【R-18】トラウマ持ちのSubは縛られたい 〜Dom/Subユニバース

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日常系

灯り、夜空を彩り、夢を紡ぐ。 3





 ハロウィン当日。
 朋志は仕事を終え、そのまま棗の家に向かった。
 すでに待ち構えたいた棗もまだ仕事を終えて間もないようで、スーツのジャケットを脱いだだけの姿だった。
 棗のスーツ姿がお気に入りの朋志は、ぼうっとしてハッとした。
 朋志にとって棗のスーツは、毎回は見られないレアものである。
 ーーー 俺、棗さんのスーツ姿が一番好きだなあ

 「どうしました」
 出迎えた棗が、声をかける。
 「今更ながら、執事もよかったなあと思っていました」
 下心しかない発想で、言いながら照れてしまう。
 ほんのり頬を染めた朋志に、目を鋭く光らせた棗が言う。
 「朋志さんは案外コスチュームプレイが好きになれるかもしれませんね」
 天使と妖精でジリジリ悩んでいた男のセリフである。
 「コスチュームプレイ…?」
 なにそれ。





 「わあ」
 棗が実家から借りてきたという神父の衣装は本格的なものだった。
 朋志のリクエストで、聖書と十字架の小道具もある。
 こ、これを棗さんに…。知らず喉が上下する。
 緊急脳内会議を始める号令がかかる前に、冷静な棗の声。
 「朋志さん、行きますよ」
 「あっ、はい」


 会場に着くと、更衣室に案内された。棗が事前に交渉していたようで、更衣室は合同ではなく個室だった。
 職権乱用…いや、友人への気配りである。
 


 「先にこちらへ着替えてください」

 紙袋から出てきたのは、緑のふわふわした衣装。
 森の妖精である。
 「室内とはいえ晩秋ですので、あれから少しだけ布地を増やしました」
 着てみると、確かにフィギュアスケートのような動きやすい衣装から、ダンス映える衣装くらいには生地が増えたような気がする。
 言われるまま重ね着して、編上げのベルトをする。
 先の尖った編上げのブーツも。
 棗は終始にこにこしながら、朋志の着替えを見ている。
 「これもどうぞ」
 そう言って頭に冠を乗せてくれる。
 細い蔦が編まれており、これが冠の芯となっている。デコレーションはユーカリの葉。
 「きれいです」
 棗が目を細めて褒めてくれるから、恥ずかしいけど嬉しい。

 「棗さん」
 「はい」
 「俺は、どういうモチベーションで森の妖精になったらいいのでしょうか」
 「決まっています」
 朋志の手を握り、棗が力説する。
 「抜苦与楽です」
 「??」
 仏教??
 「あと、朋志さんはいてくれるだけでみんなが癒やされていきますので、固く考えず自由にしてください」
 「わかりました…?」


 
 神父の衣装を改めて広げる。

 棗はうきうきを隠せていない。ドヤ顔にも見える表情で待ち構えている。
 「棗さん後ろを向いてください」
 「はい」
 広げたキャソックに袖を通していく。 
 ボタンを一つずつ留めていく。
 

 「妖精さんに服を着せてもらえるなんて感激です」
 「でも…俺なのに…」
 「とんでもない。妖精はときには幸運をもたらし、自然に溶け込みます。自然のなかでも美しい妖精は光り輝き…僕は自然の中からついに妖精と出会って幸運を得ました。朋志さんは僕の等身大の妖精です」
 「…はい」

 比喩がもりもりで、ハロウィンの魔法にかかってしまったかのような気分にもなり…、朋志には理解しがたい世界の話だった。

 ハロウィンのテンションか、言っていることはよくわからない棗だが、神父の衣装を着て十字架ロザリオの首飾りに聖書を携えると、朋志にとって理想の神父そのものである。
 「はわぁ…棗さん、すごくいいです…ほんとうです」
 「疑っていませんよ、ありがとうございます」
 朋志はテノールで聖書を読んでくれたら嬉しい、一緒にお祈りがしたいと熱心にラブコールを送る。
 自分の容姿に今ひとつノリきれない棗は、かわいい妖精のためならと、「ありがとうございます、妖精さんが聞いてくれるなら賛美歌も歌います」とピントのズレたことを言い始めていた。







 パーティ会場は、朋志の語彙力では表現できないくらい大きく、数百人規模のホールは、あらゆるものに仮装した人たちが食事を楽しみ、賑わっていた。

 「すごい…」
 「無国籍ですね」
 
 見渡すだけでも、ゾンビにキョンシー、スケルトン…。
 朋志には、どの人たちも完成度が高い、熟練のコスプレイヤーに見える。
 「朋志さんは何か食べたいものはありますか、取ってきますよ」
 この知らない人しかいない空間で、一人で待っているのは心細い。
 「一緒に行きます」


 
 食事は、簡単な立食、バイキング形式でお皿に何種類か食べ物を乗せる。
 飲み物をどれにしようか選んでいると、後ろから声がかかる。


 「朋志さん」
 どこかで聞いた声だが、仮装しているから分かりづら…い…
 「あっ、吉継さ…ん?」
 「…はい、来られていたんですね…」
 「蘭さんこんばんは、お似合いですよ。僕たちも聡実から声がかかってお邪魔させてもらいました」
 「棗さん…こんばんは」

 「吉継さん、その仮装は」
 黒いワンピースに大きな赤いリボン。手には箒に黒猫ときたら…。
 「あ、あの」
 「いいんです。笑ってください」
 「聡実が決めたんですか」
 「はい、笑われてこいと言われて…」
 吉継は大きな体を丸めて項垂れているが、ウケ狙いの女装とも違う気がする。
 朋志にはなんだか可愛く見える。パン屋さんで店番している姿が見えるくらいには。それにしても大きすぎる。

 「聡実は何をしているんですか」
 「囚人です」
 「無難ですね」
 「はい、あちこち接待中です」
 「そうですか、会えそうにありませんね。お誘いのお礼を伝えていただけますか」
 「わかりました」




 
 食事をしていると、棗に声がかかる。
 「写真いいですか」というもので、一緒に撮る。さっきからひっきりなしに声がかかっていた。
 朋志は、棗のモテの凄さに、ただ圧倒されていた。
 「妖精さん?」
 「はい」
 振り向くと、まだ小学生にもなっていないと思われる女児が朋志を見上げている。
 「ゆいもふわふわ妖精」
 「ホントだね」
 「おそろい」
 「おそろいだね」
 花が咲くみたいに明るく笑う女児につられて一緒に笑う。
 かわいい。
 後ろで棗と女性の話し声。

 「お母さん、彼と一緒に娘さんも写真を撮らせていただいてもよろしいでしょうか」
 SNSにはアップしませんので、と交渉していた。
 「いいですよ、ウチも撮りますから」
 「ありがとうございます。朋志さん、写真を撮りますよ」
 「ゆいちゃん、お兄ちゃんとお写真撮ろうね」
 「はーい、妖精さんチーズ」
 ゆいは母と嬉しそうにはしゃいでいるが、朋志は棗に「森の妖精ですから自然に」と、この状況では高いハードルを課せられて、四苦八苦していた。






 
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