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日常系
華麗なる妄想
※朋志くんの乙女思考を温かく見守る小話。ハロウィンネタ。「灯り、夜空を彩り、夢を紡ぐ。」と少しだけリンクしています。
朋志の朝は早い。
朝日が昇る頃になると自然と目が覚める。
しかし、そんなことをしてしまっては、朝から大きな損失をしてしまうことになる。
そーめーな朋志は、いそいそ二度寝…のフリをする。
「朋志さま」
あ、来た。
ドアがノックされ、静かな足取りで近づいてくるのは、優しいテノール。
「朝ですよ、起きてください」
「…おはよう…」
「おはようございます。今日も良い天気ですよ」
「うん」
ゆっくり起き上がり、執事が用意した服を受け取る。
「ありがとう、棗」
「いいえ」
夜間着のボタンを一つずつ外していく。
「朋志さま、今夜は許斐家での夜会へ出席していただきます」
「…」
許斐家は、朋志の家と昔から繋がりがある子爵家。小さいながら、昔から丸目家を気にかけてくれており、恩がある。
いい歳をして独り身の朋志に、夜会と称して、令嬢を引き合わせてくれるらしい。父も喜んでいる。
全くもって気乗りはしないが…。
「…うん」
「では、朝食の準備はできていますので」
「わかった」
棗は、言うべきことだけ言うと部屋を出ていった。
見送る朋志は、ため息を吐いた。
棗は朋志付の執事だ。
朋志が成人した祝いに父が付けてくれた。
以来ずっと朋志の身の回りの世話をしてくれる優秀な執事だ。
ここ数年、丸目家の財政は芳しくなく、執事、メイドたちに暇を出すことになってしまった。
しかし、棗はここに残ってくれた。今は、丸目家のほとんどの仕事を彼が担っている。
朋志は、こんな没落寸前の家に残ってくれた申し訳無さと、まだ棗が執事でいてくれる嬉しさで胸がいっぱいだったのを覚えている。
朋志は棗に道ならぬ恋をしているが、棗はそうではない。彼は、自分の仕事を全うしているだけである。
証拠に、朋志の見合いの日だというのに、いつもと全く変わらない棗の態度。
…棗は朋志が結婚したら、祝福してくれるだろう。朋志は、それを笑顔で受け取れる自信はない。
なにより、朋志には秘密がある。
朝食を終えると、今日は他にすることもない。夜会までは時間があるので、庭を散歩することにした。
丸目家は、屋敷はこじんまりしているが、庭が広い。のんびり散歩するにはちょうどいい。
朋志が手ずから育てたハーブを摘んで戻る。
「おかえりなさいませ」
「あ、棗…」
「ハーブ園に行っていたのですか」
「うん、はい、ミントとタイム」
「ありがとうございます、こちらのミントで紅茶でも淹れましょう」
「あ、棗」
「はい」
「できたら棗も一緒に」
「わかりました、二人分ご用意させていただきます」
棗の言葉にホッとする。
忙しいと断られるときもあるのだ。
今日は大丈夫だった。
棗とゆっくりお茶を飲むのも久しぶりだ。
「お持しました」
「ありがとう、いい香り」
「紅茶にフレッシュミントで香りをつけました」
「棗が淹れてくれたの」
「ええ」
「棗の紅茶は美味しいから嬉しい。ありがとう」
「どういたしまして」
向かい合ってお茶を飲んでいると昔に戻ったみたいに感じる。
だから気が緩んでしまった。
「棗…、見合いはしないといけないものかな」
「…そうですね。お家のために」
「棗、俺は見合いなんてしたくない」
「朋志さま…」
「だって俺は棗が…」
「朋志さま、それ以上はいけません」
「…っ」
唇に指先の感触。
拒否され、頭に血が上る。
「棗のばかっ」
カシャン、朋志が机に手をついたはずみで茶器が音を立てる。
「朋志さまっ」
後ろで棗の声がするが、構わず、部屋に走っていく。勢いよくベッドに突っ伏す。
”お家のために”
棗は二言目には、家のためだからと言う。
朋志だってわかっている。
頭ではわかっていても、気持ちはどうにもならない。
棗なんか、棗なんか…。
悲しい。
どうしても嫌いにはなれない。
「なつめ…好き…」
言ってはいけない言葉はシーツに吸い込まれるしか…。
「しかたのない人」
「!」
びっくりして、起き上がる。
「な、棗…」
朋志を追いかけ部屋に入ってきた棗が、ベッドに腰かける。
