4 / 69
第1章・狼煙
#4
しおりを挟む
「裏から出るといい。それと――」
正人は続けて言った。
「すぐそこのコンビニじゃなくて、通りの向こうにあるスーパーへ行きなさい」
「え?」
不思議そうな顔をする唯人に、喜代が照れくさそうにはにかみながら言った。
「コンビニの卵はお高いんですよ」
妙な注文だと思ったが、外出を取り消されたわけではないと分かり、唯人は頷くと言われるまま裏口から外に出た。
「いいね。コンビニじゃなくて、スーパーだよ」
「うん。じゃあ行ってきます」
唯人は頷き通りに出た。
「唯人」
「?」
呼ばれて唯人は振り返った。
「なに?」
正人は何か言いかけて口を開いたが、いいや……と小さく首を振るとただ一言、「車に気を付けなさい」とだけ言って、そっと右手を振った。
その姿が、なぜかいつまでも唯人の脳裏から離れなかった。
言葉ではうまく言い表せないが、何かが目の前を黒く覆っているような気がした。
裏口に佇み手を振る父の姿と、その横にひっそりと寄り添う喜代の姿。
唯人は何かに急かされるように通りを急いだ。
――嫌な予感がした。
何故か分からないが、とにかく急がなければいけないような気がした。
小走りに通りをゆく。
家から程近い場所にあるコンビニエンスストア。
ここでも卵くらいは買えるだろう。高いとはいえ数百円も違わないはずだ。
なのに、なぜわざわざ遠いスーパーまで行かせるのだろう。
ここで買っても分かりゃしない――そう思ったが、あれほど念を押すのだ。何かわけがあるのではないかと思い、唯人は素直に自宅から距離のあるスーパーへと向かった。
1人でこんな所まで来るのは初めてだった。
買い物はいつも喜代か江戸川が必ず付き添っていたからだ。
16歳にして、初めてのおつかいにドキドキしながら、卵をレジに持っていき清算していると、店の外が妙に騒がしいことに気が付いた。
気のせいか、爆発音の様なものが聞こえてくる。
「おい!凄いことになってる」
「火事だよ!火事!」
誰かがそう言いながら店の外に飛び出していった。
「……」
人の流れに押されるように、唯人も店の外に出た。
自宅の方角。そこから黒煙が上がっている。
(え……?)
心臓が一瞬跳ね上がった。
まさか―――
その時、黒煙の方角からドン!という突き上げるような音がして、唯人はビクッとなった。火事にしては様子がおかしい。
「ガス爆発か?」
「ヤバいんじゃねぇ」
異変に気付いた付近の住民が、てんでに外へ飛び出してきた。
ぞろぞろと野次馬が向かうその方角を見て、唯人は震えた。
買ったばかりの卵を無意識に放り出すと、それらの流れに沿って一緒に歩いてゆく。
人の声も車の音も。もう何も、唯人の耳には入ってこなかった。
正人は続けて言った。
「すぐそこのコンビニじゃなくて、通りの向こうにあるスーパーへ行きなさい」
「え?」
不思議そうな顔をする唯人に、喜代が照れくさそうにはにかみながら言った。
「コンビニの卵はお高いんですよ」
妙な注文だと思ったが、外出を取り消されたわけではないと分かり、唯人は頷くと言われるまま裏口から外に出た。
「いいね。コンビニじゃなくて、スーパーだよ」
「うん。じゃあ行ってきます」
唯人は頷き通りに出た。
「唯人」
「?」
呼ばれて唯人は振り返った。
「なに?」
正人は何か言いかけて口を開いたが、いいや……と小さく首を振るとただ一言、「車に気を付けなさい」とだけ言って、そっと右手を振った。
その姿が、なぜかいつまでも唯人の脳裏から離れなかった。
言葉ではうまく言い表せないが、何かが目の前を黒く覆っているような気がした。
裏口に佇み手を振る父の姿と、その横にひっそりと寄り添う喜代の姿。
唯人は何かに急かされるように通りを急いだ。
――嫌な予感がした。
何故か分からないが、とにかく急がなければいけないような気がした。
小走りに通りをゆく。
家から程近い場所にあるコンビニエンスストア。
ここでも卵くらいは買えるだろう。高いとはいえ数百円も違わないはずだ。
なのに、なぜわざわざ遠いスーパーまで行かせるのだろう。
ここで買っても分かりゃしない――そう思ったが、あれほど念を押すのだ。何かわけがあるのではないかと思い、唯人は素直に自宅から距離のあるスーパーへと向かった。
1人でこんな所まで来るのは初めてだった。
買い物はいつも喜代か江戸川が必ず付き添っていたからだ。
16歳にして、初めてのおつかいにドキドキしながら、卵をレジに持っていき清算していると、店の外が妙に騒がしいことに気が付いた。
気のせいか、爆発音の様なものが聞こえてくる。
「おい!凄いことになってる」
「火事だよ!火事!」
誰かがそう言いながら店の外に飛び出していった。
「……」
人の流れに押されるように、唯人も店の外に出た。
自宅の方角。そこから黒煙が上がっている。
(え……?)
心臓が一瞬跳ね上がった。
まさか―――
その時、黒煙の方角からドン!という突き上げるような音がして、唯人はビクッとなった。火事にしては様子がおかしい。
「ガス爆発か?」
「ヤバいんじゃねぇ」
異変に気付いた付近の住民が、てんでに外へ飛び出してきた。
ぞろぞろと野次馬が向かうその方角を見て、唯人は震えた。
買ったばかりの卵を無意識に放り出すと、それらの流れに沿って一緒に歩いてゆく。
人の声も車の音も。もう何も、唯人の耳には入ってこなかった。
0
あなたにおすすめの小説
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる