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日常系
灯り、夜空を彩り、夢を紡ぐ。 4
宴もたけなわ、子どもがいる家庭を中心に来場者が半数くらいになったころ。
「僕たちもそろそろ帰りましょう」
「はい」
棗は神父をしていたので、吸血鬼など画角が映えそうな仮装をした人達と写真を撮ったりして、おおいに盛り上がっていた。
朋志は、人が切れないその輪に入る勇気はなく、お爺さんやお姫様の仮装をしていた人達と写真を撮ったりしながら交流を楽しんだ。
近くにいたゾンビにお願いして、棗と一緒の写真を撮ることもできた。
そして…。
更衣室で朋志が衣装を脱ごうとしていると、「朋志さん」と止められる。
「えっ」
「実は、上に部屋を取っています」
「ええっ」
「服を脱がせてくれる約束でしょう」
「は、はい…」
「まさか、本当に脱ぐだけで終わると…?」
腰を抱かれ、耳元で囁く甘いテノールにうっとりするが…
…思っていた。
朋志は、服を脱がせて畳んで終わりだと思っていた。
せいぜい五分の仕事である。
それを楽しみにできるのが朋志なのだ。
「あの…プレイですか」
「もちろん。嫌ですか」
理想の神父に甘えられて、嫌だと言えるはずもなく。
むしろ…。
「あ…ぅ、俺もしたい…です」
仮装したまま上着を羽織る。
カードキーを受け取り、エレベーターを上がって着いたのは、落ち着いた雰囲気の夜景がきれいな部屋だった。
荷物もそこそこに、窓に張り付いて景色を眺める。
「すごい、きれいです」
「よかったです。ここはアメニティの紅茶が美味しいらしいですよ」
「え」
美味しい紅茶と聞いて、つい顔がにやけてしまう。
「でもこんな部屋、俺…」
豪華できれいな部屋。一泊いくらするのか、ホテルに詳しくない朋志には検討もつかないが、高いだろうことはわかる。
「勝手なことをしてしまいました」
「いえ、棗さんを責めたいわけじゃなくて」
同じものを返せない自分が不甲斐ないのだ。
もどかしくて下を向く。
棗が朋志の手を取って引き寄せ、腰を抱く。棗の胸に手を置くとそのまま抱き上げられた。
「わっ」
「軽いですね、本当に妖精みたいです」
「棗さん」
”Kneel”のときのように、棗が朋志を見上げて言う。
「朋志さん、あなたの清貧な精神は侵しがたい魅力ですが、これは僕がしたくてしていることですので、付き合っていただけたら嬉しいです」
「ぅ…でも」
「僕にとっては、ハロウィンの仮装は口実です」
棗がきれいな笑顔を見せる。
朋志を虜にする、きれいな笑顔…。
「いつでもあなたの全部に干渉したいと思っているんです。たまには許してください」
コマンドは、”Strip”と”Kiss”。
朋志が妖精のまま、神父の衣装を脱がせていくため、ボタンをひとつずつ外していく。
棗は、緊張してもたつく朋志に見入っている。
「朋志さん、あなたは森の奥深くから僕のためにやって来た妖精ですね。森の抱擁に溶け込む美しさ…この光景…夢みたいです」
「…」
そんなに言われると恥ずかしい。
どうして棗はそんな恥ずかしい言葉ばかり言うのか。
「おや」
「…」
「頬が赤いですよ」
「棗さんがあんなことばかり言うからです…」
「あれしきで根をあげられたら困りますね…鳥のさえずりだと思って聞き流せばよいかと」
「…」
今日の棗は少し意地悪だ。
ひたすら、「あなたのほっそりした体は、自然の美を映し出しています」だの「控えめな瞳は森の神秘を捉えてますます美しくなります」だの「優雅な姿勢で僕に跪く姿は、森に佇み、自然と調和する美しさとうんぬんかんぬん…」と称賛を浴びせられ、ボタンを外し終わる頃には息も絶え絶えだった。
どうして、カソックにはボタンが三十三個もあるのか…。
朋志は立ち上がり、棗の肩からカソックをずらして脱がせる。
「はあ、名残惜しいです」
そう言いながらも棗は協力的に動いてくれる。
薄手のセーターと細身のパンツに着替えて、神父からいつもの棗に戻った。
そして。
密かに呼吸を整え。
棗の肩に手を置いて、唇を寄せる。
頬に軽く、もう一度、今度は強く。
左右にの頬にキスをして、棗を見る。
腰を優しく抱かれる。目は満足そうに細められていたので、朋志は続く褒め言葉を確信して体の力を抜いた。
「妖精の祝福とあなたの愛情、受け取りました」
「…はい…」
「素敵な時間をありがとうございます」
「はい」
朋志も棗が喜んでくれたのが嬉しくて、目の前の肩に頭をのせる。
お礼にと朋志の頬にもキスしてくれる。
棗の唇はくすぐったくて肩を竦める。
そんな姿を棗は、瞬きも惜しいような心持ちで見ていた。
「妖精に一夜の恋をさせていただきました。素敵な時間をありがとうございます、でも僕は早くいつもの朋志さんに会いたくなってきました」
さらに、”Strip”と”Kiss”で朋志は、妖精の衣装を丁寧に脱がされながらまたも棗からクサい言葉を浴びせられる羽目になった。
耳を塞ごうとすると、甘いキスで宥められながら…。
会場で撮った写真を見せ合う。
棗のスマホに納められた写真は、ハロウィンらしいもや、アフリカの戦士、寿司ネタや枝豆の着ぐるみで仮装している人と撮っていたり、タイプの違う神父と写っているものもあり、見応えがあった。
さすが棗さん…。
棗は変わり者だが、コミュニケーション能力は高い。
羨ましく思いながら見ていると、「朋志さん」と声がかかる。
どこか不穏な声色で、あれ?と思ったが、心当たりはない。
「これはいつの間に撮ったのですか」
一枚の写真を朋志に見せる。
「えっ、ああこれは」
妖精と狩人のツーショットである。
狩人から声をかけてくれて、一緒に撮った一枚だ。
「こんな清楚で可愛い妖精の肩を抱くなんて…なんて図々しい…僕の妖精なのに…この狩人…」
狩人のスキンシップは初対面のそれではなかったように思うが、陽キャのパーティだし、こんなものかと思っていたのだ。
だが。
嫉妬モードの棗はこわい。
ほとんど呪詛である。
パーティテンションでタガが外れているのか、神父だったとは思えないありさまである。
「棗さんっ」
「なんですか」
目が据わっている。
美形の不機嫌顔は迫力がある。
「この狩人の人は、家族で赤ずきんをしていてこの写真を撮ってくれたのは奥さんの赤ずきんですほら、」
もう一枚写真をフリックし、狼の着ぐるみを着た子どもを抱いた狩人と赤ずきん、妖精で写っている写真を見せる。
「ね、大丈夫です」
朋志は必死だった。
「…」
しかし、棗は「近くに僕がいながら気づかなかったなんて…」と悔しそうである。
あんな老若男女が集まるパーティ会場の真ん中では、どう転んでも不埒なことにはならないし、ダイナミクスの間違いも起きない。
取り越し苦労もいいところである。
見た目はどこをどうとっても聖職者だったというのに…。
「だって俺、目の前に理想の神父さんがいるのに他所を見ている暇なんかありません」
「んっっ…そうですか…」
きっぱり、「棗さんだけです」と言い、心持ち首を傾げる朋志に、棗の気分も回復する。
朋志は妖精だったが、図らずとも小悪魔的スキルが上がった。
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