123 / 151
蜜月かもしれません
構ってちゃんの人たち 6
棗さん…。
棗が怒っている。
朋志は、自分が怒られているわけでもないのに、こわくて仕方がなかった。
朋志のことで怒っていたから…。
理生を部屋に入れたのも、のこのこ棗の家についてきたのも朋志だ。
棗を直接怒らせたわけではなくても、朋志の判断がこの状況を招いてしまったと思ったら…。
ただでさえ、気弱になっているところに、グレアを浴びてしまった。
「もう大丈夫ですよ、恐かったですね」
低くて、穏やかな声。
年上の男性で、この人もSubだ。
よかった。
「あ、あの…、ここはDomの人たちばかりで…」
「ええ、そうですね。落ち着ける場所に移動しましょう。歩けますか」
「はい…」
――― 棗さん、俺は鍵を開けないほうがよかったのかな。
朋志は、棗の三つ上の兄だという理生を言われるまま部屋に招き入れた。
そこで棗のことをいろいろと聞いた。
もう一人、理久という兄がいる。
理久が長男、理生が次男、棗が末っ子になる。
理久が陶芸家で、理生は海外で理久の作品をブランドとして販売しているそうだ。
定期的に帰国して、理久の作品を仕入れているらしい。
「よろしくね。理生って呼んでいーよ」
「りお…さんは、棗さんのお兄さんですか。双子かと思いました」
「そぉ?よく言われるけど、俺の方が男前だと思うよ」
「ふふっ」
理生の顔は、棗とほとんど同じなのに、性格は全く似ていない。棗の知らない表情を見ているみたいで楽しい。
「ねえ、きみの名前は?」
「あっ、ごめんなさい。俺は、丸目朋志です。よろしくおねがいします」
「朋志…トモくんね、オッケー」
「トモくん…」
本当に棗とは似ていない。でも、嫌な感じはしない。
「トモくんはいつから理人のパートナーなの」
いつからだろう。記念日もないくらい曖昧なタイミングだった。
「半年…くらいです」
「へぇ、でも理人のプレイはつまんないでしょ」
「えっ!」
棗のプレイが詰まらないなんて考えた事はない。
理生は棗のプレイのどの部分のことを言っているのか…。
「俺は、棗さんのプレイでダイナミクスが安定しました。つまらないなんて感じたことはありません。棗さんには感謝しています」
「…ふぅん、甘くて優しいだけのプレイしかしないから、みんなすぐ飽きちゃうんだけどな」
それは以前、棗からも聞いたことがあった。棗のコンプレックスのひとつだ。
「でも俺は、棗さん以外のプレイは受け入れられないです…」
朋志は、棗の”甘くて優しいプレイ”がいい。棗だけだ。
「へえー理人のヤツ、ちゃんと見つけちゃったのね”自分だけ”のやつ」
嬉しい。それは朋志も一緒だった。
「理人に飽きたらいつでも俺のところに来ても良いからね」
「えっ、棗さんに飽きる日なんて来る気がしませんけど…」
「うえぇ、マジレスいらねぇ」
それから、どうして理生が棗のマンションに来たのかも教えてもらった。
棗の家は、家族全員がDomなこと。
唯一、一人だけSubがいる。彼は両親のパートナーだが、家族として暮らしている。
棗は、特殊な家族構成をあまり知られたくないと考えているようだが、理生や理久は、棗のパートナーなら歓迎したいと思っている。
普段、田舎に住んでいて他のSubと関わることのない両親のパートナー…恵吾という…とも話し相手になって欲しいと言われて、朋志は、それならと理生と一緒に来たのだ。
朋志は、理生の言い分には賛成だった。
棗が気にしていることについては、まるで気にならない。
朋志が悩んでいたら、棗はいつも朋志を肯定してくれる。これでいいんだと朋志に自信をくれる。
朋志は、棗をまるごと受け入れたかった。
なのに。朋志は甘く考えていた。
棗の家族だから、全員Domでも大丈夫。
まさか、Dom同士の牽制や喧嘩があんなに強烈な世界だとは思っていなかった。
Domの発する敵意丸出しのグレアが、…直接向けられたわけでもないのに…、あんなに恐ろしいものだったなんて。
棗さんに謝りたい。
きっと朋志の軽率な行動があの場面を招いたのだ。
棗をこわがって拒否してしまうなんて…。
せっかくパートナーだと認めてくれて、ずっと一緒いたいと言ってくれたのに…。
棗たちがいる部屋から離れると、段々落ち着いてきた。客間のソファに座る。
「…俺、棗さんに謝らないと」
「謝るようなことがあったのですか」
恵吾が聞き返す。恵吾は、年上でSubで、穏やかな雰囲気に、気が緩んだ。吐き出したい思いもあった。
「俺が勝手なことしたから…棗さんを怒らせて…、パートナーじゃなくなったらどうしよう…」
恵吾が少し考え、朋志の隣に座った。
「僕は、棗家の人たちと長らく一緒にいますが…、棗家の人はみんな、クールダウンが早いと言うか、怒っても長続きしません」
「…」
「そして、決して相手だけを責める人たちではありません。僕にはなにがあったのかはわかりませんが、ゆっくり話し合えば悪いことにはならないと思いますよ」
「そうでしょうか」
「ええ、きっと」
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。