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第4章・見えない糸
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朝の渋滞は、僅かな時間のズレひとつで回避できる。
問題は、そのタイミングなのだが、いつも通り慣れた道を走る者には十分予測可能なことだった。
だからそれなりの時間を見計らって家を出たというのに……この日は、ものの見事にハマってしまった。
「クソっ!」
要はハンドルを叩いた。
どこかで事故でもあったのか、全く予想外の出来事に苛立った。
車線規制が渋滞に更なる拍車をかける。この分じゃ今日も遅刻だ。
でもこれは俺のせいじゃない。事故が悪いんだ。渋滞のせいだ。
要は欠伸をかみ殺して、気晴らしにラジオでもつけようと手を伸ばした。
その時。
携帯電話に着信有の警告音がして、要はハンズフリーの操作ボタンを押した。
(まさかオヤジじゃないだろうな……)
昨日の出来事は、結局なにも報告せずにいた。
まだ確実に本人だと断定できたわけじゃないし、シッカリした確証を掴んでからの報告でもいいだろうと判断したのだ。
(今更遅刻を咎める電話など、わざわざ寄越しては来ないだろうし……一体誰だ?)
要は、通話を繋いだ状態でも黙っている相手に対して、「もしもし?」と問いかけた。
『……』
微かな雑音が入る。
携帯電話からじゃない。公衆電話だろうか?
「もしもし?どなた?」
『……』
黙ってはいるが、自分の問いかけには反応している気がした。
「……」
要はハンドルを握りしめ、じわじわと動く周りの車に速度に合わせながら、ふと気づいたように小さく笑った。
「もしかして――唯人君?」
『――』
電話の向こうで、微かに息をつくのが分かった。
躊躇いながらも、小さな声で『はい』というのが聞こえた。
要は内心大きくガッツポーズをすると、笑顔を浮かべながら言った。
「電話くれたんだね。ありがとう」
『あの……』
唯人はまだ警戒していた。
相手が誰で、何が目的か分からない。こんな風に連絡をするのは、やはり間違っていたのではないかと思えてきて、途端に尻込みする。
そんな相手の様子を察して、要は言った。
「待って!切らないで。せっかくこうして電話をくれたんだ。もっと君と話がしたい」
『……』
「今、どこにいるの?あのホテル?ホテルから掛けてるの?」
『……』
「君と、どうしても一度会って話がしたいんだ。大丈夫。俺は警察の人間じゃないよ」
それでも黙っている唯人に、要は言った。
「今、信じてもらうのは難しいかもしれないけど、俺は君を傷つけたりしない。それだけは約束する」
『……』
「むしろ俺は君を助けたいんだ。君たちを」
敢えて君たちと言い直したのは、唯人にとって江戸川も大事な家族の一員だと感じたからだった。
自分だけでなく、江戸川の身も案じていると分かれば、少しは警戒を解いてくれるかもしれない――そう思ったのだが。
前方の車がノロノロと動く。それに合わせて要はアクセルを踏みながら、根気よく相手の反応を待った。
『あの……僕――会ってもいいです』
「え?本当!?」
『ただ、僕はこのホテルから外に出られません。会うなら、ホテルの中で――それでもいいですか?』
イイもクソもあるか!
要は「もちろん!」と即答した。
何故か知らずに胸が躍る。
「じゃあ、今から向かいます。なるべく急ぎますから、1階のロビーで待っていてください。必ず行きますから」
要はそれだけ言うと通話を切った。
と同時に「よし!!」とガッツポーズをする。
まさかこんなに早く連絡を寄越すとは思っていなかった。メモを渡しても無視される可能性があったし、第一、あの男に知られたらそのまま雲隠れされることだってあり得たはずだ。
(あの子、江戸川には知らせなかったな……)
内緒で自分と会うつもりなのだ。
ということは、今、あの男は留守に違いない。
(こりゃ急がなきゃ!)
