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第3章・接近
#3
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要は、テーブルに散らばる写真の1枚を何気なく手に取った。
「それは当時、サキヤ製薬の研究所で働いていた研究員たちの写真だ」
たいぶ色褪せた写真で、白衣姿の男が5人、女が2人。殺風景な壁をバックに映っていた。
「薬の研究は、サキヤ製薬が独自に開発していたものなんでしょう?極秘の研究所まで構えて、専門の研究員まで揃えて……なぜ彼らは薬の製造法を知らないんですか?」
「薬の存在は、上層部でもごく一部の人間しか知らなかったんだろう。極めて秘密裏に事を運びたかったのさ。向こうとしては恐らく、製造法だけを聞き出して、事実を知る者の口は全て封じるつもりだったんだろう。ところが――」
麻生はそう言って、研究者が映る写真を指先でコンコンと叩いた。
「ヤバい気配を感じた研究員たちは、製造方法を抱えたまま研究所から逃げだした。その結果――その写真に写っている研究員のうち、生き残っていると確認できたのは右隅に写っている清宮宗源と、その隣の土方幸造の2人だけ。あとは死んだ」
「……殺されたんですか?」
要は恐る恐る聞いた。
「事故という扱いをされているようだが、実際はどうだか分からない。当時、サキヤ製薬の社長で今は会長職に退いている咲屋昇一という男は、政界や警察官僚とも仲がいいと言われていた。不審死を事故死に変えることも、そう難しい事じゃなかったろう」
「……」
「奴らが今も必死になって残りの研究員の行方を捜してるのは、薬の製造法をまだ聞き出していないか、あるいは既に知っていて事実を知る者をこの世から消す為か――そのどちらかだと思っている」
「それを俺に調べろと?」
「それもあるが……お前に調べて欲しい事は他にある」
そう言うと、麻生は一枚の写真を要の前に差し出した。
要はそれを受け取り、じっと見つめた。
写っているのは、陰気な顔をした中年男性と幼い顔をした一人の少年だった。
「私がこの話を知ったのは薬の完成とほぼ同時期だったように思う。当時、サキヤにいた人間がその情報を持ってきた。極秘ネタを買ってくれないか?とな」
「……」
「俄かには信じがたい話だったが、あながち冗談でもないように感じた。だから真偽を確かめる為に向こうに人を潜り込ませて、それとなく動向を探ってみた。その結果、連中が何かを必死に隠そうとしていることが分かった」
麻生はタバコに火をつけると、ゆっくり吸い込んで吐き出した。
「薬の存在は事実だろうと踏んだ。その上で、行方知れずの研究員を必死になって捜している。まだ見つかっていないのは清宮と土方だけ。もし、そのどちらか一方でも見つけることが出来たら……そう思ったらこっちも必死だ。しかし、一向に行方は分からなかった」
麻生は紫煙を吐き出しながら言った。
「だがつい最近になって、清宮の消息を掴むことが出来た。それまできっと、あちこち転々としていたんだろう。清宮宗源はまだ生きていたよ。その頃はまだな」
「死んだんですか?彼も」
「半年ほど前にな。病死らしい。不審な点はなかった。長年の心労が祟ったんだろう」
要は無言で頷いた。そして、ふと気づいたように言った。
「もう1人の行方は?」
「土方か?こいつの方だけは未だに分からん。もしかしたら、死んでいるのかもしれないな。持病があったという話だ」
「この写真の男が、今回の爆発事故で死んだ清宮宗源の息子で、土方という男も死んでいるとするなら……もう製造法を知る人間はいないんじゃ?」
「だが、清宮宗源には孫がいた」
そう言って、要が手にする写真の少年を指差した。
大きな目をパッチリと開き、聡明な顔立ちをした男の子だった。
暗い顔をしている父親とは、あまり似ていない。
「情けない話だが、彼らの居場所を掴んでも、子供の存在にはまるで気づかなかった。余程警戒していたんだろう。たまたま撮った写真の一部に偶然写り込んで初めて知った」
「でもなぜ?被害者の身元を調べたら、子供がいることぐらい――」
「清宮正人に婚姻歴はないし、養子を貰ったという事実もない」
「じゃあなぜこの子が彼の息子だと?」
