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第3章・接近
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午後3時。
待ち合わせをしていた得意先の人間が現れ、商談が始まった。
終始押したのは要の方で、三島はただそれに相槌を打つだけに留まった。
単なる世間話に毛の生えたような商談は1時間で終わり、待ち時間と一緒だと、要は笑った。
帰りは僕が運転しましょうか?と三島が言うので、要は素直に助手席に移った。
三島の性格そのものの様な律義な安全運転で、車は早くも夕方の渋滞に飲み込まれた。
三島が小さく舌打ちしたが、要は何も言わなかった。
ぼんやり車窓の景色を見ながら、ホテルのトイレで会った少年について考える。
どこかで見た――
商談中も考えていたが、どうしても思い出せない。
自分の記憶力は、いつからこんなに鈍くなったのだと思い、腹が立った。
きっと色々な事を詰め込み過ぎたせいだ……
あまりにも信じられない話を耳にして、脳がビックリしているのだ。
もともと容量の少ない頭だ。詰め込み過ぎて、そのうちパンクするに違いない。
(親父があんな話をするからだ……)
そう思った時。
ふいに頭の中で閃光が走った。
「三島さん!悪いけど、この先の路肩で止めてくれますか?」
「え!?ど、どうしたんですか?」
三島はハンドルを握りしめたまま、慌てたように助手席を見た。
「ちょっと急用を思い出して――課長には、今日はこのまま直帰するって伝えておいて下さい」
と言うや否や要は車から降りると、呆気にとられている三島を残して、交差点の向こうの雑踏へ消えていった。
「信じられないな……」
社長室で。
手渡された封筒の中から取り出したレポート用紙と写真に目をやり、要は視線を上げた。
麻生はその目に小さく頷いた。
「まぁ無理もない。夢みたいな話だからな」
「夢みたいじゃなくて、夢なんじゃないの?」
要の台詞に麻生は、バカ言うなと苦笑した。
「単なる夢の話に大事な時間と金を浪費するものか。確信があるから調べているんだ。薬は確かに存在する」
「たった一滴で人の精神を破壊して、マインドコントロールを施せる薬?そんなもの……もしあったとしても、何に使うのさ?」
「……」
麻生は無言で7本目のタバコに火をつけた。
それを見て要は眉をひそめる。
「吸い過ぎだよ」
「今更止めたところで、体内に蓄積された毒素は消えやしない」
死ぬまでな――そう付け足して、ニヤッと笑った。
笑えない話だと、要はそっぽを向いた。
父親がこれほどの喫煙家だというのに、要は吸わない。
吸わないというより、吸えないのだ。体に悪いからとか、そういう事ではなく。
ただ、吸えないのだ。
「この薬は高く売れる」
そう言って灰皿に灰を落とす麻生を見て、要は言った。
「海外に売りさばくつもりか?」
「欲しがる国ならたくさん知ってる。喉から手が出るほど、欲しがる国をな――どんな大金を積んでも惜しくはないだろうさ」
「薬の効果が本当ならね」
要はそう呟き思わず身震いした。
もし本当なら、スゴイどころじゃ済まない。そんな薬、もし手に入れたら……
「兵器として売るつもりじゃないだろうな?」
要の台詞に麻生は顔をしかめた。
「迂闊な事を口にしてくれるな。そんな名目で取引などするわけがない。ただ、『こういうモノがある』と提示して、あとは向こうが判断するだけだ。どう利用するかは手にした者次第だな」
「そんな無責任な……」
要は吐き捨てるように言った。
そんなもの――兵器以外の何に利用するというのだ。
独裁者の手に渡ってみろ。
この世は終わりだ。
「お前の言いたいことは分かる。犯罪行為だと言いたいんだろう」
「武器商人と一緒だ」
「だがこれもビジネスだ。キレイごとばかりは言ってられない。お前は知らないだけで、犯罪スレスレの行為など――何度やったか知れないよ」
「……」
「だがそうでもしなければ、この世界で生き残ることはできない」
お前もいずれ分かる――
そう言われて要は、(分かるもんか!)と舌打ちした。
