薔薇を抱いて眠れ

sorarion914

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第6章・動き出す駒

#3

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 珍しく自宅に戻っている父親の書斎に呼ばれ、要は憮然としていた。

「何か分かったら逐一報告を入れるのは当然の責務だぞ、要」

 目の前に自分を立たせ、悪戯をした子供を叱りつける様なその言い方は、今も昔もちっとも変っていない――と、要は思った。
 息子が二十歳を過ぎようと中年になろうと、この扱いは恐らく一生変わらないだろう。
 そう思うとたまらなくなって、要は固めた拳に力を入れた。

 少しは大人になれと言いつつも、扱いはいつも子供これだ。

 目の前で悠然と煙草をふかしながら、「お前はタバコ一本満足に吸えない子供だ」と言いたげに自分を見上げている。

(どこまでも子供扱いしやがって……)

 男のくせに、女1人満足に扱えないのかと罵倒し、そういう自分は別宅に愛人を連れ込んで好き勝手に遊んでいる――

 俺にそんなロクでもない大人になれっていうのか?――と。
 よっぽど問い詰めてやりたかった。

 要は肩で大きく息をついた。
 麻生はそんな要を黙って見上げると、眉間に深い皺を寄せて言った。

「上野のホテルにいることを、なぜ報告しなかった?」
「……しばらく、様子を見るつもりでした」
「様子を見る?それはお前の勝手な判断だ。もし逃げられたらどうするつもりだった?」
「俺以外にも人を使っているなら、結果は同じでしょう。俺より優秀なそいつらが見つけてくれる」

 現に、2人の居場所を父に教えたのは、別行動で動いていた部下の男達だった。

「居場所を突き止めたなら、まずはその段階で報告を入れろ!」
「けど説得しろと言ったろう?」
「居場所を知らせるのが先だ。説得を任せるとは言ったが、自分勝手に行動しろとは言ってない」

 これには要もムッとした。

「俺だって考えなしに行動したわけじゃない。最初に説得しろと言われたから、様子を見ながら接触を試みた。あなたとしては、頭ごなしに言い聞かせて無理やりにでも引っ張っていきたいんでしょうけど、そんなのはかえって逆効果だ」

 俺がそのいい例だろう?というように要は父親を睨みつけた。

「あの少年だけなら何とかなるかもしれないけど、一緒にいる男は一筋縄ではいきませんよ。口で言って分かってくれるような人じゃなさそうだし、かといって力ずくでどうにか出来る相手でもない」
「分かっている。だが報告は重要だ」
「……そうですね――報告しなかったことは謝ります。でも他に人を使っているなら、なんでわざわざ俺みたいなのを使うんですか?」
「お前に試練を与えるためだ」

 それを聞いて要はうんざりした。

(もうよしてくれ……)


 麻生は部屋の外で待機していた秘書を呼ぶと、「大至急車を回してくれ。本社へ行く」と言って、椅子から立ち上がった。
「これから本社?」
「私に休日はない」

 麻生は言いながら身支度を始めた。

「俺の試練は終わりですか?」

 いそいそと部屋を出て行く父を見て、要はそう言った。

「こんな結果で終わる試練なら大したことはないな」

 そう言いながら玄関へ向かい、憮然とした顔でついてくる息子に向かって言った。

「あの2人を引き続き見張っていろ。ただし――勝手な判断で動くな。当面、見張ってるだけでい。簡単なものだろう?」
「……」
「いってらっしゃいませ」

 お手伝いの登美子さんからコートを受け取ると、麻生は要に向かって言った。

「第二の試練だ。『見張っていろ。ただし報告は怠るな!』」
「――」

 主を見送り、登美子さんは気まずそうな顔をしながら要に軽く頭を下げると、逃げるように台所の方へ走っていった。
 要はしばらくその場に佇んでいた。
 あまりの怒りに言葉もなかった。

(なにが第二の試練だ!何が『報告は怠るな!』だ!!)

「バカにしやがって――」

 イライラした様に呟くと、背後から急に
「またお父さんと喧嘩したの?」
 という声が飛んできて、要はハッと振り向いた。

 母の珠季たまきが、いつの間にか自分の背後に佇んでいた。
 父が仕事に出る時も、決して見送りには出てこない。
 昔はそうじゃなかったが、いつの頃からかそうなった。

 ひとつ屋根の下にいて、夫婦が顔を合わせることは滅多にない。
 夫が他所に別宅を持ち、そこで愛人と過ごしていても特段責めもせずに涼しい顔をしている。
 夫婦仲はすでに終わっているようだが、でもビジネスの時は仲睦まじい夫婦を演じている。
 父も父だが、この母も母だ――と、要は半ば呆れていた。

「大きな声で怒鳴っていたわね」
「別に喧嘩じゃないよ。喧嘩になんてならないさ。てんで相手にされてない」
「でも怖い顔してたわ」

 そう言って自分の顔を指差され、要はきまり悪そうに苦笑した。

「あなたもどこかへ出掛けるの?」
「えぇ、たぶん」

 それを聞くと珠季は「たまにはゆっくりしたら?お父さんみたいになっちゃうわよ」と冗談を言った。
 その言葉に要は笑うと、「俺ははならないよ――絶対にね」と言って、二階の自室に駆け上がった。
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