記憶喪失となった転生少女は神から貰った『料理道』で異世界ライフを満喫したい

犬社護

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33話 隠された裏事情② *視点 ブライト

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認識阻害の護符をユリネア嬢の持ち物に潜ませる行為、これは内部のものにしか出来ないことだわ。

「王都の本邸内に、お嬢様を害するスパイがいる。我々は、その者を洗い出すべく、すぐに本邸へ通信を入れ、信頼の置けるメイド長に事情を説明し、お嬢様に護符を渡した者を探し出して、牢屋に入れるよう命令したが一足遅かった。1人のメイドが一身上の都合で辞職願いを提出している。その女は、今も見つかっていない」

発覚を恐れて、逃げるのは当然よね。

「犯人に繋がる手掛かりを失ったものの、アリエス嬢のおかげで、お嬢様は別荘内にいる者に限り、信頼を寄せてくれるようになった」

「それなら、どうして強奪に至ったのよ?」

ユリネア嬢の病は精神的なもの、支えとなるアリエスは絶対に必要よ。欠けてしまえば、確実に悪化する。

「第一王子の婚約者として、ユリネア様は最有力候補。水面下で、陛下とロベルト様は常に話し合っていた。それ故、旅行から帰還して2日後、ロベルト様は国王陛下と謁見し、今回の事件を伝えた。陛下方も、お嬢様を常日頃から気にかけていたので、事件の調査を王家側で独自に調査してもらうことになり、先程言った神童から始まった力関係の件が発覚したのさ」

王家側の調査結果である以上、まず真実でしょうね。これで王家側も、迂闊に動けなくなったわけね。

「この調査結果を受けて、陛下はロベルト様に、ある王命を下した。【第一王子ユーグハルト様の婚約者をユリネア嬢にしたいが、今の時点で公表すると、余計な諍いが起きてしまう。成人となる15歳までに、誰からも認められる存在に育てよ】というものだ。誰を婚約者にしても、高位貴族が必ず反発し、最悪の過程を辿ると、内乱を起こす。陛下は中立を維持し、身分も高く、著名な実績もあり、誰からも慕われる存在を求めている」

それは、理想論よ。
無茶を承知の上で、陛下も公爵に理想を押し付けたのね。

「あの事件以降、お嬢様は人間不信だけでなく、暗所恐怖症と閉所恐怖症を併発させ、性格も臆病となり、他人の些細な悪意ある言葉であっても、ビクついてしまう程だ」

尚更、陛下の求める人物像を、4年で育て上げるのは不可能だわ。

「性格改善をクリア出来たとしても、何らかの分野で皆から慕われる程の実績を叩き出すだなんて不可能よ……まさか……」

ガイの表情が、私の言葉で曇る。

「だから、秘匿とされている儀式魔法【強奪】という手段を用いたのさ。お嬢様に足りない技量を持つ者を探すにあたって重要視したのは、スキル【カリスマ】【精神耐性】【絶対記憶】【思考加速】を持つもの、鑑定系スキルを持つ私が、王都内で男女問わず捜索し続けたことでヒットしたのが……」

「アリエスだったのね」

ガイは、静かに頷く。
親友が全てを持っているだなんて、なんという皮肉。

「アリエスの両親が、よく許可を与えたわね」

その話をした途端、眉間に皺を寄せ、怒りを表したわ。

「あいつらは屑だよ。ロベルト様はクォンタム子爵家に対して、人身売買契約を内密に提示した。契約報酬は3億ゴルド」

「「3億!?」」

「夫妻はロベルト様に理由を聞くことなく、笑顔で娘を差し出した。その時の目は血走っており、娘がどうなるのか微塵も興味を持たなかった」

正真正銘の屑じゃないの。

「ユリネア嬢は、アリエスから強奪したことを知っているの?」

「お嬢様は、何も知らない。我々も、生涯教えるつもりはない。お嬢様は、今でも賊に誘拐されたと思っている」

今のユリネア嬢に真実を伝えたら、精神耐性があったとしても、心を間違いなく壊すわね。

「強奪された人間は、魂に亀裂が生じる以上、必ず発狂して死を迎える。アリエス嬢に関しては、そうならないよう薬や魔法で深く眠らせ、樹海奥地に放棄し、安らかな死を迎えさせる手筈だった」

第三者の視点から見れば、私欲のために家族ぐるみで、娘の親友を犠牲にした極悪犯罪者集団になるのだけど、公爵の視点から物事を考えた場合、何が正解だったのかしらね。王命という事情を顧みれば、無理に拒絶した場合、国は婚約者の件で大きく乱れてしまう。家族と国、どちらを優先すべきか、公爵は貴族としての責務を全うする選択を取ったのね。同じ貴族である私やロイドが彼と同じ立ち位置になった場合、果たして家族をとるか…正直わからないわ。だからこそ、公爵やガイばかりを責められない。