「勘だ」
こともなげに言って麻生は笑った。
「それは当時、サキヤ製薬の研究所で働いていた研究員たちの写真だ」
たいぶ色褪せた写真で、白衣姿の男が5人、女が2人。殺風景な壁をバックに映っていた。
「薬の研究は、サキヤ製薬が独自に開発していたものなんでしょう?極秘の研究所まで構えて、専門の研究員まで揃えて……なぜ彼らは薬の製造法を知らないんですか?」
「薬の存在は、上層部でもごく一部の人間しか知らなかったんだろう。極めて秘密裏に事を運びたかったのさ。向こうとしては恐らく、製造法だけを聞き出して、事実を知る者の口は全て封じるつもりだったんだろう。ところが――」
麻生はそう言って、研究者が映る写真を指先でコンコンと叩いた。
「ヤバい気配を感じた研究員たちは、製造方法を抱えたまま研究所から逃げだした。その結果――その写真に写っている研究員のうち、生き残っていると確認できたのは右隅に写っている清宮宗源と、その隣の土方幸造の2人だけ。あとは死んだ」
「……殺されたんですか?」
要は恐る恐る聞いた。
「事故という扱いをされているようだが、実際はどうだか分からない。当時、サキヤ製薬の社長で今は会長職に退いている咲屋昇一という男は、政界や警察官僚とも仲がいいと言われていた。不審死を事故死に変えることも、そう難しい事じゃなかったろう」
「……」
「奴らが今も必死になって残りの研究員の行方を捜してるのは、薬の製造法をまだ聞き出していないか、あるいは既に知っていて事実を知る者をこの世から消す為か――そのどちらかだと思っている」
「それを俺に調べろと?」
「それもあるが……お前に調べて欲しい事は他にある」
そう言うと、麻生は一枚の写真を要の前に差し出した。
要はそれを受け取り、じっと見つめた。
写っているのは、陰気な顔をした中年男性と幼い顔をした一人の少年だった。
「私がこの話を知ったのは薬の完成とほぼ同時期だったように思う。当時、サキヤにいた人間がその情報を持ってきた。極秘ネタを買ってくれないか?とな」
「……」
「俄かには信じがたい話だったが、あながち冗談でもないように感じた。だから真偽を確かめる為に向こうに人を潜り込ませて、それとなく動向を探ってみた。その結果、連中が何かを必死に隠そうとしていることが分かった」
麻生はタバコに火をつけると、ゆっくり吸い込んで吐き出した。
「薬の存在は事実だろうと踏んだ。その上で、行方知れずの研究員を必死になって捜している。まだ見つかっていないのは清宮と土方だけ。もし、そのどちらか一方でも見つけることが出来たら……そう思ったらこっちも必死だ。しかし、一向に行方は分からなかった」
麻生は紫煙を吐き出しながら言った。
「だがつい最近になって、清宮の消息を掴むことが出来た。それまできっと、あちこち転々としていたんだろう。清宮宗源はまだ生きていたよ。その頃はまだな」
「死んだんですか?彼も」
「半年ほど前にな。病死らしい。不審な点はなかった。長年の心労が祟ったんだろう」
要は無言で頷いた。そして、ふと気づいたように言った。
「もう1人の行方は?」
「土方か?こいつの方だけは未だに分からん。もしかしたら、死んでいるのかもしれないな。持病があったという話だ」
「この写真の男が、今回の爆発事故で死んだ清宮宗源の息子で、土方という男も死んでいるとするなら……もう製造法を知る人間はいないんじゃ?」
「だが、清宮宗源には孫がいた」
そう言って、要が手にする写真の少年を指差した。
大きな目をパッチリと開き、聡明な顔立ちをした男の子だった。
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「情けない話だが、彼らの居場所を掴んでも、子供の存在にはまるで気づかなかった。余程警戒していたんだろう。たまたま撮った写真の一部に偶然写り込んで初めて知った」
「でもなぜ?被害者の身元を調べたら、子供がいることぐらい――」
「清宮正人に婚姻歴はないし、養子を貰ったという事実もない」
「じゃあなぜこの子が彼の息子だと?」
「勘だ」
こともなげに言って麻生は笑った。
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