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ハッピーエンドのその先は
変化を受け入れるには 7
「こんばんは」
「どうぞ、夕食がまだでしたら一緒に食べませんか」
棗は、仕事から帰ってきたところだと言っていたが、すでに部屋着に着替えていた。
連絡してから時間もたっているので仕方ないが、棗のスーツ姿が見られるかもしれないと思っていた朋志は少しがっかりした。
「明日はお休みでしたね、泊まっていかれますか」
「いえ、着替えは持ってきていないので、帰ろうと…」
思いますと言おうとしたが、それ以上は言えなかった。棗が朋志の肩に額を乗せて、ちらりと流し目を送ってきたので。
「そんなことを言わず、用事がないなら泊まって行って欲しいです」
ーーー 近い、息がかかる…
「着替えは僕のを使ってください、下着は新しいものを出しますから、ね…」
「は、はい…じゃあ遠慮なく…」
「ええ、僕のわがままを聞いてくださってありがとうございます」
棗が甘えるようにおでこを軽く擦り付けてから離れていく。
「夕食の用意をしてきます。先にお風呂に入ってきてください」
「…?はい」
ーーー 気のせいかな
棗がいつもと違う気がする。
ーーー 甘えてたのかな…?
朋志を甘やかすスキンシップはいつもしてくれていたが、あんなふうに棗から甘えるようなことはない。
ーーー 棗さんもああいうことするんだ
棗が可愛く感じた。
お風呂からあがり、棗のスウェットとTシャツを借りて着る。想像どおり、スウェットの裾は余りTシャツは大きい。わかっていても複雑だった。
「お風呂ありがとうございます…」
「ちょうど用意できましたよ」
夕食を食べ、棗が紅茶をいれてくれた。
「話があるんでしたね、先に入浴してもいいですか」
「はい、あの、棗さん…」
手を拭いて、バスルームに行こうとする棗を呼び止める。
「どうしました」
「…縛って欲しいです…」
「…」
「ダメですか」
「いいえ」
寝室のベッドにうつ伏せに寝かされる。
「手を後ろにしてください」
「はい」
合わせた人差し指を、棗が細い縄で縛っていく。
「キツくないですか」
「大丈夫です」
手首を縛るより可動域は広い。
でも、力を入れたら簡単に指が抜けそうで。
「棗さん…」
「あまり動くと縄が解けますよ」
棗の方を見上げようとしたが、弾みで縄が緩んで指が抜けたらと思うとできなかった。大きな手が朋志の頭を撫でる。
「朋志さん、このまま僕が戻ってくるまで"'Stay"です」
「は、はい」
「縄が解けず、僕がお風呂から上がるまで、ちゃんと待てたらたくさんご褒美をあげます。どうして欲しいか考えておいてくださいね」
寝室に一人、棗のベッドにうつ伏せで人差し指を縛られている。
一人は嫌だが、棗が縛ってくれた縄がある。ベッドは棗の匂いが染み付いている。
不用意に動けないが、できたらたくさんご褒美をくれると言っていた。
棗に話をするまえに満たされたくて、プレイをお願いした。
この体制だと棗の匂いに包まれているようだ。まだプレイ中なのにもかかわらず、うっとりして力が抜けそうになる。
慌ててその度に指が縛られているかを確認し、縛られていることにほっとする。
どれくらいそうしていたのか。
「朋志さん"Goodboy"、よくできましたね」
「あ…」
縄が解かれる。うつ伏せた腰の上に重なっていた手のひらが解放されて滑り落ちる。
ベッドが軋み、棗が片肘をついて朋志の横に沿い、背中や頭を撫でる。
「縄も緩んでなく、きれいでしたよ」
「うん」
「このまま寝てしまいそうですね」
「もっと撫でてください…棗さんの手好きです…」
「いいですよ。頑張りましたね」
「俺が棗さんのコマンド聞けたら、嬉しいですか」
「ええ、僕のコマンドに全身預けてくれたら嬉しいです。今みたいに」
「ここ棗さんの匂いがするから…」
「そうですか」
「俺…棗さんがそう言ってくれるだけで充分です。棗さんが他の人と体を繋げても…」
「…はい?」
「性欲は二つあるから。俺じゃあプレイはできてももう一つの方はできないから…」
ーーー 俺も想像したこともないけど、棗さんからも誘われたこともないから…
「ああ、そういう…」
棗はもう朋志を撫でてはいなかった。はーっとため息を吐く。
「僕とのパートナーを解消したいってことですか」
「ち、違います」
「違いますか」
「はい」
「じゃあ、プレイパートナーを朋志さんにして、セックスパートナーを他で見つけてきてもいいということですか」
「えっ」
「…違いますか」
「はい…」
「…」
「…でも、棗さんがそうしたいなら…」
「僕がしたいならプレイだけでいいですか」
「…はい」
体を起こすと、柔らかいベッドが波打つ。
棗は腕を枕にしていた。長い前髪で表情はよくわからない。
しばらくそのまま動かなかったが、ゆっくりと体を起こして、前髪をかき上げる。
ちらりと朋志を見る目は冷えていた。
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