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トラウマ持ちのSubは面倒くさい
トラウマ持ちのSubは面倒くさい 5
「具合が悪いなら医務室を借りられます。休んでいきますか」
その人は、ちょうど朋志が出てきた八峰ビルを指差して言った。
背は同じくらいで、支える手は朋志よりも大きくて、あたたかい。声は優しく響くテノール。
疲れて緩慢になっているとは思えないくらいの速さで、声の主について情報収集している。
そんな自分にびっくりして、「だ、大丈夫です」と言って離れようとすると、手は離れたけど、その人はそれ以上距離を取ることはしない。本当に大丈夫かと疑っているようだった。
「休んで楽になるならお気を遣わずに」
「あ…いえ、ありがたいのですが、いつものことなので…」
日差しの強さに目の奥が暗くなったのは一瞬のことで、歩けないほどではない。
早く帰ろう。そう思うのに、気遣うテノールに気持ちが引き寄せられる。
声だけじゃない。少し細めのアーモンドアイにきれいな瞳。その人は清涼感がある夏用のスーツを着こなしていて、できるビジネスマンという言葉がぴったり当てはまる。それが手が届く距離で…。
「きみ…」
「あっ」
不躾に見すぎたようだ。「お気づかいありがとうございます。本当に大丈夫です歩けます」頭を下げて、逃げるように駅へ向かう。
その人は、それ以上話しかけて来なかったが、心配そうに朋志の姿が小さくなるまで見守っていた。
鈍行は本数が少ない。ベンチに座って電車を待つ間、先ほど交わしたやり取りを反芻する。
親切な人。
きれいな人だった。どことなく森のような香りがして、声は優しく響くテノール。魅力的な人だった。
八峰ビルで働いているのかもしれない。でも、八峰ビルは臨時で掃除しに行っただけだから、もう会うこともないだろう。
そこまで考えてやっと一息つけた。
--- きっとあの人は、Domだ。
コマンドを使っていたわけではないのに、言葉には力があった。このまま言うとおりに休ませてもらっても良いかもと思った。強いDom性を持っている人は、普段の言葉でもSubには刺激が強く感じてしまうときがある。
Domとはあまり関わりたくない朋志でも、抗いがたい力を感じた。
プレイしたいのは一人だけだという朋志の感情とは別に、Subとしての本能はDomを求めていた。
--- Subを惹き付ける、強いDom
--- こわい
薬が効いていなければどうなっていたかわからない。
感情を置き去りにする本能がこわい。
いつか薬が効かなくなって、誰にでもコマンドを強請ってしまう日が来る。
朋志の場合、それはさほど遠い未来の話ではなく…。
明日にでも、主治医に相談して紹介状を書いてもらおう。
昼間の鈍行は人がまばらですぐに座れた。行きとはちがい、人に酔うことはなく安心した。駅を出たところで、人が近づいてきた。なんだか全身がゾワゾワする。
この感じ、知ってる…。
「朋志」
「あ…顕さん…」
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