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ネガティブなマッチング
ネガティブなマッチング 3
八峰ビルで、具合が悪くなった朋志を煙たがらずに、心配してくれた人。親切で、魅力的な、…Domの人。
その人が、細めのアーモンドアイをさらに細めて朋志を見た。
「許斐さん、早く紹介して」
「ああ。そのつもりだが…知り合いだったのか」
顕が、二人を交互に見ながら言った。
その人は、棗理人という。
「丸目です」
「棗が来ること、先に知らせなくて悪かったな」
「いえ」
「あれから無事に帰られましたか」
「はい。ありがとうございました」
棗が顕と一緒に来たのはびっくりしたが、連絡先を教えなかったのは朋志の方だ。
それよりもあの日の親切な人が、顕と知り合いだったことの方に驚いた。
「棗とはこのバーで知り合ったんだ」
二人が出会ったきっかけや、普段の話を聞くのは楽しく、運ばれた料理はどれも美味しかったし、顕が棗を馴染みに思っていることもわかった。
二人しかわからない話になると、棗がさりげなく説明してくれる。その気づかいは嬉しかった。
棗と目が合う。朋志は、自然に視線をそらしたつもりだ。棗は笑顔でそんな朋志を見ていた。
店には客も増え、ほとんどの席が埋まっている。
中には、チラチラと、顕と棗に秋波を送っている者もいる。彼、彼女たちはきっと朋志と同じSubだ。
より強いDomに支配されたい…、普段の生活でここまであからさまな欲を周りから感じることはない。
第二性はあまり表には出さないように、ひっそりと生活している。
SubもDomも。
このバーは、そんな本能を開放してくれる場所なのだろう。
しかし、朋志はこの二年間、療法士から最低限のコマンドしか受けていないSubだ。
棗から直接聞いたわけではないが、彼はDomで。
二人の近くにいるのは、抑制剤を服用していても疲れることだった。
本能の開放を望んでいるわけではない。
「ちょっとお手洗い」
「ああ」
朋志が席を立ったのを待ち構えていたように、何人かのSubが二人に話しかけている。
挨拶代わりにプレイを持ちかけるのか、パートナーにと口説くのか…。
きっと、あれがSub本来の姿なのかも知れない。
お手洗いを済ませ、ホールに向かう通路では顕が一人で立っていた。
「顕さん。な、棗さんは」
「席にいるよ。それより棗をどう思った?棗はDomなんだ」
耳元で声を潜めるように聞いてくる。
「いい人だと思います」
やっぱり、と思いながら少し距離を取る。顕は気にした様子もなく、こともなげに言った。
「そうか、棗は朋志を気に入ったみたいだけどな」
二人だけで話をしてみるか。気が合いそうなら、プレイもしてみたらいいかもな。などと顕は好きに言っている。
朋志が今も一人でいると知り、多分、同じようにパートナーがいないDomを紹介してくれている。好意で。
気に入ってる?
俺を?
よく知らないのに。
コマンドに飢えてるSubだから、
支配しやすそうだから?
--- 駄目だ、考えがおかしな方向に…
店の雰囲気に呑まれてしまっている。
嫌な傾向だ。
「顕さん、すみませんが今日はもう俺…」
「ああ顔色が良くないな、遅くまで悪かった。一人で帰られるか。よかったら棗に送っ」
「一人で帰ります」
「おい、朋志」
顕の言葉を遮り、通路を抜けて店を出る。
さっきまで使っていたテーブルの方を見ると、棗が誰かと話していた。目が合った気がしたが、会釈すらせず、出口に向かう。失礼なことをしている自覚はあったが、今は一人になりたい。
顕に言われたからと言ってノコノコついて行くんじゃなかった。Subの本能を改めて念押しされただけだ。
棗は、本当にいい人だと思う。きっとDomとしても。
--- Domとのプレイなんかいらない。
--- 俺は…
どんなに好きな相手とでも、プレイをすると、すぐにサブドロップを起こしてしまう、駄目なSubなのだから。
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