【R-18】トラウマ持ちのSubは縛られたい 〜Dom/Subユニバース

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日常系

不思議な招待状 3


 「棗さん…っ」
 見た目は棗でも、彼は棗でない。なのにコマンドを使われ、朋志は、踊りたくないという思いとは別に、踊らないといけないという気持ちにさせられた。
 棗の名前を呼んでも、ホール内の音楽や人々の談笑に搔き消されてしまい、自分の声すらわからないほどだった。
 「あら、素敵なひと、私と踊ってくださいな」
 「あ…、俺っ、踊れません。ごめんなさい…っ」
 強い力で引き寄せられ、踊らされる。ぎこちないステップ、足が絡まりバランスを崩しても、どこからともなく手が伸びて支えられた。
 朋志がもう踊りたくないと声の限りに叫んでも、誰も聞いていない。
 しかし、ホールにいる紳士淑女の視線は全て朋志に向いていた。
 怖い。
 踊りたくないのに、踊らないといけない。

 「次は私と」
 「いえ、私と」
 「あっ…! もう帰ります、お願いします、離してください!」
 代わる代わるダンスパートナーが朋志をリードして、無理やりステップを踏まされ、休む暇もない。
 「フフフ…」
 「ああ、楽しい」
 「この日を待っていた」
 「今年はなんと遊びがいのある」
 「誰か…もう踊れない…! 棗さん…!!」
 「まぁ、あなた、なんて…なんて…」

 「美味しそう…」 
 その囁きにゾッとした瞬間、冷たい指が朋志の手首に触れた。
  「…っ!」
 身を引こうとしたが、動きが封じられたかのように、足が重く感じた。朋志の体が傾く。今までの冷たい感触とは違う、温かみのある手が彼を強く引っ張った。

 「あ…っ、あなたは…!」
  振り返ると、さっきの背が高い紳士が、冷静な表情で朋志を引き寄せていた。 
 「さあ、こちらへ。もう安全です」
  優雅な仕草で朋志をダンスホールの端へ導き、周囲の怪しい者たちから遠ざける。
 彼の一言で、朋志を踊らせようとしていた者たちは不満げに目を細めたが、手出しをしない。

 ホールから出て、紳士について長い廊下を歩きながら、朋志はかすれた声で尋ねた。 
 「あなたは…どうして、助けてくれるんですか?」
  紳士は微笑を浮かべ、やや俯いて答えた。
 「あなたはどうしてここへ?」
 「…家に招待状があって…気がついたらここにいました」

 「ああ…それは気の毒に…」
 「?」
 紳士の嘆きがわからず、前を歩く後ろ姿を見つめる。
  「ここには毎年、生きた人が一人だけ招待されるんです。私はただ、その人が無事に帰れるように見守る役割を果たしているだけです」 
 「…生きた人……えっ?!」
 「…ええ。みんなあなたが仮面を外すのを待っていたのです。我々が外すのはルール違反ですから…自ら仮面を外せばそれはあなたも我々の仲間入りです」
 紳士の言葉を頭で理解しようとしたが、パーティーの喧騒がまるで霧のように意識を覆い隠していく。朋志はふらつきながらも、紳士に導かれるまま歩き出した。
 扉が開き、冷たい風が頬を撫でた瞬間、まるで重りが外れたかのように体が軽くなった。

 「ここから外に出れば大丈夫、後は私が引き受けます」
  その言葉が最後に聞こえた瞬間、朋志の視界は闇に包まれた。






 


 「……朋志さん」


 「ん」 

 「朋志さん」

 「!!」



 「あ、目が覚めましたね」


 「棗さん…?」
 「朋志さん、どうしました? 僕もたった今帰って来たところですが、リビングの飾り付けは朋志さんがしてくれたのですね…」
 棗だ。
 いつもの穏やかな表情で、配そうに朋志を覗き込んでいる。 
 あまりよく頭が働いていないうちから、棗の姿に安心して抱きついた。
 「棗さん…!」
 棗が驚いた表情をしたのも一瞬、身を寄せてきた朋志を抱き返した。
 「……怖い夢でも見たのでしょうか…」
 そう言いながら、背中を撫でてくれる。
 「棗さん…」
 「はい、朋志さん、大丈夫ですよ」
 「褒めてください…棗さんに褒めて欲しいです…」

 棗は、朋志が寝ぼけていると思っているのか、柔らかく響く声で朋志を安心させようとしてくれる。
 「ええ、もちろん。……朋志さんはもしかしたら、何か大変なことに巻き込まれたのかもしれませんね。でも、僕のことろに戻って来てくれましたね。よく頑張りました」

 棗の優しい声が、まるで子どもをあやすように耳に心地よく響く。背中を撫でる手の温もりが、現実感を取り戻させてくれる。
 朋志の中で溜まっていた不安が少しずつ消えていくのを感じた。抱きしめる力が少し緩み、安心感がじんわりと広がる。
 「はい…」

 細かいことはなにも聞かず、朋志の言うままに安心させようとしてくれる棗は、やっぱりあの人ならざる者たちが集まるパーティにいた棗とは違う。姿形が似ていても、朋志の棗は彼だけだ。

 「俺…、そう言えば、まだ途中だったのに…」
 「ええ、今日はハロウィンでしたね」
 「あっ!! 棗さんが帰って来るまでに用意しようと思って…サプライズが…」
 まだ寝ぼけているのかもしれない。全部言ってしまっている。サプライズには程遠い。

 「朋志さんが僕のことを考えてしてくれるだけで嬉しいです。僕も手伝って云いですか」

 そう言いながら、棗はもう腕まくりをはじめている。
 シャツを捲る棗が新鮮に見えて、ぼうっと見入ってしまう。一緒にキッチンに立てるのも嬉しい。だんだん頭がはっきりしてきた。
 「はい…あ」
 「?」

 「おかえりなさい、棗さん」


 



 
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