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ハッピーエンドのその先は
困った愛情表現 3
「棗さん」
明日は早いので、朋志に合わせて早めに就寝することになった。
ベッドにあがり、そこで朋志は、あっと思い出した。
「はい」
棗は少し読みたい本があるらしく、手元の照明を調節していた。「明るくないですか」と先に就寝する朋志を気にしているので、大丈夫ですと答え、棗ににじり寄る。
「さっきの話…またしてしまうんですが…」
膝頭に当たった棗の腿に手を置くと、少し大きな手が重なる。
「いつも棗さんは優しいから、俺の方こそ感謝しているんです」
「うれしいです」
「だから、その。俺にも棗さんになにかできないかなって思って」
「…はい」
「棗さんはして欲しいこととかありますか。できたら教えてほしいです。おねがいします」
「……あなた、自分ではわかっていないかもしれませんが、この状況でそんなことを言われたら…」
「…?」
「…いえ、僕が好きでしていることですから」
「そうですか…」
確かに、朋志ができることは少ないうえ、なにをしたらいいのかとこの数日考えていたけど、これといったものは思いつかなくて。
してもらうことに慣れてしまっていて、反省しきりだった。
「あの、変なこと言っちゃいましたね。いつも本当にありがとうございます。おやすみなさい」
なにかしたい気持ちはあるので、ささやかでも自分で考えた方が良いかと気持ちを切り替えて寝ようとしたが、重なっていた手の指が絡んできて。
「棗さん」
「あります。朋志さんにしてほしいこと」
「ほんとうですか」
「ええ、舌の根が乾かないうちにという感じですが…朋志さんにしかできないことです」
「えっそんなことあるんですか」
「…」
「教えてください棗さん」
「…」
「俺にできることがあるならさせてください」
じーっと棗を見つめながら必死に言い募る。
朋志の手を握ったときに、棗の負けは決まっていた。
「嫌だったら断ってくださいね…」
最初に断わりをいれた棗がしたいことは、朋志とのプレイだった。
ただ、明日は”庭園デート”なので、プレイは日曜日にすることになり、プレイなら今からでも…と思っていたが素直に頷いた。
朋志に心の準備をする時間が必要だという。
棗は朋志の反応を気にしながら、どんなプレイがしたいのかも教えてくれた。
服は着ない。
手首を縛る。
プレイコマンドは、"Present"と"Kiss"を使う。
「えっ」
朋志はびっくりしてしまったが、棗は何も言わなかった。
「おやすみなさい」
「はい、…おやすみなさい」
背中に仄明るい光を受けながら、本を読んでいる棗の気配を強く感じでいた。
--- 心臓がおかしくなりそう…
どんなことをするのか教えてもらっていても、朋志ができる想像の範疇を超えていた。
どうなってしまうのかと今から緊張している。
ただ、断ろうとは思わなかった。
棗の匂いにほうっとしながら、気がついたら眠ってしまった。
庭園は、週末で人は多めだったが、広い敷地だったので混んでいるという感じではなく、ゆっくり歩きながら見て回れた。
歩きながら、棗が手を繋いでくれたのもときめいた。
朝から棗が水筒に淹れてくれた紅茶を飲みながら木陰で休憩する。
以前から密かに欲しかった棗の写真を撮らせてもらう。
「一緒に撮りませんか」
と誘ってくれたので、近くを歩いていた老夫婦にお願いして撮ってもらった。
普段は、二人で並んでいるところを改めて見ることは無いので新鮮だった。
棗の表情も柔らかくて、こそばゆく感じるくらいだ。
うれしい。
いい思い出になった。
”初めてのデート”は甘酸っぱくて、最初から最後まで朋志の好みだった。
朋志は楽しくて、ふわふわと浮ついていたので、時折、なにか言いたそうに見ている棗の視線には気づかないままだった。
棗のマンションに着いて、中に入ろうとした段階で、明日は棗のいうプレイをするんだと思い出した。
「…棗さん」
「はい」
「今日はありがとうございました。楽しかったです、すごく」
「そう言ってもらえたら、僕も嬉しいです」
「それで、その、明日のこともあるので…」
「…」
「今日は家に帰ろうと思います」
「そうですね、僕もそのほうが良いと思います」
棗が朋志の荷物を持って来てくれた。
「合鍵は持ってくれていますね」
「はい」
「それで朋志さんの好きなときに入ってきてください」
「はい」
「でも、無理はしないでくだいね」
「…大丈夫です」
「おやすみなさい」
「おやすみなさい」
--- やっぱり優しい
棗はいつも朋志を優先してくれる。
朋志が怖気づいても、許してくれると知っている。
棗に我慢をさせたいわけではない。
朋志は、嫌だというつもりはなかった。
でも、なにかが変わっていくかもしれないという漠然としたものがあって。
一人になってゆっくり考えてみたいと思った。
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