商売人の父とは一生平行線のままだろう。
この先交わることなど、恐らく無いに違いない――と要は思った。
待ち合わせをしていた得意先の人間が現れ、商談が始まった。
終始押したのは要の方で、三島はただそれに相槌を打つだけに留まった。
単なる世間話に毛の生えたような商談は1時間で終わり、待ち時間と一緒だと、要は笑った。
帰りは僕が運転しましょうか?と三島が言うので、要は素直に助手席に移った。
三島の性格そのものの様な律義な安全運転で、車は早くも夕方の渋滞に飲み込まれた。
三島が小さく舌打ちしたが、要は何も言わなかった。
ぼんやり車窓の景色を見ながら、ホテルのトイレで会った少年について考える。
どこかで見た――
商談中も考えていたが、どうしても思い出せない。
自分の記憶力は、いつからこんなに鈍くなったのだと思い、腹が立った。
きっと色々な事を詰め込み過ぎたせいだ……
あまりにも信じられない話を耳にして、脳がビックリしているのだ。
もともと容量の少ない頭だ。詰め込み過ぎて、そのうちパンクするに違いない。
(親父があんな話をするからだ……)
そう思った時。
ふいに頭の中で閃光が走った。
「三島さん!悪いけど、この先の路肩で止めてくれますか?」
「え!?ど、どうしたんですか?」
三島はハンドルを握りしめたまま、慌てたように助手席を見た。
「ちょっと急用を思い出して――課長には、今日はこのまま直帰するって伝えておいて下さい」
と言うや否や要は車から降りると、呆気にとられている三島を残して、交差点の向こうの雑踏へ消えていった。
「信じられないな……」
社長室で。
手渡された封筒の中から取り出したレポート用紙と写真に目をやり、要は視線を上げた。
麻生はその目に小さく頷いた。
「まぁ無理もない。夢みたいな話だからな」
「夢みたいじゃなくて、夢なんじゃないの?」
要の台詞に麻生は、バカ言うなと苦笑した。
「単なる夢の話に大事な時間と金を浪費するものか。確信があるから調べているんだ。薬は確かに存在する」
「たった一滴で人の精神を破壊して、マインドコントロールを施せる薬?そんなもの……もしあったとしても、何に使うのさ?」
「……」
麻生は無言で7本目のタバコに火をつけた。
それを見て要は眉をひそめる。
「吸い過ぎだよ」
「今更止めたところで、体内に蓄積された毒素は消えやしない」
死ぬまでな――そう付け足して、ニヤッと笑った。
笑えない話だと、要はそっぽを向いた。
父親がこれほどの喫煙家だというのに、要は吸わない。
吸わないというより、吸えないのだ。体に悪いからとか、そういう事ではなく。
ただ、吸えないのだ。
「この薬は高く売れる」
そう言って灰皿に灰を落とす麻生を見て、要は言った。
「海外に売りさばくつもりか?」
「欲しがる国ならたくさん知ってる。喉から手が出るほど、欲しがる国をな――どんな大金を積んでも惜しくはないだろうさ」
「薬の効果が本当ならね」
要はそう呟き思わず身震いした。
もし本当なら、スゴイどころじゃ済まない。そんな薬、もし手に入れたら……
「兵器として売るつもりじゃないだろうな?」
要の台詞に麻生は顔をしかめた。
「迂闊な事を口にしてくれるな。そんな名目で取引などするわけがない。ただ、『こういうモノがある』と提示して、あとは向こうが判断するだけだ。どう利用するかは手にした者次第だな」
「そんな無責任な……」
要は吐き捨てるように言った。
そんなもの――兵器以外の何に利用するというのだ。
独裁者の手に渡ってみろ。
この世は終わりだ。
「お前の言いたいことは分かる。犯罪行為だと言いたいんだろう」
「武器商人と一緒だ」
「だがこれもビジネスだ。キレイごとばかりは言ってられない。お前は知らないだけで、犯罪スレスレの行為など――何度やったか知れないよ」
「……」
「だがそうでもしなければ、この世界で生き残ることはできない」
お前もいずれ分かる――
そう言われて要は、(分かるもんか!)と舌打ちした。
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