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ネガティブなマッチング
ネガティブなマッチング 5
掴みどころのない、ふわふわした感覚だった。
最初はこわくてこわくて仕方なかった。でも、途中から優しい声が聞こえてきて、こわくなくなった。耳触りのいいテノール。
褒めてくれて、気持ち良くなって…
ゆっくりと目を開く。見たことのない、薄暗い部屋。枕元のデジタル時計は明け方の時刻で。
何かが動く気配に体がこわばる。
--- そうだ。俺、店の前で知らないDomの人に…
明るくなる室内に、人がいた。
「目が覚めましたか」
「わっ」
「驚かせてすみません」
「な、棗…さん」
店から、この部屋までの道のりが抜けている。部屋を見渡しても、何もわからない。
「ここはビジネスホテルです」
「ビジネスホテル…」
「ええ。昨日、丸目さんは見知らぬDomにコマンドを使われそうになっていて、合意の上とは思えなかったので、間に入りました」
「…」
シングルベッドが二つ並んでいる部屋。棗は、朋志が使っているベッドに膝を向けて腰をおろした。
あのとき、何も言わずに帰ろうとしたのに…。知らないDomにコマンドを使われそうになって。
--- 助けてくれたのか…
「ありがとうございます。あと、声もかけずに帰ろうとしてすみませんでした」
「いいえ、お気になさらないでください」
「…俺、ドロップしたんですか」
「近い状態だったと思いますが、受け答えはできていましたから、違うと思います。コマンドも未遂だったようですし」
サブドロップしていなかったことは、大いに朋志を安心させた。
--- よかった…
胸を撫で下ろして口元が綻ぶ朋志を、棗は複雑な表情で見ていた。
「丸目さん、体調はいかがですか」
「けっこう…良いと思います」
言われてみれば、『フィー』で何人ものDomに圧倒されたときの疲労感はない。
いや、かなり体が軽い。
「丸目さんに一つ謝らないといけません」
「えっ」
今の状況で迷惑やお世話をかけている朋志が謝るのはわかるが、棗が謝る理由がわからない。
棗は、近寄りがたいくらい難しい顔をしている。
こんな表情をしていても、棗は見惚れるくらい綺麗だ。
朋志は昔父と行った、ボヘミアングラスの展示会で見た、透明感がある宝石のような美しさを、ぼーっと思い出していた。
「僕は、丸目さんにコマンドを使いました」
その言葉に目を見開いた朋志を、棗は至極真面目な表情で見ていた。
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