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ハッピーエンドのその先は
実家に帰らせていただきます 4
週末、実家に帰ることになったと棗に伝える。
『帰りだけでも迎えに行っていいですか』
届いたメッセージを読んで、『ありがとうございます、嬉しいです』とお願いした。
実家までは、電車と徒歩で約一時間かかる。
朋志の実家は最寄り駅から徒歩で十分くらい離れた、閑静な住宅街の一画にある。
丸目とローマ字で書かれた表札。小さいが手入れが行き届いた庭には、数種類のハーブが育てられている。
インターホンを押して少しすると、母が出てきた。
朋志を見て破顔する。
「あの…、ただいま」
「さ、中に入ってちょうだい」
母が淹れてくれたハーブティーのハーブは、庭から摘んできたものだ。
客間には、父もいた。挨拶をして、朋志が家を出るまでいつも座っていたテーブルの席に座る。
ハーブティーを一口飲んで、父が口を開く。
「朋志は、まだあの家にいるのか」
「はい」
「帰ってくるのか」
「あ、いいえ」
「朋志さん、電話では仕事が決まったからと言っていたじゃない」
「正社員になりますけど」
体調が安定して、正社員として働けるだけの体力もついた。
「”治った"から帰ってくるという事じゃないのか」
「いえ、”治った”とかでは無くて…」
この平行線は予想していた。
「通院して良くなったんじゃないの?」
母が不安そうに聞いてくる。
良くなったのは、通院したからじゃなくて…。
「俺は、一人暮らしをして薬を飲んでもダイナミクスが全然安定しなくて、…」
薬は効かない。療法士とプレイをしても駄目だった。
棗に出会って、棗が朋志の安心できるプレイを見つけてくれるまで、ずっと苦しかった。
棗がパートナーになってくれて、今こうして元気な姿を見せられるようになった。
「パートナー…」
「朋志さんのパートナーは、女性の方?」
「いえ、…男性、です」
窓から差し込む光は柔らかくキラキラしているが、ひときわ重苦しい空気になったことがわかる。
両親がDomとSubのプレイについてどこまで理解しているのかわからないが、朋志のパートナーが男性だという時点で、理解の範疇を超えているだろう。
「また、そんな相手に依存して、駄目になったらどうするんだ」
「薬を飲んだ方がいいんじゃないの」
「…」
両親が朋志を理解しようと…できなくても…してくれるのは、親子だから…だけではない。
ダイナミクスに関わる第二性を持った人は少ないが、学校の検査で判ることであったり、病院に専門の科があることだったり、療法士がいることだったり…。社会的に一定の枠組みがあるから。
この人たちが、社会通念に反した行いはしない人たちだから…。
優しい人たちだから、朋志はわかりやすく責められたりしないが、くっきりと濃い溝が見える。
”Sub”にとって、理解ある”Dom”の保護下、支配下に身を置くことは”安心”を得ることだ。
多くの人たちが、家族やパートナーにたいして感じる安心感となんら変わらない。
”Sub”だとわかるまでは、朋志にとって、両親が、この家が”安心できる場所”だったのに…。
朋志は、両親には理解してほしいと思う。
心配をかけたくないと思っても、両親にとっては”治った”以外は受け入れられないのかもしれない。
ーーー 親不孝になってしまった…
ーーー ずっと心配してくれたのに…
「俺、今までふたりに心配かけてきたから、仕事ができるくらい元気になったことを言いに来ました」
「朋志さん」
「言いたかったのはそれだけです」
帰ることは止められなかったが、また来ると言う朋志に、来るなとも言われなかった。
「朋志さんのお部屋はそのままにしてあるから、いつ帰って来てもいいのよ」という母も、朋志が本当に帰ってくるとは思っていないだろう。
「うん、ありがとう母さん。父さんにも伝えて」
「ええ」
実家の最寄り駅に向かう間に、メッセージアプリを開いて棗に連絡する。
近くの公園で待っていたら、棗が迎えに来てくれた。
「ご両親とゆっくり話せましたか」
「はい、ありがとうございます」
車に乗り込み、棗に声をかける。
「棗さんとプレイがしたいです」
たくさん触ってほしいと誘う。
棗はなにも聞かずに、「もちろん、いいですよ」と二つ返事で答えてくれた。
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