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蜜月かもしれません
未来は見えないけれど 4
旅行から戻り、程なくして朋志の新しい生活が始まった。
朝は今までと同じ時間だが、帰りは遅い。
棗とは週末にしか会えなくなった。
まだ変化に体はなれていないと感じるが、気持ちの上では充実していた。
仕事は楽しい。
最初は、環境の変化についていけるか不安だったが、周りのサポートもあり、ストレスはない。
今のところ、ダイナミクスの不調もない。
棗のおかげである。
棗が一緒に暮らしたいと言ってくれたことは、朋志の頭の中にずっとある。
あれから棗は、本当に普段どおりだった。
休憩時間に、スマホで写真をスワイプする。
旅行で撮ったものだ。
湖を背景にした棗と、寺院で一緒に撮ったもの。
朋志は、未だに信じられなかった。
こんな綺麗で格好いい人が、パートナーだと言ってくれるだけでもすごいのに、一緒に住みたいと言ってくれた。
旅行先で見たカップルは、首輪で絆を可視化させた。
衝撃的な光景だった。
朋志には思いつかない方法だ。
ダイナミクスを持つ者同士がパートナー関係になったら、任意で公的機関に登録を行う。
そうすることで、婚姻関係と同等の扱いをうけられる。もしもパートナーが病気や怪我で病院に運ばれたときなどは、一番に連絡が来る。家族と同じ扱いになる。
医療機関にかかったときには申告が必要だが、会社への報告は任意だ。パートナーを扶養している場合には申告するが、そうでなければ会社に言うメリットはあまりない。
ダイナミクスのパートナー関係は、多種多様なケースが多く、決まりもざっくりとしている。
婚姻関係のいいとこ取りをしているだけの、取ってつけたような決まりごとだ。
朋志は、棗とパートナー関係にあるが、登録はしていない。
棗とそんな話はしたことがないし、朋志は、顕と失敗した経験から、登録に前向きではない。
サブドロップすると、パートナー関係を解消したほうが良いと言われるからだ。
新しいパートナーを見つけたほうが良いと、見知らぬ機関の人に言われる。
棗とのプレイでサブドロップするとは考えられないが、もしドロップしてしまっても、棗とはパートナーを解消したくない。やり直したい。
駄目になったときのことを勝手に考えて、勝手に落ち込んでいる。
朋志と棗は、なんだろう…。
今は、お互いがパートナー関係にあることを認めている。
二人だけの決まりごとだ。
…一緒に暮らすことで、なにか変わるだろうか。
棗が言ったことは、お互いやりたいことは違うけど、これからも一緒にいたい。
だから、一緒に住みたい。
すごくシンプルでわかりやすかった。
朋志も棗と一緒にいたい。
一緒に暮らしたい。
でも、どこまでいっても朋志は、臆病だ。
こわい。
朋志から見て、棗はDomとして非の打ち所がない。
堂々としていて、言いたいこともやりたいこともはっきりしている。独立したいと言った棗は、格好よかった。
棗は、人としても憧れなのだ。
比べて朋志は…。
Subとしても、個人としても、至らないところだらけだ。
それでもSubとしてなら、棗が朋志のことを好きになってくれるのはわかる。一緒に暮らしたいと言ってくれることも。
不安だらけのSub、プレイも偏っていて、できることは少ない。棗が気づかせてくれて、それでも良いと認めてくれた。
むしろこんなやりにくいSub、棗以外に相手にされるとは思えない。
棗が朋志のことをパートナーとして選んでくれたことが奇跡だ。
感謝している。
でも、朋志個人としてはどうだろう。
見た目も普通で、これといって取り柄もない。
性格も、よく言えばおとなしいが、引っ込み思案で暗い。
ただ自分に自信がないだけ…。
Subとしての劣等感でいっぱいだったのに。そちらが満たされたら今度はこっち。
ため息しかでない。
Domとして言ってくれたら、すぐに頷けたのに…というのは甘えだとわかっている。
早く返事しないといけないと思いながら、この気持ちをうまく伝えられる自信はない。
ましてこんな自分勝手な思いをわかってほしいとは言えるはずもなく…。
その週末。
朋志は棗のマンションに来ていた。
「こんにちは」
「こんにちは」
思わず見つめ合って笑う。
「なんだか久しぶりな気がします」
「はい…」
「どうぞ」
「おじゃまします」
ここのところ週末は、プレイが中心になっている。
細かく発散できなくなったのだ。
そして、なにより心が痛いことには。
「”Kneel”」
「はい」
「”Look”」
「はい」
「”Take”」
「はい」
プレイが作業のようになっていることだ…。
心は満たされるけど、なんか違う感が拭えない。
このままじゃだめだ…。
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