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蜜月かもしれません
芽吹きは、未知の扉
「俺、もともと棗さんのこと綺麗で格好良いと思っていて、見ているだけでどきどきしていたのに…違うどきどきがあったなんて…」
「僕は、ますます朋志さんに好きになってもらえたみたいな気分で嬉しいです。いろいろアピールしてきた甲斐がありました」
天国と地獄である。
朋志は。
きっかけは、実家に帰ったことだと思う。
もともと希薄だった親子関係に決着がつき、関心が全部棗に向いたからではないかと思っている。
もっと棗のことが欲しいとか、棗にも欲しがってほしいとか、もっと近づきたいとか、触ってほしいとかそういった気持ちがもやもやうずうず…言語化しにくい感覚的な感情が生まれて、朋志の中に少しずつ根付いていた。
その結果、急に恋する乙女みたいな反応をしてしまったわけだが…。
胸に手をあてる。
まだどきどきしている。
この気持ちの先にあるのが、いつか言っていた”性愛”になるのだろうか。
まだ心は置いてきぼりにされている気がする。
身体のほうも…。
「棗さん…」
「はい」
「俺、この感覚にまだ慣れないですけど、嫌じゃないです…」
「そうですか、よかったです」
棗と肩を並べて一緒に情報誌を捲る。棗は今までと違って、朋志の腰に手を回したり、あちこち撫でたりせずに寄り添ってくれる。
それでも、気持ちは満たされていて気分がよかった。
この日は、棗の家に来ていた。
朋志の部屋はプレイ向きではない。
改めてプレイのすり合わせをしようということになったのだ。
一旦、旅行は置いて。
平日の棗は、仕事帰りなのでラフな格好をしていて、前髪もまだ後ろに流したままだ。
週に何回も見ている姿だが、朋志は毎回ぼうっと見惚れてしまう。
棗は、苦笑するばかりだ。
「?」
「朋志さん」
「はい」
「実は謝りたいことがあります」
「えっ」
「すみませんでした」
「ええっ」
うっとりしていたところに思わぬことを言われて、猫騙しでもされたかのようだ。目をぱちくりさせる。
「あれから僕もいろいろと思うところがありまして…」
朋志が急に恋する乙女みたいになってしまったのを見て、棗なりに考えたらしい。
最初は単純に、”朋志さんはやっぱり可愛いなぁ”とか、”これはいわゆる性の目覚めの筈なので、慣れたらあとはもう……”とかのんきに思っていた。
でも当の朋志はといえば。
待ちに待ったというふうには見えず、変化に困惑していた。
棗は、普段からスキンシップ過多に愛でていたことについて、実はあまり良くなかったのかもしれないと思い直した。
「でもそれは俺も、棗さんに触られるのは好きだから」
「ええ、受け入れてくれていることは知っています」
ただ、心と体の歩調は合わせたい、というのが棗の思いだ。
「朋志さんの気持ちをあまり汲むことができていませんでしたね。僕は、僕の下心を反省しています…」
「…」
朋志は、びっくりした。
棗が朋志の心も体も欲しがってくれていることは知っている。
そして、世の中のパートナーたちがどのように愛を育んで、営みをしているのかも。
棗は、朋志のことを待ってくれている。
朋志は、待ってくれている棗を信じているので、変な焦りはなくても、”待たせている” と思っている。
性欲がほとんどない朋志に比べて、年齢なりのものを持っている棗のほうが、ストレス値は高い。
なので。
”遅い”や、”早く”、”いつまで待たせるのだろう”といった気持ちがあるかもしれないし、そう思っても、朋志は納得しかないのだが、そうではなかった。
棗は、下心を恥じていた…。
「そこまで気にしなくてください」
「どうしてですか」
「え…だって、俺、変でしょう」
棗は朋志にあれこれとはいわないが、朋志は棗に合わせることが普通だと思っているから。
「変…ですか」
「はい、俺は棗さんより年上だし、普通じゃないのは知っています」
「僕はいつも朋志さんのこと、可愛いとか素敵とか思っていますけど」
「え」
「朋志さんが変だと思っているところを”尊い”と神聖視していますので、ご心配には及びませんよ」
「え…?」
「あと、気にさせてください」
「…」
「朋志さんは、僕のSubでしょう」
「あっ」
「僕は、僕のSubに自分のことを変だなんて思わせたくないです」
「棗さん…」
「朋志さんは朋志さんのままでいいです。やっぱり今回はそう思わせていた僕が悪かったですね」
すみませんと謝る棗に、胸がきゅうとなる。
胸がきゅうっとときめき、棗の腕のなかに飛びつく。
棗はなんなく朋志を受け止め、抱きしめる。
「よかった」
「?」
「棗さんが俺のDomでよかったです」
「ふふ、そうでしょう。もっと言ってください」
「はい」
心が軽い。
それは棗のおかげだ。
体の変化には驚いたが、棗が”待っている”とも言わず、”朋志のままでいい”と言ってくれた。
朋志のDomがそう言ってくれたのだ…。
心が棗を求めて、体もついてきた。
まだまだ未熟なものだが、着実に育っている。
胸に手をあてる。
相変わらず、どきどきしている。
胸に芽吹いたものを育ててくれるものだ。
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