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期待をこめて
冬の夢、地下の息吹き 2
引っ越し作業が完了した。
朋志の部屋もほとんど片付いてすっきりしている。
改めて、棗と一緒に暮らすんだなあと思う。
棗と出会う前には想像すらしなかった未来だ。
棗の実家で、恵吾に聞いた話。
まだ子どもだった棗は、Domなのに、役割があるプレイで支配的に振る舞えない事に悩んでいた。そのせいでSubに求められないことにも。
Domである両親が、自分たちのSubである恵吾のために作った首輪を、いつも気にしていた。パートナーの証である首輪が羨ましかったのだ。
「僕は指輪を贈ります」
そう言って、指輪を手作りしたことがある。
恵吾の首輪を作った工房へ行き、手ほどきを受けたのだ。
その指輪は、誰の指に合わせたわけでもない。棗の自己満足でしかなかったが、このまま一生一人かもしれないという不安を、和らげるお守りのようなものだった。いつか僕にも…、と。
棗に初めて出会ったとき。
具合が悪くてうずくまる朋志に声をかけてくれたのは、棗だけだった。
臆病な朋志は、逃げるように帰ってしまったが。
顕に引き合わされたときも、最初は、顕以外のDomとプレイするなんて考えられなかった。今は、棗以外の人なんて考えられない。
朋志にとって棗は最初から、綺麗で、優しい人…。
鞄から便箋を取り出す。
便箋は駅の構内にある文房具店で買ったものだ。
袋を開けて、一枚取り出す。
書き出しは決まっている。
――― 棗さんに会えてよかった。
臆病なSub、できるプレイも限られているのに、ケアは誰よりも必要。そんな面倒臭いSubに溢れんばかりの愛情を注いでくれる、朋志だけのDom。
棗好みのSubに躾けて欲しい。棗となら、ちょっとこわいコマンドにも挑戦してみたい。 それで棗が喜んでくれるなら。
縛られて、自由が制限されるプレイもしたい。縛られている朋志を熱っぽい目で見てくれるから。少し細めのアーモンドアイに見つめられると、ぼうっとして何も考えられなくなる。
その瞬間は、棗は朋志だけのDomで、朋志は、棗だけのSubだと強く実感できるのだ。
思いついたことは、すべて現実にできるだろう。
これから時間はたくさんあるのだから…。
次から次へと湧き上がってくるこの気持ちを筆に乗せたい。伝えたい気持ちはあっても、手紙はあまり得意ではない朋志だ。気持ちと反比例している短めの手紙になってしまったが、棗には伝わるはずだ。
ペンを置き、便箋を封筒に入れる。
キッチンに行くと、棗が紅茶の用意をしていた。
朋志に気づいて破顔する。
「ちょうどよかった。紅茶がはいりましたよ」
「ありがとうございます」
「片付けは終わりましたか」
「はい、やっと」
紅茶を飲むと、ほうっとする。
心は、先ほど書き上げた手紙にある。
いつ渡そうか。
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