120 / 151
蜜月かもしれません
構ってちゃんの人たち 3
棗の家は郊外にある。
田園風景が広がる山の手前に大きな家がぽつりと建っている。
手入れはされているが、築年数は結構経っている。
表札には棗、と達筆に書かれている、ここが棗の実家だった。
今は両親ともう一人で住んでおり、兄弟はみんな成人を期に家を出た。
昨日から棗の兄の一人、理生が帰国滞在していると聞いたが…。
インターホンを押して中に入る。
母が出迎えてくれた。
棗の母は、小柄で溌剌としている。
「あら、理人さん」
「お久しぶりですお母さん、戻りました」
来客用のスリッパを棗の足元に用意してくれたので、足を通す。
「ホントよ、ちっとも帰って来てくれないから寂しくて」
「すみません」
「理久さんも来ているわよ」
「理生は?」
「理生さんは出かけたわよ、約束してたの?」
「はい、でも大丈夫です」
「そう?あとでお父さんたちにも挨拶に来てね」
「はい」
廊下を軽く軋ませ、客間に入る。
「失礼します」
「理人か」
「理久兄さん」
理久は、棗より十歳年離れている一番上の兄だ。
三十も後半になるが、線も細く、母にそっくりの女性的な顔をしているので、年齢不詳な雰囲気がある。
理久はDomだ。棗は、理久からDomの作法を教わった。Subの性質や接し方、慈しみ方まで。
理生もDomだが、年が近い理生にはよくいじめられた。あまりいい思い出がない。彼は留学先のアメリカにそのまま定住し、ほとんど帰って来ないので、安心していたのだが。
反面、年の離れている理久には幼い頃から可愛がってもらっている。本来なら頭が上がらない存在だ。
いくら兄弟とはいえ、Subの朋志をDomの兄たちに会わせたくない。まして、朋志は他ならぬ棗のSubだ。誰にも触らせたくない。
「理生ももうすぐ来ると思う」
「はい、理生はここで寝泊まりしているんですか」
「そうだね」
「どこに行っているんですか」
この時間に来ることは伝えていたのに。
「ちょっといいとこ」
「?」
「それより理人、水臭いよ。パートナーと同棲することを黙っているなんて」
「すみません」
「理生のことがなかったら、ずっと言わないつもりだっただろ」
「いや、…まあ」
「昔から理人は秘密主義で面白くない」
「すみません」
理久は母譲りの甘い表情で頬を膨らませているが、棗からしたらちっとも可愛くない。むしろ、ぞーっとする。
幼少期からの刷り込みで、棗は理久には勝てるきがしない。
最終的には、朋志次第で会わせることになるだろうと思っている。朋志が無邪気に”会いたいです。挨拶させてください”と言っている姿が目に浮かぶからだ。
朋志が他のDomと接する機会を作りたくないという、棗の気も知らず…。
朋志には言っていないが、棗の家族はみんなDomだ。
兄弟だけではなく、両親も。
両親は、Dom同士でパートナーとなった。
パートナーというより、共通のSubを可愛がる仲間なのだ。
そして、生まれた子どもは三人ともDom。
棗の家は説明しにくく、ややこしいので、あまり言いたくないのだ。
朋志をDomの巣窟に放り込むことになる。
兄にうっかり口を滑らせてしまったことは、痛恨だった。
なので、朋志との境界線をきっちり決めておきたい。
ダイナミクスを表に出さず、ただの兄として挨拶をして、速やかにお引取り願う。
一筆書いてもらうつもりで実家に戻って来たのだ。
車のエンジン音がした。
「理生かな」
理久が玄関の方を見ながら言う。棗に視線を戻す。
「理人、ごめんね」
「はい?」
「理生を止めなくて」
「よくわかりませんが…」
理久の表情。
いたずらが成功したときのような…、面白がっている顔だ。
嫌な予感がする。
「僕も会いたかったんだ」
「理久兄さん、あなた…」
「理久、連れてきたよ」
「ありがとう、理生」
「棗さん」
よく知った声。弾かれたように声がする方に視線を向ける。
「朋志さん…」
棗とほとんど同じ顔をした理生と一緒にいたのは、絶対家族に会わせたくないと思っていた大事なパートナー…、朋志だった。
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。