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10話 カード戦士、焦る

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あの女性は何者なんだ?

この遺体を聖獣と断定しているし、《ヒロインだから殺すはずがない》と言っていたが、どういう意味なんだ?
結局、名前すら聞けなかったけど、周囲の声から判断すると《マリエル》と言うのか。

周辺からは熱気も感じないから、火事の方も収束しつつあるのかもしれない。
それなら俺も、この遺体の処理に集中させてもらおう。

この獣をこのまま放置しておいてもいいけど、本当に聖獣だったら、きちんと埋葬した方がいい。仲間が今も何処かで見ている可能性もある。この森に来て初日の段階で、学生絡みのこんなイレギュラーに巻き込まれるとは思いもしなかったよ。

この獣も可哀そうだけど、これも運命だったんだ。
俺を恨まないでくれよ。

『ま…て』

今、何か聞こえたような?

『ちょっと待ってください!』

え、女性の声? 
優しげのある声だけど、妙に焦っているような?
周囲を見渡しても…誰もいない…か。
試しに、話しかけてみるか。

「え…と…あなたは何方でしょう?」
『やっと聞こえましたか。まさかとは思いましたが、伝播スキルで本当に人とリンクしたようですね』

《伝播》スキル?
何のことだ?

『今、あなたの心に語りかけています。私の名はフリーゼ、そこに横たわる聖獣フィリアナの母です』

聖獣の母!?
それじゃあ、あの女の子の言う通り、この子は本当に聖獣!?
俺の心に語りかけるって、そんなことが可能なのか?

『私達聖獣種に限り、皆が共通して《伝播》というスキルを持っています。知り合いの聖獣達が何処にいようとも、このスキルを使用すれば話し合うことが可能ですし、生死も確認できるのです。フィリアナとのリンクが突然切れたと思ったら、すぐに復活しましたので、どういうことか問い質そうとずっと話しかけていたんです』

何故、俺とリンクしているのか不明だけど、既に母親に見つかっているじゃないか!? 
最悪だ! 
しかも、俺とあの女の会話を途中から聞かれていたら誤解するかもしれない!?
もし、そうなら俺の人生が終わる!
そうだ、今からでも遅くない。
弁解しよう!

「あ…あの…俺は娘さんを殺していませんから!」

『落ち着きなさい。今、《伝播》と《天眼》両方のスキルを通して、フィリアナとあなたの記憶を見させてもらいました』

《伝播》といい《天眼》といい、聞いたことのないスキルばかりだ。
言葉通りなら、俺と死んだ聖獣の心を覗いたってことか?

『なるほど…森上空にて、魔法による暴走が発生し、その一部がフィリアナに偶々直撃したのでしょう。あなたと会話した学生に関しては、謎が多いものの、目的は《娘を自分の従魔にすること》』

凄いな、天眼スキル。
ここにいないにも関わらず、そこまで状況を見通せるものなのか?

主従契約の条件は、二つあったはずだ。

1) 知能の高い魔獣や魔物であれば、互いに話し合い認め合う。
2) 契約したい相手を何らかの方法で弱らせ、隷属魔法か、それが付与された魔導具を用いて、無理矢理自分の従魔にさせる。

あの女は、後者を選択したのか。

『暴走があったとはいえ、娘が巻き込まれたことをどうやって逸早く察知したのかはわかりません。しかし、大火傷を負った者に対して投げかける言葉が、あまりにも不穏であったことから、娘は猜疑心を抱き、最後の力を振り絞って逃走を図り、大火傷の影響で回復魔法を使えないまま、途中で力尽きたのでしょう』

とりあえず、俺への嫌疑が晴れて良かったけど、あの女《マリエル》は何故そんな方法をとったんだ? 相手が聖獣である以上、先に光魔法で治療してから話し合いをすればいいのに。

『フィックス、あなたに御願いがあります』
「願い? 娘さんに関しては、きちんと埋葬しておきますよ」

このまま立ち去ったら、俺は間違いなく聖獣達にロックオンされる。伝播スキルがある以上、全世界の聖獣達にも、この件は伝わってしまう。このまま何もせず、この場を立ち去ってしまうと、俺が何処にいようとも、聖獣達に命を狙われるだろう。

『それをやめてほしいのです』
え?
俺の心の中は、???マークでいっぱいだ。
埋葬しなければ、フィリアナの身が魔物達に食われてしまうのに。

「理由をお聞きしても?」
『あの子が、人間の女マリエルを深く憎悪したまま死んだからです。このまま埋葬したとしても、憎しみがその身を覆い尽くし、娘はいずれ理性のない強靭な【魔獣】となって復活します。憎しみに囚われているため、目的の女を殺さない限り、破壊の限りを尽くすでしょう』

一言いいですか?
最悪だ~~~~~~~!

