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日常系
つながる心、甘い想い 3
あれから帰宅してきた母の美月に捕まり、更に小一時間ほど話し相手をすることになった。おかげで高速道路では軽い渋滞に巻き込まれ、やっと抜けて一般道路に入ったところだ。
朋志には連絡しているが、あまり遅くなると心配させてしまう。
しばらく車を走らせたところで人影が目に入った。目を引いたのは、重心が安定しない歩き方…時々ふらつくような動きをしながら人気のない歩道を歩いていたからだ。
かなり年配の女性で、よく見るとその女性は裸足だった。
朋志の顔がチラつくが、この状況を放っておくこともできない。
車を端に停め、女性の近くまで駆け寄り声をかける。
「あの、すみません…」
予定よりも遅くなってしまったが、棗がマンションに戻ると、朋志が出迎えてくれた。
「おかえりなさい、棗さん」
「ただいま帰りました。起きていてくれたのですか、ありがとうございます」
朋志の顔を見るとホッとする。
「遅くなってしまってすみません」
「そんなの…、遅くまでお疲れ様です。お腹は空いていませんか、なにか食べられそうですか」
「ペコペコです。いただきます」
仕事の方が簡単だったというくらい色々あった一日だった。
バタバタしていたので、朋志への説明がまだだった。朋志は仕事だと思っている。
「実は、午後から実家に帰っていました」
「え、日帰りでですか」
「ええ、…これを取りに行っていました」
紙袋を手渡す。
「恵吾さんと、理久からバレンタインのプレゼントです」
食器のことは言わずもがな黙っておく。
なんだろうと言う顔で袋を開けて、朋志の顔がみるみる笑顔になる。
「わあ、ブラウニーですね!スゴい、お店で買ったみたいです」
朋志は、想像通り喜んでいた。
棗は人知れず微妙な心境だ。
「明日の朝、お礼を言いますね」
「ええ」
お礼は恵吾さんだけでいいですよ、とはさすがに狭量すぎる自覚があったので、自重した。
「あと、理生さんからも荷物が届いています」
朋志がエプロンを掛けながら言う。
こっちの問題もあった。
「朋志さん宛ですよね」
「はい」
朋志は、棗が内心面白くないと思っていることを知っているので開封せずに待っていたようだ。朋志には筒抜けだった。
「あとで一緒に開けさせてください」
「はい。棗さん、料理を温めている間にお風呂に入りますか」
「お言葉に甘えて」
お風呂の温度をちょうどよく調節してくれていたようで、湯船に浸かって思わずはぁと声が出る。幸せすぎる。色々あった一日だが、すっかり禊を済ませられた気分だ。
風呂から上がって寝室へと向かう。
引き出しから手のひらくらいの大きさの包を取り出す。
朋志へのバレンタインプレゼントだ。中味はシンプルに紅茶に合いそうなクッキーだが、それにメッセージカードを添える。短く日頃の感謝の気持ちを綴っただけだが、朋志に喜んでもらえるようにと袋に入れる。
「あ、棗さん。ちょうどできましたよ」
「ありがとうございます。美味しそうですね」
鶏肉に、スープにサラダ。出会った頃の朋志は、料理らしい料理はできなかったが、棗の知らないうちに料理の腕を磨いていた。朋志の料理はシンプルだが美味しい。朋志が作ってくれる日は、密かにテンションが上がっている棗である。
「あとは、ドレッシングをかけますね」
「ええ、お願いします」
「棗さん、少しだけ目を瞑っていてください」
「?」
言われた通りにする。
「いいですよ」
「これは…」
「チヨコレートのドレッシングです。以外な組み合わせに思えるかも知れませんが、美味しいですよ…?」
「…」
「棗さん、ハッピーバレンタイン」
「あ、ありがとうございます」
朋志が可愛くて気を取られていた。サプライズにすぐ反応できず、棗にしては珍しく噛んだ。
「いただきます」
「はい」
チヨコレートドレッシングは想像をいい意味で裏切り、美味しかった。
「美味しいです、ありがとうございます」
「棗さんのお口に合うかちょっと心配していたので、よかったです」
美味しいです、と言いながら食べる。朋志がニコニコしながら見ていたのも棗の食欲に拍車をかけて、あっという間に完食した。
手を合わせてから、「僕からも…」と言って、用意していたものを渡す。
「! ありがとうございます」
「いいえ、ハッピーバレンタイン」
「はい…」
朝、いつもより夜ふかししてしまったので、なかなか起きてこない朋志を起こすため、部屋に入ると、枕元には棗が書いたメッセージカードが開かれて置いてあった。棗がどれだけ幸せを噛み締めているのか、気持ち良さそうに寝ている朋志にはわからないことだ。
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