ロイドも私と同じ思いを抱いたのか、複雑な胸中のようね。

「眠りから醒めたアリエス嬢は発狂するどころか、ハティスに守られながら失った魔力を取り戻し、その後はロイドにも発見され、ここへ来て記憶を失いながらも、冒険者として生活している。これは、ありえないことなんだ」

ガイは、事の顛末を知らないだけ。

神は、天界から転生少女の悲惨な未来を見て気の毒に思い、生きるチャンスを与えたからこそ、ユイはハティスやロイドと奇跡的に遭遇できたのよ。

「我々が、どれだけ愚かしい行為をしたのか理解している。アリエスが生存していたことに、喜ぶ自分もいる。彼女が記憶喪失なのか、我々に害を及ぼす人物になりうるのかを確認するため、何度か接触を試み、話し合ったりもした。結論として、彼女は間違いなく記憶喪失で、我々のことを覚えていない。だから……」

ガイ自身、自分の過ちを認めて、アリエスが記憶喪失となって生きてくれていたからこそ、その存在を守りたい方向へ傾いている。『守る』という意味では、私やロイドと同じ主張ね。

「協力要請に承諾したら、あなたはどうするの? 当然、公爵には報告するのよね?」

「ああ。ロベルト様や奥様も、娘の幸福を願って犯した犯罪だが、後悔の気持ちでいっぱいなんだ。今の事情を打ち明ければ、暗殺といった愚かな手段をとらず、協力関係を築きたいと願うはずだ」

「なるほど。私たちに求めている要請は、そこね」
「我々にとって都合の良い手段であることは、重々承知している」

国やユリネア嬢、ユイのことを考慮すると、協力関係を結ぶべきね。

「ロイド、私は協力すべきだと思うけど?」
「止むを得ないでしょうね。ユリネア嬢とユイを守るには、保護者の立場となる我々が協力しないと、いずれ取り返しのつかない事態になる可能性があります」

どんな事情であれ、こいつらはアリエスを殺した。
でも、ユリネア嬢には何の罪もない。

私とロイドには、公爵たちを罰する権利などない。
その権利を持つのは、ユイのみ。
彼女が全てを知った時、どんな判断を下すのか。

「ブライト、ロイド…感謝する」
「とりあえず…」

これからの話をしようと思った時、魔道通信機のベル音?

「こちらは冒険者ギルド・リリザハット支部、ギルドマスターのブライト・チェステカリスよ」

「私は、ロベルト・ハートニック公爵だ」

え!? 恐ろしいタイミングで、電話をかけてきたわね。

「急にすまない。そちらに、娘が行っていないだろうか!」

相当、焦っている口調だわ。

「公爵、落ち着いてください。ここは、あなたの住む王都から100キロ程離れています。何故、こちらに通信を?」

「今日の朝刊の一面に、そちらの冒険者ギルドで起きたウィステリット嬢とのバトルロイヤル戦の写真が載っていた。娘は…『誘拐された親友を新聞の一面で見ました。彼女に会うため、リリザハットへ行きます』という置き手紙だけを机に残し、誰にも気づかれないよう、1人だけで家を飛び出した」

「1人で!?」

「私は昨日からの泊まり込み業務で王城にいて、妻から通信機を通して、たった今聞いたばかりなんだ。今から20分前、娘からの通信でリリザハット駅に到着したとの連絡も入ったが、すぐに切ってしまったらしい。今、休養をとっている私の筆頭執事のガイが、リリザハットにいるはずだ。彼の泊まる宿屋にも連絡しているから、彼と連携して娘を探してくれ!」

「わかりました。至急駅に向かい捜索にあたります」
「頼む!」

新聞の一面に載っている写真って、ピントをウィステリット嬢に合わせていて、見学者たちのいる方は、少しピンボケしているはず。親友としての直感かしらね。

「ロイド、ガイ、まずいことになったわ」

私が2人に状況を説明する。

「いかん! まだ、ユリネア様は力を強奪したばかりで安定していない。不安定な状態で強奪した側と強奪された側が遭遇すると、どんな事象が起こるかわからん! 頼む! 私と共に、2人を探してくれないか!」

「了解だ」
「了解よ」

私たちの意見が合致して、外に出ようとした時、不意に部屋入口となる扉がゆっくりと開いていく。おかしいわね、きちんと閉めておいたはず……え、扉の前にいるのはユイ、リオン、セリーナ様、ウィステ嬢に……もう1人ユイと歳の近い女の子がいるけど、誰? その子は身体を震わせ、顔色も酷く青白い。

「ユリネアお嬢様!?」

ガイが急に立ち上がって女の子に叫んだけど、嘘…あの子がユリネア嬢!?
もう、出会っているじゃないの!?
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