「あなたという人は、本当にどうしようもありませんね」
「ご、ごめんなさい…、でも俺には棗しかいないから…」
「あなたは、次期当主でありながら、目下の執事に跪きたいなんてどうかしています」
「…っ」
わかっている。
傾いた男爵家と見合いをしてくれる家はそういない。子爵がとりなしてくれた今回の見合いがどれだけ大切なのかわかっている。
見合いをして、当主につく。再び家をもり立てることが朋志の責務だ。
でも、なぜか棗に跪きたい。
理由はわからない。
いつも世話を焼いてくれる棗が、教育係のように上から話すことがある。
朋志は棗に上から言われると、不思議とそのとおりに動きたくなる。
「わかっていますか、私はこの家をあなたの代で終わらせる気はありません。そのために残ったというのに、あなたときたら…」
「ごめんなさい」
「いいえ、怒っているわけではありません」
「いいよ。自分でも情けないことだってわかってる。棗が家のために残ってくれたこともわかっているから…ちゃんと見合いをする…」
「朋志さま」
「見合いをして、家督を継ぐ。そうしたら棗は、家のために働いて、俺と一緒にいてくれる…?」
「…ええ」
「うん。ありがとう。支度を手伝ってほしい」
「………という話ですけど…」
「はあ」
「棗さんの執事姿を想像していたら、つい」
身分差恋愛だが、どこか薄暗いのは、朋志の性格が暗いからである。
ハロウィンの仮装について、何が良いか考えていた。朋志は、棗に執事か神父をしてほしくて、どちらにしようか悩んでいた。
棗は朋志の仮装に、天使か妖精かのどちらがいいか悩んでいるらしい。
ちなみに朋志が天使になったら、無垢で天然でドジっ子で、悪い悪魔に狙われ逃げていたところ、足を滑らせて天界から落ちてしまい、棗の目の前に舞い降りた…という設定らしい。
棗は先ほどまで熱心に天使を語っていたというのに、朋志の執事話にはおざなりな返事である。
「棗さんは、執事姿も格好いいのに…」
「執事の僕…ちょっと酷くないでしょうか」
「え、でも、ちゃんと俺と家のことを第一に考えてくれる献身的な執事です」
「…朋志さんがそう言うなら、それでもいいですけれど」
どうも棗には刺さらない話だったようだ。
――― やっぱり、棗さんには神父をしてもらおう。
朋志の朝は早い。
朝日が昇る頃になると自然と目が覚める。
しかし、そんなことをしてしまっては、朝から大きな損失をしてしまうことになる。
そーめーな朋志は、いそいそ二度寝…のフリをする。
「朋志さま」
あ、来た。
ドアがノックされ、静かな足取りで近づいてくるのは、優しいテノール。
「朝ですよ、起きてください」
「…おはよう…」
「おはようございます。今日も良い天気ですよ」
「うん」
ゆっくり起き上がり、執事が用意した服を受け取る。
「ありがとう、棗」
「いいえ」
夜間着のボタンを一つずつ外していく。
「朋志さま、今夜は許斐家での夜会へ出席していただきます」
「…」
許斐家は、朋志の家と昔から繋がりがある子爵家。小さいながら、昔から丸目家を気にかけてくれており、恩がある。
いい歳をして独り身の朋志に、夜会と称して、令嬢を引き合わせてくれるらしい。父も喜んでいる。
全くもって気乗りはしないが…。
「…うん」
「では、朝食の準備はできていますので」
「わかった」
棗は、言うべきことだけ言うと部屋を出ていった。
見送る朋志は、ため息を吐いた。
棗は朋志付の執事だ。
朋志が成人した祝いに父が付けてくれた。
以来ずっと朋志の身の回りの世話をしてくれる優秀な執事だ。
ここ数年、丸目家の財政は芳しくなく、執事、メイドたちに暇を出すことになってしまった。
しかし、棗はここに残ってくれた。今は、丸目家のほとんどの仕事を彼が担っている。
朋志は、こんな没落寸前の家に残ってくれた申し訳無さと、まだ棗が執事でいてくれる嬉しさで胸がいっぱいだったのを覚えている。
朋志は棗に道ならぬ恋をしているが、棗はそうではない。彼は、自分の仕事を全うしているだけである。
証拠に、朋志の見合いの日だというのに、いつもと全く変わらない棗の態度。
…棗は朋志が結婚したら、祝福してくれるだろう。朋志は、それを笑顔で受け取れる自信はない。
なにより、朋志には秘密がある。
