7 / 151
日常系 ※R-18
乙女の憂鬱 3
「朋志さん、顔が見たいです」
「え…」
「嫌ですか…朋志さん、だめですか…?」
ああ、ううと言葉らしいことは言えない間も、棗は朋志の顔が見たいと頼み込んでくる。
朋志はもう、いっぱいいっぱいになっていた。
いつものように素直にはいと言えないことも、棗が、こんなときにコマンドではなく、ただ懇願していることも。コマンドならこんな迷うことも無かったのに。こんなふうに思うのは、朋志の依存心が働くからだ。棗なんてひどくて意地悪で、こんなときでも優しくて…。
「朋志さん」
「うぅ…はい、棗さん…」
はい、としか言えない。棗の声は一転して、ありがとうございますと明るい声だ。
おそるおそる通話を音声から動画に切り替える。
見られてしまう。
棗からの懇願を断れるわけがない。
顔が見たいと思うのは朋志も同じなのだ。
ただ、たまらなく恥ずかしくて、こんな姿を見られてどう思われるのかと想像すると不安しかない。
「…」
「朋志さん…」
いたたまれず泣きそうな顔。真っ赤な顔の目元は一層赤い。震える唇。吐き出せなかった熱を持つ火照った体。
棗にはどれくらい見えているのだろう。スマホのカメラに収まる画角がわからない。
朋志から見える棗は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。なんだか不機嫌そうな。
やっぱり変なんだと目が潤み、前がうまく見えなくなりかけたとき。
「ああ…、どうして僕がいないときにこんなかわいい顔をするのでしょうか…」
「ご…めんなさい…あ会いたくて…」
「怒っているわけではなくて、謝ってほしいわけでもなくて。僕も会いたいですけど、こう…惜しいです…」
「惜しい…」
怒っていないと言われてホッとした。
朋志はどうしてそんなことを棗が言うのだろうと思ったが、ぼんやり考えがまとまらず、ただ言葉尻を返しただけだった。
「流れ星を見逃したような…ハレー彗星…かもしれませんが…とにかくそんな気分です」
棗は、火がつきにくい体質の朋志が体を火照らせているのがよりによってこのタイミングかと、悔やんでも悔やみきれないような焦りにも似た気持ちなわけだが、ぼうっとした朋志の頭に流れ星だとかハレー彗星だとかの例えが響くわけもなく。なにそれと聞き流すのも棗の声なら気持ちいい。うっとりしながら聞いていた。
「僕のことを考えてくれましたか」
「はい…」
「嬉しいです、僕のことを考えてどんなふうになったのか教えくたさい」
「うう…見えてるでしょう」
「見えています、あなたの顔だけ」
「棗さん…」
「あなたの涙を拭えない可哀想な僕のためにおねがいします」
「うぅ…」
羞恥で人が死ねるなら、今だというくらいひどい羞恥の火の中で、朋志は棗の匂いが残るシーツを握りしめた。
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。