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第7章・困惑
#1
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ホテルを変えてしばらくの間、特別な動きはなかった。
警察の動きも不思議と落ち着いている。
あれは、事故であると断定されたようだった。
新聞やネットなどのメディアからも、いつしかその話題は姿を消し、代わりにアイドルとスポーツ選手が不倫関係にある等と、どうでもいい話題で盛り上がっていた。
世界は目まぐるしく動いている。
巷にあふれるニュースは真実と虚構が入り乱れ、その中から正しい情報だけを抜き取るのはかなり難しいだろう。
時の流れに気持ちよく流されている間は気づかない日々の矛盾は、一度立ち止まることで見えてくるが、一度真実を知った後に再びその流れに身を投じるのは、勇気がいる。
時間の流れは激しい。
力のない者ならすぐに溺れてしまうだろう――
江戸川はそう思いながら、新聞を盾にロビー全体を素早く見回した。
向かい側の通路際の椅子に、男が1人座っていた。
40代くらいの、紺色の地味なスーツを着て、眼鏡をかけている。一見ごく普通の会社員に見えるが、その姿は一昨日も見た。
同じような姿。同じような雰囲気で周囲に溶け込み、雑誌を読んでいる。
江戸川は視線を別の方へ向けた。
少し離れた所に、もう1人別の男がいる。
こちらは少し若い感じで、スマホに目を落とし何かやっていた。
あの日、要が言っていた衛星というのは、あの2人のことだろうか……
江戸川は新聞を読むふりをしながら、2人の男を交互に見比べた。
表に止まっていたグレーのレクサス。
ホテルを移動する道中、背後からずっと付けていたのは知っていた。
要の言っていたことは本当だったのだ。
あの2人が麻生の衛星かは分からないが、互いの雰囲気からは似て非なるものを感じる。
もしや、一方はサキヤの衛星か――?
表面上は穏やかだが、水面下では着実に何かが動き出しているのを感じで、江戸川は静かに席を立つとエレベーターの方へ歩き出した。
若い方が、その瞬間チラリと視線を投げてきた。
しかし、もう1人は素知らぬ顔をしている。
(だが間違いなく、アイツも衛星の1人だ――)
江戸川は上昇するエレベーターの中で、もし両者が一斉に動き出した場合、警戒すべきなのは、まずあの眼鏡の男の方だということを頭の隅に置いた。
そして、どちらか一方が動けば必ずもう一方も動き出す――という事も頭の中に叩き込む。
追い込まれて、身動きが取れなくなる前に、自分達も動き出さなければならないことをぼんやりと考えながら、江戸川は部屋に入った。
唯人はまだベッドの中にいた。
ゆっくりと上下する布団の動きに、江戸川はしばらく目をやったまま、その場に突っ立っていた。
時刻はもう9時を回っている。
そろそろ起こそうか……そんなことを思いながら、無防備な寝姿の唯人を黙って見下ろしていた。
ここは安全な場所だと認識しているからこそ、そうしていられるのだ。
もしここに、自分の命を狙うものがいると知ったら、とても寝てなどいられまい。
江戸川は枕元に座り、その細い首筋にそっと手をかけた。
こんなに長い道のりになるとは、誰が想像しただろうか――
(お前は一体なにをしている?)
(チャンスなら、今までに数えきれないほどあったというのに)
(なぜこの子はまだ生きて、ここにいるんだ?)
指先に僅かな力が入り、その気配で唯人が寝返りを打った。
江戸川は、離れた指先を見つめ小さく笑った。
(まだだ……)
そう。まだ、だ――
残り2つの駒を動かすまで、まだこの駒を倒すわけにはいかない。
今はまだ、倒すわけにはいかない――――
警察の動きも不思議と落ち着いている。
あれは、事故であると断定されたようだった。
新聞やネットなどのメディアからも、いつしかその話題は姿を消し、代わりにアイドルとスポーツ選手が不倫関係にある等と、どうでもいい話題で盛り上がっていた。
世界は目まぐるしく動いている。
巷にあふれるニュースは真実と虚構が入り乱れ、その中から正しい情報だけを抜き取るのはかなり難しいだろう。
時の流れに気持ちよく流されている間は気づかない日々の矛盾は、一度立ち止まることで見えてくるが、一度真実を知った後に再びその流れに身を投じるのは、勇気がいる。
時間の流れは激しい。
力のない者ならすぐに溺れてしまうだろう――
江戸川はそう思いながら、新聞を盾にロビー全体を素早く見回した。
向かい側の通路際の椅子に、男が1人座っていた。
40代くらいの、紺色の地味なスーツを着て、眼鏡をかけている。一見ごく普通の会社員に見えるが、その姿は一昨日も見た。
同じような姿。同じような雰囲気で周囲に溶け込み、雑誌を読んでいる。
江戸川は視線を別の方へ向けた。
少し離れた所に、もう1人別の男がいる。
こちらは少し若い感じで、スマホに目を落とし何かやっていた。
あの日、要が言っていた衛星というのは、あの2人のことだろうか……
江戸川は新聞を読むふりをしながら、2人の男を交互に見比べた。
表に止まっていたグレーのレクサス。
ホテルを移動する道中、背後からずっと付けていたのは知っていた。
要の言っていたことは本当だったのだ。
あの2人が麻生の衛星かは分からないが、互いの雰囲気からは似て非なるものを感じる。
もしや、一方はサキヤの衛星か――?
表面上は穏やかだが、水面下では着実に何かが動き出しているのを感じで、江戸川は静かに席を立つとエレベーターの方へ歩き出した。
若い方が、その瞬間チラリと視線を投げてきた。
しかし、もう1人は素知らぬ顔をしている。
(だが間違いなく、アイツも衛星の1人だ――)
江戸川は上昇するエレベーターの中で、もし両者が一斉に動き出した場合、警戒すべきなのは、まずあの眼鏡の男の方だということを頭の隅に置いた。
そして、どちらか一方が動けば必ずもう一方も動き出す――という事も頭の中に叩き込む。
追い込まれて、身動きが取れなくなる前に、自分達も動き出さなければならないことをぼんやりと考えながら、江戸川は部屋に入った。
唯人はまだベッドの中にいた。
ゆっくりと上下する布団の動きに、江戸川はしばらく目をやったまま、その場に突っ立っていた。
時刻はもう9時を回っている。
そろそろ起こそうか……そんなことを思いながら、無防備な寝姿の唯人を黙って見下ろしていた。
ここは安全な場所だと認識しているからこそ、そうしていられるのだ。
もしここに、自分の命を狙うものがいると知ったら、とても寝てなどいられまい。
江戸川は枕元に座り、その細い首筋にそっと手をかけた。
こんなに長い道のりになるとは、誰が想像しただろうか――
(お前は一体なにをしている?)
(チャンスなら、今までに数えきれないほどあったというのに)
(なぜこの子はまだ生きて、ここにいるんだ?)
指先に僅かな力が入り、その気配で唯人が寝返りを打った。
江戸川は、離れた指先を見つめ小さく笑った。
(まだだ……)
そう。まだ、だ――
残り2つの駒を動かすまで、まだこの駒を倒すわけにはいかない。
今はまだ、倒すわけにはいかない――――
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