薔薇を抱いて眠れ

sorarion914

文字の大きさ
16 / 65
第3章・接近

#3

しおりを挟む
 要は、テーブルに散らばる写真の1枚を何気なく手に取った。

「それは当時、サキヤ製薬の研究所で働いていた研究員たちの写真だ」

 たいぶ色褪せた写真で、白衣姿の男が5人、女が2人。殺風景な壁をバックに映っていた。

「薬の研究は、サキヤ製薬が独自に開発していたものなんでしょう?極秘の研究所まで構えて、専門の研究員まで揃えて……なぜ彼らは薬の製造法を知らないんですか?」
「薬の存在は、上層部でもごく一部の人間しか知らなかったんだろう。極めて秘密裏に事を運びたかったのさ。向こうとしては恐らく、製造法だけを聞き出して、事実を知る者の口は全て封じるつもりだったんだろう。ところが――」

 麻生はそう言って、研究者が映る写真を指先でコンコンと叩いた。

「ヤバい気配を感じた研究員たちは、製造方法バクダンを抱えたまま研究所から逃げだした。その結果――その写真に写っている研究員のうち、生き残っていると確認できたのは右隅に写っている清宮宗源と、その隣の土方幸造ひじかたこうぞうの2人だけ。あとは死んだ」
「……殺されたんですか?」

 要は恐る恐る聞いた。

「事故という扱いをされているようだが、実際はどうだか分からない。当時、サキヤ製薬の社長で今は会長職に退いている咲屋昇一という男は、政界や警察官僚とも仲がいいと言われていた。不審死を事故死に変えることも、そう難しい事じゃなかったろう」
「……」
「奴らが今も必死になって残りの研究員の行方を捜してるのは、薬の製造法をまだ聞き出していないか、あるいは既に知っていて事実を知る者をこの世から消す為か――そのどちらかだと思っている」
「それを俺に調べろと?」
「それもあるが……お前に調べて欲しい事は他にある」

 そう言うと、麻生は一枚の写真を要の前に差し出した。
 要はそれを受け取り、じっと見つめた。
 写っているのは、陰気な顔をした中年男性と幼い顔をした一人の少年だった。

「私がこの話を知ったのは薬の完成とほぼ同時期だったように思う。当時、サキヤにいた人間がその情報を持ってきた。極秘ネタを買ってくれないか?とな」
「……」
「俄かには信じがたい話だったが、あながち冗談でもないように感じた。だから真偽を確かめる為に向こうに人を潜り込ませて、それとなく動向を探ってみた。その結果、連中がが分かった」

 麻生はタバコに火をつけると、ゆっくり吸い込んで吐き出した。

「薬の存在は事実だろうと踏んだ。その上で、行方知れずの研究員を必死になって捜している。まだ見つかっていないのは清宮と土方だけ。もし、そのどちらか一方でも見つけることが出来たら……そう思ったらこっちも必死だ。しかし、一向に行方は分からなかった」

 麻生は紫煙を吐き出しながら言った。

「だがつい最近になって、清宮の消息を掴むことが出来た。それまできっと、あちこち転々としていたんだろう。清宮宗源はまだ生きていたよ。その頃はまだな」
「死んだんですか?彼も」
「半年ほど前にな。病死らしい。不審な点はなかった。長年の心労が祟ったんだろう」

 要は無言で頷いた。そして、ふと気づいたように言った。

「もう1人の行方は?」
「土方か?こいつの方だけは未だに分からん。もしかしたら、死んでいるのかもしれないな。持病があったという話だ」
「この写真の男が、今回の爆発事故で死んだ清宮宗源の息子で、土方という男も死んでいるとするなら……もう製造法を知る人間はいないんじゃ?」
「だが、清宮宗源には孫がいた」

 そう言って、要が手にする写真の少年を指差した。
 大きな目をパッチリと開き、聡明な顔立ちをした男の子だった。
 暗い顔をしている父親とは、あまり似ていない。

「情けない話だが、彼らの居場所を掴んでも、子供の存在にはまるで気づかなかった。余程警戒していたんだろう。たまたま撮った写真の一部に偶然写り込んで初めて知った」
「でもなぜ?被害者の身元を調べたら、子供がいることぐらい――」
「清宮正人に婚姻歴はないし、養子を貰ったという事実もない」
「じゃあなぜこの子が彼の息子だと?」
「勘だ」

 こともなげに言って麻生は笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...