朝食を終えると、今日は他にすることもない。夜会までは時間があるので、庭を散歩することにした。
丸目家は、屋敷はこじんまりしているが、庭が広い。のんびり散歩するにはちょうどいい。
朋志が手ずから育てたハーブを摘んで戻る。
「おかえりなさいませ」
「あ、棗…」
「ハーブ園に行っていたのですか」
「うん、はい、ミントとタイム」
「ありがとうございます、こちらのミントで紅茶でも淹れましょう」
「あ、棗」
「はい」
「できたら棗も一緒に」
「わかりました、二人分ご用意させていただきます」
棗の言葉にホッとする。
忙しいと断られるときもあるのだ。
今日は大丈夫だった。
棗とゆっくりお茶を飲むのも久しぶりだ。
「お持しました」
「ありがとう、いい香り」
「紅茶にフレッシュミントで香りをつけました」
「棗が淹れてくれたの」
「ええ」
「棗の紅茶は美味しいから嬉しい。ありがとう」
「どういたしまして」
向かい合ってお茶を飲んでいると昔に戻ったみたいに感じる。
だから気が緩んでしまった。
「棗…、見合いはしないといけないものかな」
「…そうですね。お家のために」
「棗、俺は見合いなんてしたくない」
「朋志さま…」
「だって俺は棗が…」
「朋志さま、それ以上はいけません」
「…っ」
唇に指先の感触。
拒否され、頭に血が上る。
「棗のばかっ」
カシャン、朋志が机に手をついたはずみで茶器が音を立てる。
「朋志さまっ」
後ろで棗の声がするが、構わず、部屋に走っていく。勢いよくベッドに突っ伏す。
”お家のために”
棗は二言目には、家のためだからと言う。
朋志だってわかっている。
頭ではわかっていても、気持ちはどうにもならない。
棗なんか、棗なんか…。
悲しい。
どうしても嫌いにはなれない。
「なつめ…好き…」
言ってはいけない言葉はシーツに吸い込まれるしか…。
「しかたのない人」
「!」
びっくりして、起き上がる。
「な、棗…」
朋志を追いかけ部屋に入ってきた棗が、ベッドに腰かける。
「あなたという人は、本当にどうしようもありませんね」
「ご、ごめんなさい…、でも俺には棗しかいないから…」
「あなたは、次期当主でありながら、目下の執事に跪きたいなんてどうかしています」
「…っ」
わかっている。
傾いた男爵家と見合いをしてくれる家はそういない。子爵がとりなしてくれた今回の見合いがどれだけ大切なのかわかっている。
見合いをして、当主につく。再び家をもり立てることが朋志の責務だ。
でも、なぜか棗に跪きたい。
理由はわからない。
いつも世話を焼いてくれる棗が、教育係のように上から話すことがある。
朋志は棗に上から言われると、不思議とそのとおりに動きたくなる。
「わかっていますか、私はこの家をあなたの代で終わらせる気はありません。そのために残ったというのに、あなたときたら…」
「ごめんなさい」
「いいえ、怒っているわけではありません」
「いいよ。自分でも情けないことだってわかってる。棗が家のために残ってくれたこともわかっているから…ちゃんと見合いをする…」
「朋志さま」
「見合いをして、家督を継ぐ。そうしたら棗は、家のために働いて、俺と一緒にいてくれる…?」
「…ええ」
「うん。ありがとう。支度を手伝ってほしい」
「………という話ですけど…」
「はあ」
「棗さんの執事姿を想像していたら、つい」
身分差恋愛だが、どこか薄暗いのは、朋志の性格が暗いからである。
ハロウィンの仮装について、何が良いか考えていた。朋志は、棗に執事か神父をしてほしくて、どちらにしようか悩んでいた。
棗は朋志の仮装に、天使か妖精かのどちらがいいか悩んでいるらしい。
ちなみに朋志が天使になったら、無垢で天然でドジっ子で、悪い悪魔に狙われ逃げていたところ、足を滑らせて天界から落ちてしまい、棗の目の前に舞い降りた…という設定らしい。
棗は先ほどまで熱心に天使を語っていたというのに、朋志の執事話にはおざなりな返事である。
「棗さんは、執事姿も格好いいのに…」
「執事の僕…ちょっと酷くないでしょうか」
「え、でも、ちゃんと俺と家のことを第一に考えてくれる献身的な執事です」
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