39 / 151
ネガティブなマッチング
ネガティブなマッチング 1
「顕さん、どうしてここに…」
「朋志こそ。俺は講師先がこっちで、休憩中なんだ」
「そう…」
2年ぶりに会う顕は、ほとんど変わっていないように見えた。
顕は、企業向けに研修講師をしている。
たまたま近くに研修をしに来ていて、気分転換と昼食をしに外へ出たということらしい。
ずっと会いたくても会えないと思っていたのに、本当に偶然としか言いようがない。
--- さっきみたいにならないようにしないと。
知らないDomの人に対して、あれだけ心が乱れたのだ。
顕に変なところを見せたくない。早く帰ったほうがいい。
「元気そうですね。俺もう」
「朋志、昼ごはんは食べたか」
「食べました」
「じゃあ俺がごはんを食べる間だけでいいから、お茶だけでもつきあってほしい」
舌の根も乾かないうちに、朋志は、近くのカフェで顕と向かい合って座っていた。
第2性はマイノリティだ。みんなが第2性の種を持って産まれてくると言われていても、全ての人が芽吹くわけではない。俺のせいで、顕さんは世間的にバツが付いてしまっている。法整備されても、満足はしていないし、人の目もそこまで優しくはない。
顕さんもDom性が強い人だ。失態は避けたい。
そこまで考えて、どう言えばいいのかとあれこれ頭を巡らせる。
「元気にしていたか」
「はい」
「無理やり誘って悪かったな。あれからずっと朋志のことは気になっていたんだ」
「それは俺も。でも、元気そうで安心しました」
「ああ。元気にしてるよ」
そこで話が途切れた。
パートナーだったことがあるなんて信じられないくらいよそよそしい会話。
本当に話したいことはきっと違う。
顕さんも俺も。
切り出すタイミングだけの問題だ。ここで別れたらもう二度と聞けないだろう。
顕さんがランチセットを食べ終えた。俺も、頼んだアイスティーがほとんど氷だけになった。顕さんはこれからまだ仕事が残っている。元気な姿だけでも見られたらそれで満足とするのがいいのか。
「顕さん、パートナーは…いますか」
時計を確認していた顕さんの動きが止まる。
「ああ、いる」
逡巡したような素振りも一瞬のことで、顕さんははっきりと言った。言ってくれた。
安心や羨望、顕さんとの溝が決定的になった絶望。顕さんとの楽しかった思い出、噛み合わないプレイ…、色んな感情が綯い交ぜになって混乱ぎみだけど、聞けてよかった。
「俺からも聞きたかったんだけど、先越されたな。朋志は?」
「俺も、…います」
これで最後だ。わざわざ本当のことを言う必要もない。
顕さんに気を遣わせてしまうだけだ。きれいに別れたい。
「そうか、よかった」
会計を済ませて店を出る。
「つきあってくれてありがとう」
「こっちこそごちそうさまでした」
「これくらいはさせてくれ」
俺はこのまま帰るだけだけど、顕さんはこれからまだ仕事がある。
連絡先はパートナーを解消したときにお互い消しているし、これからのことを考えたら聞かないほうがいい。
顕さんの新しいパートナーも、前のパートナーと連絡を取っていると知れば、良い気分にはならないだろうし、顕さんが不利になることは俺も望んでいない。
ここいら辺で潮時だ。会えてよかった。
「じゃあ、俺はこれで」
会釈して帰ろうとすると「待ってくれ」と、呼び止められる。
「はい」
「あ、いや」
顕さんは、俺を引き止めたものの、何を言おうか迷っているようだ。
俺も名残り惜しい。でも、俺と顕さんがこれ以上時間を共有して何になる?
欲しいものが与えられないと思い知らされ続けるのはつらい。
そのうえ、短い時間のあいだに、二人の強いDomと話をしていて、すごく疲れている。できれば早く帰りたい。
「顕さん休憩時間が」
「朋志、やっぱり顔色がよくない」
心臓が跳ねた。そんなところに気づかないで欲しい。
顕さんは、少し迷ったみたいだったが、まっすぐ俺の目を見て言った。
「パートナー…いないんだろ」
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。