味い。
 奥の手を使って、全員を捕縛する?

 それを使えば、ここから逃亡するのも容易いけど、お兄様に私のプライズの一端を知られてしまう。

 ここから先の行動で、私の未来も変化する。
 いわゆる一つの分岐点だわ。


………結局、私はここで待機する選択肢を選んだ。


 奥の手はあくまで緊急事態用、自分の身が本当に危険になった時に使うためのもの。今は、まだ使うべき時じゃない。それに、プライズで製作した魔導具も順調に起動し、兄を懲らしめるための証拠も集まりつつある。

 焦りは禁物よ。

○○○

 ここには、時計がないし、日の光も入ってこない。
 あるのは、魔導具の照明のみ。
 あれから、どのくらいの時間が経過したのだろう?
 多分、二~三時間だと思うけど?

 一階の人たちも、私の現状を知って以降、どんちゃん騒ぎを起こさなくなり、人の声が全く聞こえなくなった。そのせいで、気配も掴みにくし、時間の感覚も麻痺してきたわ。

 そういった考え事をしていると、部屋の扉が突然開く。
 私は酷く驚き、同時に身体も強張る。

「お~い、嬢ちゃん。解放だ~良かったな~」

 現れたのは、犬(男性)さん。
 緊迫感を微塵も感じ取れない喋り方だから、何処か拍子抜けしてしまう。

「解放って……え?」
「まあ、あんたの気持ちもわかるよ。俺たちが仲介人に事情を話したら、相手さんも溜息を吐いてな」

 そりゃあ、そうでしょうね。
 誘拐しておいて、肝心の魔導具製作の必要器材がないのだから。

「どうやら仲介人は、誰が魔導具用の器材を準備したのか知っているようでな。怒り心頭で、そいつの名前を喋ろうとしていたよ。まあ、寸手のところで言わなかったけどな」

 嘘を付いている感じがしないわ。
 仲介人は、しっかりした人のようね。
 ここを手配した人が馬鹿だったのか。

「今から準備しても間に合わないから、解放だってよ。それと、設計図に関してはあんたに譲渡する。材料に関しては放置だ」

 譲渡って、元々私が描いたものだからね。

「あっそ。一応、全部貰っておくわ。あなたたちも、こんな間抜けな依頼をされて災難ね。報酬の方は大丈夫なの?」

 悪人なんだけど、この人たちは何故か憎めないのよね。

「そいつは問題ねえ。仲介人の奴が太っ腹でな。どういうわけか、報酬全額くれたんだよ。これで二ヶ月は楽に暮らせる。にしても、誘拐された奴から心配されるのも初めてだな」

 なんとな~く、この人たちの状況が気になる。

「いや、だってね~。お互い、災難に遭ったようなものでしょ? あなたたちだって、悪人としてのプライドがあるでしょうに」

「あはははははは、そうだな。上の五人は、もうここから離れてる。俺も、もう行く。ここは王都の平民エリアに位置する廃屋だ。迷うこともねえし、襲われることもねえだろう。あんたが、どこの誰だか知らねえが、まあ気をつけて帰れや」

 そういえば、結局最後まで互いの自己紹介をしなかったわね。
 仲介人に尋ねるなとでも言われていたのかしら?

「悪人のあなたに言われてもね~」
「あははは、そりゃあそうだ」

 犬(男性)さんは、そのまま一階へと上がり、この廃屋から出て行った。
 さて、私も出ましょうか。
 これって、一応悪者を退治したことになるのかしら?
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