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ハッピーエンドのその先は
変化を受け入れるには 9
棗は何も言わず、朋志を抱きしめてくれた。
それだけで涙がでそうなほど嬉しかった。
「ごめんなさい」
「…」
「棗さん、触るのは俺だけにしてください。他の人なんて触らないでください」
頬に温かい感触。手を添えられて、顔を覗き込まれる。
「泣いているんですか」
「泣いてません」
「そうですか」
それ以上言及されず、長い指が目尻を辿った。
「実は朋志さんのそういう未熟なところも好きなんですよ」
「…怒ってましたよね…」
「怒っていませんよ。むしろ、やっと意識してくれたのかなって。まさか他にセックスパートナーを見つけていいと言われるとは思っていなかったので、お灸を据えるつもりでしたが…」
「すみません…」
「僕はとっくに朋志さんだけのつもりだったんです」
「じゃあ、もう一つの、その性欲っていうか…」
「…セックスですか」
「はい…」
「こんなことあえて言うのもなんですが、いくら溜まってるからって誰彼構わずにしたいなんてことは思わないですよ」
「…」
「なんですか」
「棗さんが、…セ、セックスに誘われたことがあるって…」
「あぁ…、ありますよ。朋志さんに会う前のことですが、さっき言った通りです。それより朋志さん」
「はい」
「…許斐さんと一緒にお風呂に入って、本当に大丈夫だったんですか」
「顕さんとですか」
確かに顕と一緒にお風呂に入り、体を洗ってもらったことはある。その時のことを思い出す。
「正直、ずっと気になっていましたよ」
「俺がプレイで不安定になってしまったのでケアでしてくれたんです。何回か一緒に入りましたけど…顕さんは洗うだけなので服を着ていました」
「裸だけ晒したと。…まあ、許します」
棗が、セックスするのは誰でもいいわけじゃないと言ってくれただけで、安心している。胸のつかえが下りた。
「朋志さんは、僕とセックスすることは考えられませんか」
「う…」
「生理的に受け付けないとか」
「そんなことないです」
「僕に触られるのは好きですよね」
「好きです」
「もうそれが答えだと思うのですが…」
大きく頷く朋志に呆れる棗。
「朋志さんに、一から性の手ほどきができると思えば悪くありませんね」
朋志は休みだが、棗は明日も仕事である。
「慣れるため」と言われてベッドに入り、抱き込まれてしまった。
「こ、これで寝るんですか」
「ええ、朝起きたら違う方向を向いているので大丈夫ですよ」
「はい…」
棗が言うならそうだろうと思う。
でも、今。
後ろからお腹に手を回されて、背中からは心音が伝わるくらい密着していること。
首に熱い息がかかること。
棗とくっついて、心音や熱を感じたことなど初めてではないのに、どうしてか気になってしまう。
--- 棗さんが寝るまで耐えよう…
棗が寝たら、そのすきに逃げ出そうという魂胆である。
「そういえば」
「はいっ?」
慣れろと言われた直後に逃げる算段をつけていることがバレたのかと思ったが、違った。
「朋志さんが、僕の手を胸に抱き込んだことがありましたね。覚えていますか」
「…はい」
あれは、どこにも目移りしてほしくない朋志が棗の関心を引こうといっぱいいっぱいになった結果の行動である。
先程のプレイで、棗に抱きしめてくれと催促したのと同じだ。
蒸し返されると、妙に冷静になる。
何ごとにも受け身な朋志にしてはかなり大胆な行動で、なにを言われるのか身構え、頬に熱が集まる。
今までのやり取りの後には、心臓に悪い話題だ。
「あれはとてもよかったです、ときめきました。そのうえ、今日は家に来てくれて嬉しかったですよ」
ありがとうございますという言葉のあと、首の後ろに柔らかい感触。
「なっ…」
振り向くと、朋志が一番好きな笑顔で。
「あ…ぅ、」
反論できなかった。
「朋志さん、僕はDomがSubを支配するんじゃなくて、SubがDomを創りあげていく過程がパートナーの在り方だと思っています」
「えっ」
「DomはSubの許しがないと、まともにプレイすらできませんから…」
これ以上密着できないと思っていたのに、さらに引き寄せられ、今度は耳に柔らかくて温かい体温を感じた。
「だから、早く心も体も僕に愛させてくださいね」
「俺は…」
Domに支配され、Domの好きな振る舞いを覚えていくことがSubの被支配欲だと思っているが、棗は全く違うことを言いだした。
--- やっぱり棗さんは、変なDom…
でも、棗の言う関係は、少しのことで不安になってしまう朋志にはちょうどいいように思う。
--- 棗さんとパートナーになれてよかった
棗のように歯の浮く台詞を言えない朋志は、言葉の代わりに棗の手を取って、そっと胸に押しあてた。
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