記憶喪失となった転生少女は神から貰った『料理道』で異世界ライフを満喫したい

犬社護

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25話 腹ペコ少女を助けたら

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リオンとハティスを連れて冒険者ギルドに訪れると、みんなが掲示板に集まっていたので、私たちも覗いてみる。そこには、戦闘の神童ウィステリット・ヴァンカース様が2日後にこの街へやって来ること、彼女のこれまでの戦歴などが記されていた。ランクFからBまでの魔物たちの討伐数、ダンジョン踏破数など…私にとって驚く内容ばかり、読み進めると聞いたことのない異名が出てきた。

「冒険者ギルド破り?」
「マジかよ…2人って同一人物だったのか」
「有名なの?」

リオンは、知っているみたいだ。

「先を読んだら、彼女が何を仕出かしたのかわかるよ」 

その先を読んでいくと、彼女が何をやってきたのか理解できた。

ウィステリット・ヴァンカース様は、強さに飽くなき探究心を求めていて、国内に点在する冒険者ギルドに乗り込み、多くの冒険者たちに戦闘を申し込む。弱かった場合は必ず相手を揶揄い侮辱し怒らせ、皆の自尊心を傷つけるので、最終的に【ウィステリット様VS冒険者たち】という構図になり、戦った大勢を病院送りにしている。こういった行為を12箇所の街で実行しているため、【冒険者ギルド破り】と言われている。

普通なら犯罪行為に該当するけど、彼女は各地の冒険者ギルドや冒険者から訴えられたことは一度もない。罰は厳重注意と謹慎処分だけ、何故なら公的に訴えて裁判沙汰になると、被害者全員の名前が記録に残ってしまい、自分たちの弱さが国中に露呈されてしまうから。

訴えない理由は、もう一つある。

病院送りにされた冒険者全員が、自分の弱さを痛感し、そこから奮起したことで、襲撃を受けた冒険者ギルドのランクF~Bにおける平均依頼達成率を大きく底上げさせているから。結果的に彼女の襲撃によって、皆が強くなり、ギルドの評価も上がったことで、現在まで訴えられていない。

冒険者たちの絆を壊さないよう、今回はこちらから対戦を申し込んだ。形式はバトルロイヤル戦、最後の1人になった者には、賞金10万ゴルドが進呈される。

『誰かがウィステリット嬢に怪我を負わせたとしても、その責任が問われることは一切ないので、心置きなく戦え。怪我を負った場合、ギルドが治療費を全額負担する』

最後には、こんな注意書きも記されていた。

「リオン、これって私のせい?」
「ユイのせいだな」

だよね。あの時、ロイドさんが露骨に嫌な表情となった理由は、これなんだね。セリーナ様やアリステア様は、冒険者ギルド破りのことを知ってたんだ。

「気にすんな。伯爵様から許可を得ている以上、こっちも全力で気兼ねなく挑める。腕試しには、もってこいだ!」

リオンの意気込みがすごい。

「参加するってこと?」
「当然!」
「ユイ、僕も参加する!」
「え、ハティスも!? 私は……不参加かな」
「え~~~~」

ハティス、そんなにがっかりしないで。
実戦経験ゼロの私が参加しても、足手纏いだよ。

私の提案で、冒険者ギルド全体に迷惑がかかっちゃったけど、周囲の冒険者たちもリオン同様、腕試しをしたいようで、この企画に反対する人は誰1人いなかった。


○○○


今日の朝10時から、冒険者ギルドでバトルロイヤルが開催される。実質上、[ウィステリット様VS冒険者たち]のため、多くの新聞記者が訓練場へと集まり、今は魔道具[カメラ]をセッティングしている最中だ。ここは科学技術が日本程発展していないから、テレビ放送や中継とかはないけど、カメラの性能が魔法のおかげでダントツにいいので、新聞記事に掲載されている写真も見やすい。

参加者はリオンとハティスを含めて全21名、その中には獣人のリリーも入っている。アルトリウスとエルーザは不参加で、私と同じ見学者側だ。現在時刻が午前9時になったばかりで、皆が訓練場の中心に集まり、何か綿密に話し合っているけど、私のいる観客エリアまで聞こえてこない。

「ユイ、おはよう」

声の方へ振り向くと、そこにいたのはアリステア様と護衛のルシウスさんだ。

「アリステア様、おはようございます」
「あなたに、お仕事を頼みたいのだけど良いかしら?」
「お仕事?」
「隣接されている公園に行って、しばらくの間散策して欲しいのよ」
「それって、お仕事というより散歩では?」
「あなたがその行動を取れば、後々面白いことが起こるかもしれないの」

散歩するだけで、何故面白いことが起こるのだろう?

