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日常系 ※R-18
推しのいる生活 2
ずっと朋志のことを考えていた。
プレイにしなかったのは、プレイと仕事を同時進行させるのは可哀想だと思ったからだ。とはいえ、最近の朋志はプレイ中に感じていた不安感が緩和されてきている。これからは少しずつ時間を使い、距離を取ったプレイができるかも知れない。広がるプレイの幅に思いを巡らせ、至ってポーカーフェイスで仕事を乗りきった。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい」
朋志がキッチンから顔を出す。
「お腹空いてますよね、もう少しですから…あっ!」
慌てたようすでキッチンに消えていく朋志の後を追うようにキッチンへと進んでいく。
「いい匂いです、着替えてきてもいいですか」
「はい」
朋志の後ろから手元を覗き込み、声をかける。朋志の全身チェックも忘れない。今日は丈の長いエプロンを身に着けている。長身で細身の朋志によく似合っていた。ゆったりとしたエプロンに細身の腰が納まっているところが棗の性癖に繋がる『お気に入り』なのだが、朋志は『それはよくわからないけれど、棗さんが喜ぶならまぁいいか』といった具合に、にこにこしているだけだ。そのよくわかっていない顔も、棗のツボなのだ。
ただ、今夜は少し違った。
密着する体。いつもは棗を擽ったそうにしていても、料理をしている手元に集中している。なのでいつもは気を引くために細腰に手を回したり、体を押しつけたりいたずらを仕掛けたりしている。
離れていこうとする棗を目で追って、なにか言いたげな表情をするが、棗が朋志の方に目をやると逸らす。
いい傾向だった。離れる前に軽く抱き寄せて耳元に唇をつける。
「あとで…」
ぱあっと色付いた耳に言葉を吹き込んだ。
「…はい…」
夕飯を食べながら、普段と変わらない会話をしていてもどこかそわそわしている朋志を堪能していた。棗は罪悪感が疼きつつも、朋志の『待ち顔』が可愛くてつい引き伸ばしてしまったのだ。
棗が片付けをしている間に、朋志が風呂を済ませる。入れ替わって棗がさっぱりしてくると、朋志がリビングのソファでスマホを見ていたが、すぐに顔を上げる。
「棗さん…」
胸を押さえて棗の名前を呼ぶ朋志の切なげな声は、棗の全身を灼きながら、全身を駆け巡った。
「俺…もう…」
「待たせてしまってすみません」
「棗さん、早く」
「ええ…」
棗が態と朝の約束を引き伸ばしていたことなど、朋志にはどうでもよかった。気づいていたのかどうか、責めもせずに棗を求めていた。それが棗をどれだけ喜ばせているのか、早く早くと目で、仕草で、全身で急かす朋志は知り得ないことだ。
「朋志さん…」
「はい」
「”Come”」
「!」
朋志の体がピクリとする。待っていたコマンドだというのに、飛びつくことを躊躇ったのか体にブレーキをかけていた。棗からの視線を感じて、恥ずかしそうに目線を彷徨わせてゆっくり近づいてくる。そんなところも堪らない。
「来てくれてありがとうございます」
「…はい」
目元が色づきはじめている朋志に胸を押されて、腕の中に囲い込む。合わさった胸から感じるのは、いつもより早い心音。俯いて、棗の言葉を待っている。
「”Look”」
「…」
朋志がゆっくりと顔を上げる。
すでに目が潤んでいた。
瞬きを惜しむように目を細め、棗のコマンドを守ろうとしている。
棗を『見る』ことに集中しているので、解けて緩んだ口元に気づいていない。無防備な唇に誘われて吸い付いた。
「もっと見せてください」
「…はい…」
朋志は素直に返事をしたが、シャツを握ったままで動かない。棗は急かすことはせず、恥じらっている朋志を堪能することにした。首に、耳朶へと吸い付いて離れていく。棗の唇がいたずらをしていくたびに、朋志は体が跳ねて小さな声を漏らす。コマンドに集中できずに追い詰められていく体を撫でて宥めるが、効果はなかった。シャツの裾から手を忍ばせて素肌を辿り、朝に吸い付いたところを手探りで探す。
「んぁ…棗さん…っ」
「朋志さん、早く見たいです」
「ぇあ…っ、もう…そんなに触らないでください…見せますから…」
「ええ」
朋志が目を瞑ってしまっても棗は何も言わなかった。結局急かしてしまったからだ。
棗の腕の中で、ゆっくりシャツをたくし上げていく。素肌を自分から晒すなんて恥ずかしいこと、朋志は耐えられないほどの羞恥を感じているに違いない。頬を赤く染め、泣いているのかと思うほど潤んだ目元が憐れを誘うが、腕と違って日に焼けていない腹が見えるころにはそんなことも忘れて棗は喉を鳴らせた。朝に吸い付いた跡が露わになる頃にはもう、うっとりとしたため息しか出てこなかった。
どうしてこんなに素直で可愛い人がパートナーになってくれたのだろう。
「ああ…、まだ綺麗に残っていますね」
「…はい。朝からずっと俺…」
「僕の言ったことを覚えてくれていたのですね、嬉しいです」
「昼休みもなんだか落ち着かなくて…、棗さんに早く見て欲しいのに、こんな跡…恥ずかしくて…」
白い胸に鬱血した跡が妖しいまでの色香を放つ。指で確かめ、ついでとばかりに上を向いた尖りを引っかけて感触を愉しむ。
「ぅあ…棗さん…」
「朋志さん、コマンドを思い出してください」
「あっ…ん」
言葉を掬い上げて閉じ込める。
慌てて目を開いた朋志は、棗の舌の味にびっくりしてまた目を瞑ってしまった。
「朋志さん…」
「あっ!…ご…ごめんなさ…っん」
奥に逃げる舌を追い詰めて絡める。
一度絡めてしまうと、あとはゆっくり舌を差し出してくる。
朋志の手はもう自分のシャツを握っておらず、棗の胸に縋って、息を継ぎながらついてくる。健気な姿に堪らなくなり、棗は熱くなった腰を押しつけた。
「んん…っ」
反射的に引こうとする細腰を捕らえる。朋志に兆しはないが、それでよかった。緩く芯を持つようになるまで朋志を離さなかった。
「棗さん…」
「はい」
「あの、…棗さんを見れなくて…すみません」
ソファの背もたれに体を預けながら朋志が謝る。
棗は、息切れしている朋志を可哀想に思うと同時に、いつも新鮮な反応で棗を煽り立ててくる朋志に、崇拝にも似た謝辞の嵐の只中にいた。
「気にしないでください」
そんな健気な姿に意地悪な気持ちが湧いて、コマンドを聞けないようにしたのは棗なのだ。
「でも…俺…」
健気で真面目な棗のSubは、コマンドが聞けなかったことを気にしていた。
「そうですね…僕のコマンドを聞けなかったのはだめでしたね。お仕置き…しましょうか」
「!」
「お仕置きが聞けますか」
「…はい」
”お仕置き”という言葉に、朋志の表情が固くなる。
「緊張しないでください、朋志さんが僕の膝で理人って呼んでくれたらお仕置きしたい気持ちなんてすぐに消えそうです」
「ぇあ、…はい」
棗の膝に乗ることも、名前を呼ぶことも、何度もしているのにまだ慣れないのか、頬がほんのり色づきはじめている。そしていつも決心がつくまで、目線を彷徨わせたりと躊躇うような仕草をする。
鮮度を保ったままで羞恥心を持ち続けられるのが朋志で、いつも棗を惹きつけて魅了してくる。
棗にとって、羞恥に震える朋志の姿が一番のご褒美。
一生推せる。
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