17 / 69
第3章・接近
#4
しおりを挟む
「自分たちの身辺にはかなり気を使っていた連中だ。まったく関係のない赤の他人の子を引き取って、一緒に暮らしていたとは考えにくい。子供に対する警戒の仕方も異常だ。恐らく彼らにとっては身内同様に大切な子供なんだろう」
麻生はタバコを灰皿に押し付けた。
「しかし、他人に対する警戒心がこれだけ強い彼らが、いつ雇ったのか知れないが、2人の人間を雇っていた。1人は住み込みの家政婦。今回一緒に死んだ女だろう。そしてもう1人が、清宮の秘書と称して頻繁にあの家に出入りしていた男だ」
そう言うと、麻生は内ポケットから別の封筒を取り出して、その中から一枚の写真を抜き出した。それを要の方へ差し向ける。
要は手に取って見た。
「江戸川千景。年齢32。本籍地は静岡になっていた。両親は既に死亡。他に身寄りはないらしい。家政婦同様、彼らとひとつ屋根の下で生活していた」
黒いスーツを着て、遠くを見るように佇む男。
パット見は、エリート商社マンといった風貌だった。
静止画像だが、そつのない身のこなしが伺えるようで、なんだかいけ好かないと感じる。
まだ言葉すら交わしたことのない相手なのに――要は妙な嫉妬を感じて戸惑った。
「俺に一体何をしろと?」
要は、写真の男を睨みつける様に見つめながら、そう聞いた。
「あの事故があった直後から、この男と少年は姿を消した。死んでいないのは確かだ。焼け跡から出てきたのは清宮と家政婦だけ」
「まさかオヤジは、この男の子が薬の製造法を知っているとでも思ってるわけ?」
「可能性がないとは言えない」
バカらしい……と、要は苦笑した。
麻生はそれを見てゆっくり背を向けると、窓辺に寄った。
向かいのビルも、そのまた向こうにそびえるビルも、盲目的な働き蟻で溢れかえっている。
金を集め、金を稼ぎ、経済を回しながら経済に食われていく。
哀れな亡者どもの巨大な蟻塚。
「怖いと思うか?」
ふいにそう聞かれて、要は視線を上げた。
麻生は窓の外に目をやったまま言った。
「この件に関わって消えた人間は大勢いる。だが表沙汰になったものは1つもない。今回の事故も、恐らくガスの引火で片付けられるだろう」
「……」
「表から見る世界と裏から見る世界は違う。それを見るのは怖いか?」
振り返って自分を見る父の目を、要は睨み返した。
「これは試練だよ」
「試練?」
「私が今いるこの地位について最初に直面した試練は、社の命運を分ける様なデカい取り引きだった。あの時の判断が間違っていたら、今頃一家揃って首を括っていたところだ。でもどうだ?私もお前も生きている――」
「――」
「我々の目的は少年を保護することだ」
「表向きは――だろ?」
「この2人を捜し出して説得して欲しい。それがお前の仕事だ。最初の試練だよ」
できるか?
と聞かれたが、要は答えなかった。
「もし成功したら、お前も一人前だ。学生気分にケリをつけるチャンスだぞ。さぁ、どうする?」
麻生の言葉に、要は舌打ちした。
(なにを偉そうに……)
会社で役に立たないのなら、せめてこれくらいは自分に貢献しろ――そう遠回しに言ってるだけじゃないか!
要はしばらく無言で考え込んだ。
目の前に並ぶ写真を、1つ1つ目で追っていく。
その中から、父親と一緒に写るあどけない顔をした少年。不安そうに映るその姿に、ふと、会ってみたい――と思った。
存在が定かでない幻のような少年。
本当に実在するのだろうか?
(試練なんてクソ喰らえだ!)
自分はこの子に会ってみたいから承諾するだけだ。
要は麻生の顔を見て、一言だけ呟いた。
「分かった」――と。
麻生はタバコを灰皿に押し付けた。
「しかし、他人に対する警戒心がこれだけ強い彼らが、いつ雇ったのか知れないが、2人の人間を雇っていた。1人は住み込みの家政婦。今回一緒に死んだ女だろう。そしてもう1人が、清宮の秘書と称して頻繁にあの家に出入りしていた男だ」
そう言うと、麻生は内ポケットから別の封筒を取り出して、その中から一枚の写真を抜き出した。それを要の方へ差し向ける。
要は手に取って見た。
「江戸川千景。年齢32。本籍地は静岡になっていた。両親は既に死亡。他に身寄りはないらしい。家政婦同様、彼らとひとつ屋根の下で生活していた」
黒いスーツを着て、遠くを見るように佇む男。
パット見は、エリート商社マンといった風貌だった。
静止画像だが、そつのない身のこなしが伺えるようで、なんだかいけ好かないと感じる。
まだ言葉すら交わしたことのない相手なのに――要は妙な嫉妬を感じて戸惑った。
「俺に一体何をしろと?」
要は、写真の男を睨みつける様に見つめながら、そう聞いた。
「あの事故があった直後から、この男と少年は姿を消した。死んでいないのは確かだ。焼け跡から出てきたのは清宮と家政婦だけ」
「まさかオヤジは、この男の子が薬の製造法を知っているとでも思ってるわけ?」
「可能性がないとは言えない」
バカらしい……と、要は苦笑した。
麻生はそれを見てゆっくり背を向けると、窓辺に寄った。
向かいのビルも、そのまた向こうにそびえるビルも、盲目的な働き蟻で溢れかえっている。
金を集め、金を稼ぎ、経済を回しながら経済に食われていく。
哀れな亡者どもの巨大な蟻塚。
「怖いと思うか?」
ふいにそう聞かれて、要は視線を上げた。
麻生は窓の外に目をやったまま言った。
「この件に関わって消えた人間は大勢いる。だが表沙汰になったものは1つもない。今回の事故も、恐らくガスの引火で片付けられるだろう」
「……」
「表から見る世界と裏から見る世界は違う。それを見るのは怖いか?」
振り返って自分を見る父の目を、要は睨み返した。
「これは試練だよ」
「試練?」
「私が今いるこの地位について最初に直面した試練は、社の命運を分ける様なデカい取り引きだった。あの時の判断が間違っていたら、今頃一家揃って首を括っていたところだ。でもどうだ?私もお前も生きている――」
「――」
「我々の目的は少年を保護することだ」
「表向きは――だろ?」
「この2人を捜し出して説得して欲しい。それがお前の仕事だ。最初の試練だよ」
できるか?
と聞かれたが、要は答えなかった。
「もし成功したら、お前も一人前だ。学生気分にケリをつけるチャンスだぞ。さぁ、どうする?」
麻生の言葉に、要は舌打ちした。
(なにを偉そうに……)
会社で役に立たないのなら、せめてこれくらいは自分に貢献しろ――そう遠回しに言ってるだけじゃないか!
要はしばらく無言で考え込んだ。
目の前に並ぶ写真を、1つ1つ目で追っていく。
その中から、父親と一緒に写るあどけない顔をした少年。不安そうに映るその姿に、ふと、会ってみたい――と思った。
存在が定かでない幻のような少年。
本当に実在するのだろうか?
(試練なんてクソ喰らえだ!)
自分はこの子に会ってみたいから承諾するだけだ。
要は麻生の顔を見て、一言だけ呟いた。
「分かった」――と。
0
あなたにおすすめの小説
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる