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日常系
オリオン、聖夜に包まれて 4
「名前で呼んでくれましたね、ありがとうございます」
棗の部屋に入り、エプロンも外さないうちから朋志は棗に優しく抱き寄せられていた。
耳にも棗の唇が触れて、あたたかい吐息もくすぐったい。朋志が肩を竦めて、どちらからともなく笑い声が漏れる。
「いつも二人のときだけだから、恥ずかしいです…」
棗が結んでくれたエプロンの結び目。これを見ていたらすぐとなりに棗がいてくれているような気持ちになり、安心はできたのだが。
人前でプレイするなんて恥ずかしくて、どきどきすることだ。まして、棗の家族の前で…。朋志は不貞を働いているようなどこか後ろめたさを感じつつも、これは棗が望んでいることだと思うと体の奥からじわりと喜びが滲み出てきて断ることなどできるはずもない。ただ棗に褒めてもらいたい一心で羞恥心をやり過ごす。
棗にこうして抱き寄せられて耳元で囁かれるだけで、もっと恥ずかしいことをしたら、どんなふうに褒めてもらえるのだろうと考えてしまう。こんなことを考えるなんてはしたないと思えば思うほど甘美な誘惑にも思えてくるのだ。
「恥じらっているあなたも素敵ですよ」
こうやって、恥ずかしがっているところも肯定されれば尚のこと。朋志にあたたかい眼差しを送りながら、でも、と棗が続ける。
「プレイ中のあなたをこれ以上見せるのは満たされる部分もあるのですが、いい気分だけでもありません」
「え」
「僕もこんな気持ちを扱いあぐねています」
自分のSubだと誇示したい気持ちと、自分だけの世界に閉じ込めておきたい独占欲。どちらも同じくらい強く棗の中で渦巻いている。どちらかだけを選択することは難しい。朋志を振り回しているような罪悪感もある。
「いつもつき合ってくれてありがとうございます」
「俺は、恥ずかしいですけど…」
朋志はいつだって自分のDomに尽くしたいと思っていた。どんなコマンドもできると。でも実際はそうはならなかった。なので今、棗に導かれながら、したことがないコマンドやシチュエーションにチャレンジできることが、素直に嬉しい。棗が朋志に過度なストレスをかけるようなコマンドは出さないと知っている。
「棗さん…理人さんが褒めてくれるって知っているから」
「ええ、僕のために恥ずかしいコマンドを受け入れてくれるあなたですから…」
向かいあう体がぴったりと寄り添う。さらに棗に引き寄せられ、朋志は幸せな拘束を味わった。
「僕はあなたから目が離せません」
恵吾から料理の用意ができたと声がかかる。
「あ、着替えて行きましょう」
「ええ」
着替えるのは、理生からプレゼントされたセーターだ。
棗は一瞬、複雑な表情を見せたものの、朋志が明るく袖を通す様子を見て、同じようにクリスマスツリーが大々的に描かれているセーターに着替えた。
居間へと入ると、テーブルには朋志も作るのを手伝った良吏が所狭しと並べられ、部屋にはリースやサンタの置物などが飾られていた。
「わあ、すごい。美味しそう」
素直な反応の朋志にみな相貌を崩して微笑む。
「庭にはツリーも飾りました。後で見に行きましょう」
「はい」
朋志は、みんな同じようなセーターに着替えていたことにも驚いた。
「トモくん、そのセーター…」
「はい、理生さんが送ってくださって」
「着てくれたのね、嬉しいわ」
美月が、私たちも理生からもらったのよと教えてくれた。
「今年は理生が来られないから残念ねえ」
「このセーターでかなり主張していると思うが」
「用意できましたよ。あたたかいうちにいただきましょう」
飲み物の支度も終えた恵吾が声をかける。
「ええ」
「そうだな」
朋志は棗の隣で料理をいただく。
「そうだ」
理久が席を外し、しばらくして戻ってきた。
「トモくん、これどうぞ」
「え、俺に?」
「ええ、トモくんをイメージして作りましたから、使ってくれると嬉しいです」
ラッピングを解いてみると、箱の中にはペアのマグカップが入っていた。
「これ…理久さんが作ったマグカップですか」
理久は海外で有名な陶芸家だ。
色は白でシンプルだが、持ち手の大きさもちょうどよくて使いやすそうだ。これで紅茶を淹れたら特別な気持ちになれるにちがいない。
「はい。ついでに理人のも作りました。トモくんのために仕方なく」
理生と同じ煽り方である。やっぱり兄弟だなあと思っていると、隣の棗は氷点下の笑顔だった。
ちらちら棗を気にしながらお礼を言うと、一応棗もお礼を言っていた。
「あの、理久さん…俺なにも持ってきていなくて…」
クリスマスパーティという名目なのだからプレゼントを用意したほうがいいのではと棗に相談したが、「必要ありません、朋志さんが行くことが彼らにとって大きなプレゼントです」と一蹴されたのだ。
理久も、「俺が勝手にしたことだから気にしないでください。トモくんが来てくれたことがプレゼントですから」と言ってくれた。
本当に棗家の兄弟はみんなよく似ている。三人共決して認めなさそうだが。
「朋志さん、ツリーも見に行きましょう」
「はい」
棗家の庭は、理一の畑とは別に、美月がハーブを育てているので、小さな菜園がある。菜園のとなりにもみの木の鉢植えがあり、電飾とオーナメントで飾られていた。
「きれい…」
「ええ、晴れたので外に飾り付けができてよかったです」
棗が朋志の手を握って寄り添う。
気恥ずかしくて中を伺うが、中は中で楽しんでいるようで朋志の取り越し苦労に終わる。
誰も見ていないなら…と朋志も手を握り返し、いつの間にか絡め合うようになっていた。
棗の家は、隣の家が少し離れているので、晴れたら星もきれいに見える。しんと冷えた空気の中、ここには二人だけしかいないのでは、といった気持ちになった。
「棗さん」
「はい」
「棗さんは毎年こんな楽しいクリスマスを?」
「ええ、イベント好きな人たちばかりなので。飾り付けをして料理を囲むだけですが、子どもの頃の名残というか習慣で」
「俺は一緒に過ごさせてもらえたのが嬉しいです、ありがとうございます」
「朋志さんが楽しんでくれたなら、僕も嬉しいです」
棗が夜空の下で微笑む。
朋志の大好きな表情に、たまらなくなって隣の頬に唇を寄せる。棗がびっくりしたように目を見開いたのも一瞬。
すぐにお礼の唇が朋志の頬をくすぐった。
「明日からは大掃除ですよ」
「はい。掃除は任せてください」
二人で顔を見合わせて笑う。
「まだクリスマスも終わっていないのに」
「気が早いですね、俺たち」
「仕方ありません」
「はい。師も走る師走ですから」
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