「別に構いませんよ。イベント直前のせいもあって、空気が重いから外に出ようと思っていたところなんです」

「決まりね」
「それでは行ってきます!」
「行ってらっしゃ~い」

去り際、アリステア様は終始笑顔で手を振ってくれたけど、ルシウスさんだけは『やれやれ』といった複雑な笑みを浮かべていた。何か企んでいそうな雰囲気だけど、散歩だけだし、深く考えないでおこう。気分を落ち着かせるため、1人でギルドと隣接されている広い公園の散歩道を歩いていると、ベンチに座って本を読んでいるガイさんを見つけた。

「ガイさん、おはようございます」
「おはよう。バトルロイヤル戦を見ないのかい?」
「開始まで1時間程ありますし、何より空気が…」
「戦い前というのは、そんなものだよ。ウィステリット嬢は、まだ到着していないのかい?」
「はい。『私は強いので、お出迎えは必要ないです。何処かの宿に、適当に泊まるのです』と言われたらしくて、誰も出迎えに行ってないんです」
「(出迎えは、強さと関係ないのだが)」
「はい?」

今、小声で何か言ったような?

「いや、なんでもない。それじゃあ、私は行くよ」
「あ、はい」

ガイさんと別れて散策を続けていると、何処からか『キュルルル~』ていう変な音が聞こえてきた。音の発信源の方を向くと、そこには私と同じくらいの人間族の女の子がベンチに座っていて、お腹を押さえて苦しそうな表情をしており、顔色も悪い。すぐ横に、大きな鞄だけが置かれているから、もしかして旅行者?

「大丈夫?」

女の子は私をチラッと見て、すぐに下を向く。

「財布を盗まれて、すっからかん。朝食も食べてない…力が出ない…負けたくない…」

なんか…悲惨。

「私の作った試作料理が、スキル内に備蓄されているけど食べる?」

そう言った瞬間、女の子は私を見る。

「食べる! 不味くても構わない!」

彼女は急に明るくなり、まるで尻尾をぶんぶん振り回すワンちゃんのようだ。ベンチの上に置いたお料理、[出汁巻き卵サンドイッチ][オークカツサンド][ヴァイパー唐揚げ][オーク生姜焼き][特製塩おむすび][ドレッシングサラダ]が、凄い勢いで彼女の胃の中へと入っていく。

「美味しい! 全然イガイガしないし、すんなりと胃に入ってくれる!」

イガイガって、どういう意味? 
質問する余地がないまま、6品あった備蓄料理が全部空になっちゃった。

「お腹いっぱいです。あのスキルを得てから、料理が不味くなっていたので助かったのです」

「変なスキルを入手したの?」

「聞いて下さい。9日前、家で感覚強化訓練をしていたら、スキル[絶対味覚][絶対聴覚][絶対嗅覚]を入手したのです」 

3つ全部に、絶対が付くんだ。味覚の方は料理道[極み]にあるからわかるけど、聴覚と嗅覚の方はどんな効果なの?

「その途端、味覚、聴覚、嗅覚が急に鋭敏になったのです。感覚を強化すれば強くなれると思い訓練を続けていたのに、強化しすぎで気持ち悪くなったのです」

私も絶対味覚を持っているから、彼女の気持ちも少しわかる。一気に3つも強化されたら、身体がついていけないよ。

「味覚だと、野菜や果物を食べると、何か共通して不味いイガイガしたものを感じるようになり、聴覚だと、周囲の音が敏感になって、今では鳥の囀りすら鬱陶しく感じます。嗅覚だと、微かな臭いを鋭敏に感じるようになってしまい、力を発揮出来なくなってしまったのです。このままだと、バトルロイヤル戦で冒険者たちに負けてしまうのです」

バトルロイヤル戦? 冒険者? 
私と同じくらいの年齢だから……。

「私はユイって言うの。あなたは?」
「自己紹介がまだでした。私はウィステリット・ヴァンカースです」

やっぱり~この女の子が、[戦闘の神童][冒険者破り]なんだ~!
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