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トラウマ持ちのSubは面倒くさい
トラウマ持ちのSubは面倒くさい 1
「”Take”」
これを持っていけば褒めてくれる。
それがわかっているので、両手が動かしにくくても気にならない。
数分語、言われた通りの本を、差し出された手のひらの上に置く。長くてきれいな指が、本をパラパラとめくってから満足そうに目を細めて、俺を見て笑った。
「Goodboy」
ほら。この人が俺のDom。
定期の通院で、主治医から心療内科を紹介された。
「できれば今の薬でなんとかしたいです」と申し出ると、背筋が凍えるような視線を向けられて縮み上がる。
とりあえず、今までの薬より少しだけ強い薬を処方された。
もう後がありませんよ、とは前回の…いやその前の診察で言われたが、まだ先はありそうだ。
診察室を出るときに「早くパートナーを見つけなさい」と優しく言った主治医も、今までの診察経過から、難しいことだとわかっているだろう。
丸目朋志には、雌雄を分ける性以外に『ダイナミクス』と呼ばれる第二性があり、属性はSubである。
パートナーはいないので常に欲求不満。
そのため、欲求不満を抑える抑制剤を服用している。
抑制剤の副作用を抑える薬も。
抑制剤を飲まないと、パートナーがいないSubは、Domなら誰にでも、所構わずにコマンドを強請ってしまい、最悪の場合、取り返しのつかない事態に陥ってしまう。
コマンドとリワードがないと情緒不安定になるので、欲求をコントロールする抑制剤の服用は欠かせない。しかし抑制剤の副作用で、慢性的な体調不良にも悩まされる。
朋志の場合は、偏頭痛、腹痛、めまい、微熱が主な症状で、ダイナミクス専門の医療機関に通院している。抑制剤の乱用を避けるため、定期的に療法士からコマンドケアも受けている。
欲求不満と体調不良が、どちらかに傾かないよう抑制剤とコマンドケアでコントロールしてきたが、心療内科を案内されたということは、どちらも効きにくくなってきたということだろう。
診療内科なら、今より強い抑制剤を処方してもらえる。もちろん、体調不良にも強い薬を。不安定な情緒には適切なカウンセリングを。
新しい主治医にまた初めから説明するのか…。ため息しか出ない。
-- 早くパートナーを見つけなさい。
そう言われても、朋志にとってのDomは一人だけなのだ。その人からもらえるコマンド以外は欲しくない。本当は療法士からのコマンドだって聞きたくない。
「パートナーを解消しよう」
別れの言葉を受け入れた2年前から、元パートナーとなってしまった相手に執着している。今もずっと。
--- 顕さん…。
食欲はなかったが、薬のために簡単な食事を済ませ、そのままベッドに入る。もう寝てしまおう。
築30年は経っている小さなアパートの、カーテンの隙間から差し込む光が、部屋の埃を照らし、反射でキラキラしている。ぼんやり見つめていたらすぐにまぶたが重くなってきた。
夢ならきっと、節くれだった大きな手が撫でてくれる。別れたいと言ったことなんか夢だよと言ってくれる。
--- 俺、今度はちゃんと言われたとおりにできるよ。
--- もう一度だけコマンドをくれたら…
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