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蜜月かもしれません
未来は見えないけれど 5
「棗さん」
「はい」
棗は、朋志のために紅茶を淹れてくれていた。
「いえ、あの、話をしてもいいですか…」
「わかりました。紅茶を飲みながら話しましょう」
「ありがとうございます」
棗が紅茶を運んでくれる。今日もおいしい。棗も朋志の隣に座る。
「棗さんが旅行のとき、ど、同居したいと言ってくれましたね」
「ええ、同棲ですけど」
「あ…ぅ、はい」
紅茶で喉を潤す。
「棗さんが、一緒に住もうと言ってくれて嬉しくて、考えてきました」
「同棲です」
「あぅ、…はい。どど同棲の話です」
「はい」
「俺も棗さんとど…同棲したい…です」
「ほんとうですか」
「…はい、でも…」
棗の視線を感じる。
思いきって、棗の手を握る。
「俺は、やっぱりこわくて」
朋志の言葉に、棗が手を握り返してくれる。朋志よりも少しだけ大きな手、温かくて安心する。
「棗さんは、俺のパートナーです。いつか棗さんが言ってくれたみたいに、俺にも棗さんしかいません」
「ええ」
「でも、あのときはどうしてか、すぐに”はい”って言えなくて…」
「朋志さんがなにを怖がっているのか聞きたいです」
「…棗さん…俺がSubで棗さんはDomだから…」
「僕がDomだとだめですか」
「違います。だめなのは俺です。棗さんが俺のことSubとして認めてくれて、俺は初めてSubでもよかったんだと思えました」
「朋志さん…」
「だけど、そうしたら今度は俺…自信がなくなってしまって…、棗さんはなんでもできてすごい人です。そのうえ綺麗だし格好いいし…。でも俺は…暗いし、男だし…」
「…」
「ごめんなさい…でも確認しないと俺…面倒くさくてすみません…」
謝ってばかりの朋志の言葉に棗は動かず、黙ったままだった。
そしてぽつりと言った。
「性別…」
棗が呟いた。
「そうですか」
「…」
「朋志さんは、女性が好きですか」
「…俺は…性別はどちらもあまり…、たぶん、Domしか好きになれません…」
「僕は、好きになればどんな人でも愛せますが…一度に一人だけです、朋志さん」
「棗さん…」
「朋志さんはどうしたいですか」
「俺は…」
この手を離さないでほしい。
離したくない。
でもたぶん、棗なら朋志のことを離さないでいてくれる…。
「俺は、棗さんが俺のことをSubだから好きになってくれて、でも、ど…同棲したらSubじゃない俺のことも受け入れてくれるか不安になってしまって…」
初めて会ったときから、棗は朋志を見てくれていた。そんな人にこんなことを聞くのは失礼じゃないか…。ただの甘えだと恥ずかしくなる。
頬を撫でられる。
「顔をあげてください」
棗は、朋志の愚にもつかない話を聞いても、嫌な顔ひとつしない。
優しい眼差し。
「僕は、同棲なんか持ち出したら、あなたが逃げていくんじゃないかと思っていました」
「えっ」
「Subじゃない部分のあなたは、自立心の強い人ですから、相手がDomとはいえ、誰かの庇護下に入ることを良しとはしないんじゃないかと…」
「そんなことは…」
「ええ、今の話を聞いてわかりました」
朋志は、棗から目が離せない。吸い込まれそうな思いで棗を見ている。
「あなたは、自立心や尊厳…そういったものを含めたあなた自身を、まるごと僕に預けてくれようとしているのですね」
「あっ」
「でも、Sub以外のあなたは僕が受け入れるか不安に思っている…」
そうだ。
朋志の不安はそこだけ。受け入れてほしいからこそ不安になってしまう。いい大人がこんな小さなことを言い出してぐずっている。
呆れられないかと心配もしている。
朋志の不安ごと棗が抱きしめてくれた。耳元でささやかれるとくすぐったい。
「もう全部好きになっていますよ」
「ほんとうですか」
「ええ、あとでゆっくり教えてあげます」
「はい」
よかった。
棗を好きになってよかった。
抱いてくれている体を抱きしめ返す。
「ありがとうございます…」
――― ずっと一緒にいてもいいんだ…
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