要は渋滞から脇道に逸れてUターンすると、会社とは逆方向に向かってアクセルを踏み込んだ。
問題は、そのタイミングなのだが、いつも通り慣れた道を走る者には十分予測可能なことだった。
だからそれなりの時間を見計らって家を出たというのに……この日は、ものの見事にハマってしまった。
「クソっ!」
要はハンドルを叩いた。
どこかで事故でもあったのか、全く予想外の出来事に苛立った。
車線規制が渋滞に更なる拍車をかける。この分じゃ今日も遅刻だ。
でもこれは俺のせいじゃない。事故が悪いんだ。渋滞のせいだ。
要は欠伸をかみ殺して、気晴らしにラジオでもつけようと手を伸ばした。
その時。
携帯電話に着信有の警告音がして、要はハンズフリーの操作ボタンを押した。
(まさかオヤジじゃないだろうな……)
昨日の出来事は、結局なにも報告せずにいた。
まだ確実に本人だと断定できたわけじゃないし、シッカリした確証を掴んでからの報告でもいいだろうと判断したのだ。
(今更遅刻を咎める電話など、わざわざ寄越しては来ないだろうし……一体誰だ?)
要は、通話を繋いだ状態でも黙っている相手に対して、「もしもし?」と問いかけた。
『……』
微かな雑音が入る。
携帯電話からじゃない。公衆電話だろうか?
「もしもし?どなた?」
『……』
黙ってはいるが、自分の問いかけには反応している気がした。
「……」
要はハンドルを握りしめ、じわじわと動く周りの車に速度に合わせながら、ふと気づいたように小さく笑った。
「もしかして――唯人君?」
『――』
電話の向こうで、微かに息をつくのが分かった。
躊躇いながらも、小さな声で『はい』というのが聞こえた。
要は内心大きくガッツポーズをすると、笑顔を浮かべながら言った。
「電話くれたんだね。ありがとう」
『あの……』
唯人はまだ警戒していた。
相手が誰で、何が目的か分からない。こんな風に連絡をするのは、やはり間違っていたのではないかと思えてきて、途端に尻込みする。
そんな相手の様子を察して、要は言った。
「待って!切らないで。せっかくこうして電話をくれたんだ。もっと君と話がしたい」
『……』
「今、どこにいるの?あのホテル?ホテルから掛けてるの?」
『……』
「君と、どうしても一度会って話がしたいんだ。大丈夫。俺は警察の人間じゃないよ」
それでも黙っている唯人に、要は言った。
「今、信じてもらうのは難しいかもしれないけど、俺は君を傷つけたりしない。それだけは約束する」
『……』
「むしろ俺は君を助けたいんだ。君たちを」
敢えて君たちと言い直したのは、唯人にとって江戸川も大事な家族の一員だと感じたからだった。
自分だけでなく、江戸川の身も案じていると分かれば、少しは警戒を解いてくれるかもしれない――そう思ったのだが。
前方の車がノロノロと動く。それに合わせて要はアクセルを踏みながら、根気よく相手の反応を待った。
『あの……僕――会ってもいいです』
「え?本当!?」
『ただ、僕はこのホテルから外に出られません。会うなら、ホテルの中で――それでもいいですか?』
イイもクソもあるか!
要は「もちろん!」と即答した。
何故か知らずに胸が躍る。
「じゃあ、今から向かいます。なるべく急ぎますから、1階のロビーで待っていてください。必ず行きますから」
要はそれだけ言うと通話を切った。
と同時に「よし!!」とガッツポーズをする。
まさかこんなに早く連絡を寄越すとは思っていなかった。メモを渡しても無視される可能性があったし、第一、あの男に知られたらそのまま雲隠れされることだってあり得たはずだ。
(あの子、江戸川には知らせなかったな……)
内緒で自分と会うつもりなのだ。
ということは、今、あの男は留守に違いない。
(こりゃ急がなきゃ!)
要は渋滞から脇道に逸れてUターンすると、会社とは逆方向に向かってアクセルを踏み込んだ。
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