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第1章・狼煙
#4
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「裏から出るといい。それと――」
正人は続けて言った。
「すぐそこのコンビニじゃなくて、通りの向こうにあるスーパーへ行きなさい」
「え?」
不思議そうな顔をする唯人に、喜代が照れくさそうにはにかみながら言った。
「コンビニの卵はお高いんですよ」
妙な注文だと思ったが、外出を取り消されたわけではないと分かり、唯人は頷くと言われるまま裏口から外に出た。
「いいね。コンビニじゃなくて、スーパーだよ」
「うん。じゃあ行ってきます」
唯人は頷き通りに出た。
「唯人」
「?」
呼ばれて唯人は振り返った。
「なに?」
正人は何か言いかけて口を開いたが、いいや……と小さく首を振るとただ一言、「車に気を付けなさい」とだけ言って、そっと右手を振った。
その姿が、なぜかいつまでも唯人の脳裏から離れなかった。
言葉ではうまく言い表せないが、何かが目の前を黒く覆っているような気がした。
裏口に佇み手を振る父の姿と、その横にひっそりと寄り添う喜代の姿。
唯人は何かに急かされるように通りを急いだ。
――嫌な予感がした。
何故か分からないが、とにかく急がなければいけないような気がした。
小走りに通りをゆく。
家から程近い場所にあるコンビニエンスストア。
ここでも卵くらいは買えるだろう。高いとはいえ数百円も違わないはずだ。
なのに、なぜわざわざ遠いスーパーまで行かせるのだろう。
ここで買っても分かりゃしない――そう思ったが、あれほど念を押すのだ。何かわけがあるのではないかと思い、唯人は素直に自宅から距離のあるスーパーへと向かった。
1人でこんな所まで来るのは初めてだった。
買い物はいつも喜代か江戸川が必ず付き添っていたからだ。
16歳にして、初めてのおつかいにドキドキしながら、卵をレジに持っていき清算していると、店の外が妙に騒がしいことに気が付いた。
気のせいか、爆発音の様なものが聞こえてくる。
「おい!凄いことになってる」
「火事だよ!火事!」
誰かがそう言いながら店の外に飛び出していった。
「……」
人の流れに押されるように、唯人も店の外に出た。
自宅の方角。そこから黒煙が上がっている。
(え……?)
心臓が一瞬跳ね上がった。
まさか―――
その時、黒煙の方角からドン!という突き上げるような音がして、唯人はビクッとなった。火事にしては様子がおかしい。
「ガス爆発か?」
「ヤバいんじゃねぇ」
異変に気付いた付近の住民が、てんでに外へ飛び出してきた。
ぞろぞろと野次馬が向かうその方角を見て、唯人は震えた。
買ったばかりの卵を無意識に放り出すと、それらの流れに沿って一緒に歩いてゆく。
人の声も車の音も。もう何も、唯人の耳には入ってこなかった。
正人は続けて言った。
「すぐそこのコンビニじゃなくて、通りの向こうにあるスーパーへ行きなさい」
「え?」
不思議そうな顔をする唯人に、喜代が照れくさそうにはにかみながら言った。
「コンビニの卵はお高いんですよ」
妙な注文だと思ったが、外出を取り消されたわけではないと分かり、唯人は頷くと言われるまま裏口から外に出た。
「いいね。コンビニじゃなくて、スーパーだよ」
「うん。じゃあ行ってきます」
唯人は頷き通りに出た。
「唯人」
「?」
呼ばれて唯人は振り返った。
「なに?」
正人は何か言いかけて口を開いたが、いいや……と小さく首を振るとただ一言、「車に気を付けなさい」とだけ言って、そっと右手を振った。
その姿が、なぜかいつまでも唯人の脳裏から離れなかった。
言葉ではうまく言い表せないが、何かが目の前を黒く覆っているような気がした。
裏口に佇み手を振る父の姿と、その横にひっそりと寄り添う喜代の姿。
唯人は何かに急かされるように通りを急いだ。
――嫌な予感がした。
何故か分からないが、とにかく急がなければいけないような気がした。
小走りに通りをゆく。
家から程近い場所にあるコンビニエンスストア。
ここでも卵くらいは買えるだろう。高いとはいえ数百円も違わないはずだ。
なのに、なぜわざわざ遠いスーパーまで行かせるのだろう。
ここで買っても分かりゃしない――そう思ったが、あれほど念を押すのだ。何かわけがあるのではないかと思い、唯人は素直に自宅から距離のあるスーパーへと向かった。
1人でこんな所まで来るのは初めてだった。
買い物はいつも喜代か江戸川が必ず付き添っていたからだ。
16歳にして、初めてのおつかいにドキドキしながら、卵をレジに持っていき清算していると、店の外が妙に騒がしいことに気が付いた。
気のせいか、爆発音の様なものが聞こえてくる。
「おい!凄いことになってる」
「火事だよ!火事!」
誰かがそう言いながら店の外に飛び出していった。
「……」
人の流れに押されるように、唯人も店の外に出た。
自宅の方角。そこから黒煙が上がっている。
(え……?)
心臓が一瞬跳ね上がった。
まさか―――
その時、黒煙の方角からドン!という突き上げるような音がして、唯人はビクッとなった。火事にしては様子がおかしい。
「ガス爆発か?」
「ヤバいんじゃねぇ」
異変に気付いた付近の住民が、てんでに外へ飛び出してきた。
ぞろぞろと野次馬が向かうその方角を見て、唯人は震えた。
買ったばかりの卵を無意識に放り出すと、それらの流れに沿って一緒に歩いてゆく。
人の声も車の音も。もう何も、唯人の耳には入ってこなかった。
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