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トラウマ持ちのSubが幸せになる方法
罪作り 4
マンションに戻り玄関に入ると、パタパタと音がして、朋志が出迎えてくれた。
「おかえりなさい」
朝よりも顔色よく、声に張りもある。まだ少し疲れが見えるものの、いつもの朋志でホッとした。
「ただいま戻りました、寝ていなくて大丈夫ですか」
「はい、もう大丈夫です、熱もありません」
「ああよかったです、でもあまり無理はしないで、今夜は早めに休んでください」
「はい、あの、棗さん…」
「朋志さん」
何か言いかけた朋志の手を引いて、リビングのソファに二人並んで座る。
いつまで経っても棗が手を離さないので、朋志があれ?という顔をしている。
「棗さん?」
「朋志さん、先に謝らせてください」
「えっ」
「僕がプレイを始めてしまったせいで、目が覚めたとき、不安にさせませんでしたか」
「え…」
「プレイ中に、一人にさせてしまいましたから、すみません」
朋志にも棗が言わんとしていることがわかった。
「そんな謝らないでください…そうですね…、俺、ぐっすり眠れたから熱は下がって体も軽くなっていたけれど、目が覚めたときは一人で寂しいなって、思いました…。俺が棗さんに仕事に行ったほうがいいって言ったのに…」
朋志がチラリと棗を見る。ちょっと緊張した顔をしている棗に朋志が微笑みかける。
「でも俺、大丈夫でしたよ。今も不安そうに見えますか?」
「いいえ」
「はい、棗さんの部屋で寝ていたのがよかったのかな…、熱があるときは安心したし、元気になってからはちょっとドキドキしてしまって…」
Dom心を擽ることを言う。
熱ではない、頬をほんのり赤くして恥じらっている姿もかわいい。
「縛らなくても大丈夫でしたか…?」
「はい。でも俺、棗さんに縛ってもらうのは好きです。痛いことも怖いこともしないってわかるから…あっ」
言いながらますます頬を染める朋志に、たまらない気持ちが溢れ出して、棗は痩身を腕の中に引き寄せた。
朋志が身動いて、ちょうどいいところにおさまる。
「棗さん…」
「はい」
「俺…、変じゃないですか?」
「いいえ?」
強いて言えば可愛すぎるくらいで、朋志に変なところはない。
「目が覚めてからずっと一人で、棗さんに早く帰ってきてほしかったけど不安だったからじゃなくて…、俺、不安じゃないことが嬉しくて、早く棗さんに会いたくて待ち遠しいなって…」
ほら、といって朋志が棗の手を取って、胸へと導く。
朋志が室内着にしているTシャツ越しに、棗の手のひらへと伝わるのは、早鐘を打つ朋志の胸の音だ。つられて棗の鼓動も早くなる。
「棗さんが帰ってきて、俺さっきからずっとこんなことになっていて…やっぱり俺変ですよね…」
「朋志さん」
はいと返事をしようと口を開く朋志をソファへと押し倒す。朋志は、びっくりしたような顔をしたが、なにの抵抗もなく、ぽすんとソファに沈んだ。
「棗さん…?」
朋志を見下ろし、先程のように胸の上に手を置く。手のひらにつたわる鼓動は早い。もちろん棗も。棗は全身で鼓動を感じていた。頭が沸騰しそうだ。
「朋志さん、あなた僕をどうしたいのですか」
「え…」
「さっきから聞いていれば…、一緒に暮らしている僕でここまで心拍数を上げて、そのうえ目も潤んでいますよ。あなたのその目…僕はとてもそそられます。頬も赤くて…また熱がぶり返してきたかもしれませんよ朋志さん…ご褒美のケアが欲しいだけですか…はっきり言って、今のあなた…とても美味しそうですよ…?」
ほとんど願望だった。
棗の指摘と問いかけに、朋志はその度に身じろぎ、さらに心拍を上げていった。胸に置いた棗の手に羽根のように触れて、縋るように見上げてくる。
自分のことを情欲込みで見ている男に、縛って欲しいだの、赤く熟れた姿でうわ言みたいに変なんですと無防備に言い募ることがどういうことか、こっちの身にもなってほしかった。その純粋無垢なところに骨抜きになっているのたが。
「棗さん…」
「”Say”…朋志さんの言葉で聞きたいです」
上から射抜くような視線に晒された朋志が、目を閉じて顔を横に背けた。露わになった首筋まで赤い。震いつきたい衝動を抑えて朋志の言葉を待った。やがて朋志は意を決して目を開き、ソファに座る棗の膝に手を置いた。
どこか棗とくっついていたいのは朋志の甘さで、棗のツボでもあった。
朋志の手に手をそっと重ねる。
「俺…一人で棗さんのコマンドを守れました。今まで何から何まで棗さんに助けてもらわないと不安でプレイできないのが、嫌…ではないけれど…Subとして不甲斐なく思っているところがあって…、でも棗さんはいつも優しくて、一人でも不安にならなかったのは棗さんのおかげです。ありがとうございます」
朋志の素直な言葉には心を打たれるが、棗が欲しい言葉ではなかった。
労るように頬を撫でると、ホッとしたように頬を擦り付けてくる。棗のSubはDomの心を掴むのが上手くて困る。
「…俺…、いつもは棗さんのことを考えるだけで心がふわふわして幸せになるというか、棗さんのコマンドが聞けるだけで幸せで、いつでも好きですって言いたくて…でも、今日は、棗さんの事を考えているだけで胸がドキドキして、さっき言われたみたいに顔だけじゃなくて、体まで熱くなってしまって…好きって言うのも恥ずかしい感じがして…棗さん、この気持ち…教えてください…」
「朋志さん…」
もはや朋志は、涙が溢れ出そうなほどに目は潤み、恥ずかしくてどうしたらよいのかと棗に助けを求めている。これ以上ないくらい食べ頃の据え膳を前に興奮する体とは逆に、頭は冷えつつあった。
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