魔法を暴走させた学生も当然悪いけど、結局のところ不用意な言葉を放ち、フィリアナに不信感を持たせてしまったあの女が全て悪いんじゃないか! 

そのまま放っておいても埋葬したとしても、このままでは彼女を魔獣化させてしまう。それは、いくらなんでも可哀想すぎる。なんとか、魔獣化だけでも阻止できないものか。

『おそらく、あなたのカード戦士としての力を利用すれば、フィリアナを救えます。今こうして、娘が死んでいるにも関わらず、彼女の力を経由して話せること事態が、本来ありえないことなのです。その力に、心当たりはありませんか?』

俺に、そんな力があるのか?
左腰のポシェットに眠るカード達、俺がその全てを左手で取り出し、扇型のように配置すると、一枚のカードが淡い緑色の暖かな光を放っている。

「このカードは……」

補助系 使役カード
レア度7:★★★★★★★☆
使用限度回数:一回限り
人数:一人
効果:
瀕死状態、死後二十四時間以内の者に使用すれば、強制的にその者を完全回復または蘇生させ使役させることが可能となる。なお、使役された者をカード化させた場合、休眠状態となる。
使役期間:一生
備考:使役対象者が周辺にいる場合、カード自体が光り出す。なお、死後二十四時間以内であれば、魂がその身体に宿っている場合もある。その場合に限り、対象の持つ伝達系スキルが有効となり、その影響はカード所持者にも及び、死者と話すことが可能となる。

間違いない。
このカードが原因で、俺はフリーゼ様とリンク出来たんだ。

使役カードを使えば、フィリアナは生き返る…と思う。
ただ、人や獣を生き返らせるなんて本当に可能なのか?

俺は、そんなスキルや魔法を知らない。
ただ、気掛かりな点は一つある。
そもそも、このスキル自体が女神様の気まぐれで製作されたものだ。

何もないところから突如現れる《カードデル》や《スロット》、そこから生じるカード類、俺自身殆ど負担を掛けずに現れるその効果、女神様の力が加担しているからこそ、現実に具現化できているんだ。そう考えれば、使役カードの効果もおそらく……機能するはずだ。

「原因がわかりました。俺の持つアイテムの中で、《使役カード》を使えば生き返ると思います。ただ、その代償として、フィリアナは一生俺の従魔となります。事情を知ったら、絶対怒り狂うと思うのですが?」

フィリアナはあの女を憎悪しながら死んだのなら、おそらく《自分を弱らせて無理やり主従契約を結ぼうとした》と思っているはずだ。このカードの効果も、それと似ている。仮に、彼女が生き返ったとしても、俺も憎まれるかもしれない。

『ふふふ、大丈夫。あなたはあの女と違い、フィリアナのことを第一に考えています。あの子も、その思いをすぐに理解してくれるはず』

この使役カードは星七つのレアカード、二度と入手出来ないかもしれない。しかし、幼い聖獣が不運な事故で亡くなっている。その子の母親が俺とリンクして、娘の蘇生を熱望している。

子を想う親の気持ちを考えれば、当然だよな。
聖獣とか関係なく、この子を生き返らせてあげたい。
従魔になってしまうけど、俺自身がこの子を束縛しなければいいんだ。

「わかりました。今から使役カードを発動させます」
『フィックス、感謝します』

本当に、死者を蘇らせることなんて可能なのか? 
ここは女神様の力を…カードを…信じるしかない。

「使役カード発動!」

左手に持つカードが淡い緑色の光を放ちフワッと浮き上がる。

俺の手元から離れていき、小さな聖獣フィリアナの遺体の真上へとゆっくり移動し、そのままカードは彼女の中へ入っていき、身体全体が大きく輝き始めていく。
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