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第3章・接近
#5
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小石川にある自宅に戻るや否や、要は迎えに出たお手伝いへの挨拶もそこそこに、自室へ飛び込んだ。
鍵のかかった机の引き出しを開け、中から封筒を取り出す。
そして徐に机の上に中身をぶちまけた。
「どれだ?どれだ?」そう呟きながら写真を手に取り、「あった!」と声をあげた。
「やっぱりそうだ――クソッ!」
要は両手で頭を掻きむしった。
昼間、ホテルのトイレで会った少年だった。
(間違いない)
(目の前で見ていながら……何をやっているんだ俺は!)
でも生きていた――
そう思うと、要は何故かホッとした。
父からあんな不穏な話を聞かされて、もしやもう殺されているのではないかと、少なからず心配していたのだ。
「よかった……」
思わずそう呟いて、要は写真の少年に笑いかけた。
写真に写る少年と、昼間会った少年とを比較してみる。
幾分痩せてはいたが、元気そうな顔色をしていた。
あの子があの場所にいたという事は、きっとこの男も近くにいたはずだ。
要はそう思って、もう一枚別の写真を手に取って眺めた。
江戸川千景。
この世の何が楽しいんだ?という、感情のない顔をしている。
付近を警戒するような鋭い眼差しは、まるで要人警護のSPのようだ。
端正な顔立ちではあるが、どこか冷たい。
本気で笑わない男だろう――と、要は思った。
恐らく、この男が今は少年のボディーガードを務めているのだ。
(あのホテル……もしかしたら、彼らはあそこの宿泊客かもしれないな)
要はそう思うと、今度は慌てて写真を封筒にしまい、部屋を飛び出した。
「あれ坊ちゃん。またお出掛けですか?」
「うん……ちょっとね」
もどかし気に靴を履く要に、お手伝いの登美子が言った。
「遅くなりますの?お夕食、どうなさいます?」
「分からない。夕飯はいらないよ」
それだけ言い残して、要は家を飛び出した。
自分の車を使おうかと一瞬迷ったが、やめてタクシーを使うことにした。
昼間、得意先と会ったホテルへ再び向かいながら、要は考えた。
あの二人がホテルに宿泊している可能性は半々だった。
でも、ただ手を洗うだけでホテルのトイレを利用するだろか?フロントで確認してもいいが、偽名を使っている可能性が高い。
張り込むしかないか……
夕闇迫る街明かりを見つめながら、要は逸る気持ちを抑えていた。
あの2人の所在を知りたがっている人間は、自分たちの他にもいるのだ。
もし、向こうが先に気づいて動きだしたら……
そう思うと、何としても先に会わなければ。
もう一度会えるかどうかは分からないが――でも、要には不思議と会えるような予感があった。
タクシーが目的地に着くと、要は降りて再び正面入り口から中に入った。
ロビーをザっと見回す。
正面にフロントがあり、向かって左側に喫茶店がある。まだ営業はしていたが、あそこでは見通しが悪い。
要は人を待つ振りをしながら、さり気なくロビーの一角にあるソファに腰を下ろした。
読む気のない新聞を取り出し、それを開く。
同じようにしている客が、他にも数人いた。
要は新聞を読むふりをしながら、時折チラチラと辺りに目を向けていた。
しかし、目当ての少年の姿はない。
というより、子供の姿など皆無に等しいのだ。
だからこそ、宿泊している中学生くらいの少年と聞けば、フロントも心当たりがあるだろう。
やはり偶然に期待するのは間違いか――
素直に聞いた方が早いかもしれない。
でも、調べていることを相手に悟られたら逃げてしまうかもしれない。
せっかく可能性を掴んだのだ。今逃げられたら、次に見つけるのが非常に困難になる。
要は辛抱強く待つことにした。
長期戦覚悟で、必要とあればこのホテルに部屋を取ってもいいとさえ思った。
(特別手当を貰わなきゃ割に合わないよな……)
そうボヤいて、要は新聞をめくった。
その時――
自分の背後を、サーっと駆け抜けていく少年の姿に目を止めて、要はハッとした。
鍵のかかった机の引き出しを開け、中から封筒を取り出す。
そして徐に机の上に中身をぶちまけた。
「どれだ?どれだ?」そう呟きながら写真を手に取り、「あった!」と声をあげた。
「やっぱりそうだ――クソッ!」
要は両手で頭を掻きむしった。
昼間、ホテルのトイレで会った少年だった。
(間違いない)
(目の前で見ていながら……何をやっているんだ俺は!)
でも生きていた――
そう思うと、要は何故かホッとした。
父からあんな不穏な話を聞かされて、もしやもう殺されているのではないかと、少なからず心配していたのだ。
「よかった……」
思わずそう呟いて、要は写真の少年に笑いかけた。
写真に写る少年と、昼間会った少年とを比較してみる。
幾分痩せてはいたが、元気そうな顔色をしていた。
あの子があの場所にいたという事は、きっとこの男も近くにいたはずだ。
要はそう思って、もう一枚別の写真を手に取って眺めた。
江戸川千景。
この世の何が楽しいんだ?という、感情のない顔をしている。
付近を警戒するような鋭い眼差しは、まるで要人警護のSPのようだ。
端正な顔立ちではあるが、どこか冷たい。
本気で笑わない男だろう――と、要は思った。
恐らく、この男が今は少年のボディーガードを務めているのだ。
(あのホテル……もしかしたら、彼らはあそこの宿泊客かもしれないな)
要はそう思うと、今度は慌てて写真を封筒にしまい、部屋を飛び出した。
「あれ坊ちゃん。またお出掛けですか?」
「うん……ちょっとね」
もどかし気に靴を履く要に、お手伝いの登美子が言った。
「遅くなりますの?お夕食、どうなさいます?」
「分からない。夕飯はいらないよ」
それだけ言い残して、要は家を飛び出した。
自分の車を使おうかと一瞬迷ったが、やめてタクシーを使うことにした。
昼間、得意先と会ったホテルへ再び向かいながら、要は考えた。
あの二人がホテルに宿泊している可能性は半々だった。
でも、ただ手を洗うだけでホテルのトイレを利用するだろか?フロントで確認してもいいが、偽名を使っている可能性が高い。
張り込むしかないか……
夕闇迫る街明かりを見つめながら、要は逸る気持ちを抑えていた。
あの2人の所在を知りたがっている人間は、自分たちの他にもいるのだ。
もし、向こうが先に気づいて動きだしたら……
そう思うと、何としても先に会わなければ。
もう一度会えるかどうかは分からないが――でも、要には不思議と会えるような予感があった。
タクシーが目的地に着くと、要は降りて再び正面入り口から中に入った。
ロビーをザっと見回す。
正面にフロントがあり、向かって左側に喫茶店がある。まだ営業はしていたが、あそこでは見通しが悪い。
要は人を待つ振りをしながら、さり気なくロビーの一角にあるソファに腰を下ろした。
読む気のない新聞を取り出し、それを開く。
同じようにしている客が、他にも数人いた。
要は新聞を読むふりをしながら、時折チラチラと辺りに目を向けていた。
しかし、目当ての少年の姿はない。
というより、子供の姿など皆無に等しいのだ。
だからこそ、宿泊している中学生くらいの少年と聞けば、フロントも心当たりがあるだろう。
やはり偶然に期待するのは間違いか――
素直に聞いた方が早いかもしれない。
でも、調べていることを相手に悟られたら逃げてしまうかもしれない。
せっかく可能性を掴んだのだ。今逃げられたら、次に見つけるのが非常に困難になる。
要は辛抱強く待つことにした。
長期戦覚悟で、必要とあればこのホテルに部屋を取ってもいいとさえ思った。
(特別手当を貰わなきゃ割に合わないよな……)
そうボヤいて、要は新聞をめくった。
その時――
自分の背後を、サーっと駆け抜けていく少年の姿に目を止めて、要はハッとした。
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