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第9章・深夜の追撃
#2
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何かおかしい――
先程からずっと、そう感じていた。
何かがおかしい。何か変だ。
江戸川は、微かな胸騒ぎを感じて窓辺に寄った。手元の小さな双眼鏡を目に当てて、真夜中過ぎの表通りを見下ろした。
車の流れはある程度途絶え、街明かりもネオンサイン以外は消えている。
都心部と違い、この辺りは寝静まるのが早い。
そんなこともあるから、人の、ほんの些細な動きでも目に付く。
江戸川は窓を離れた。
特別変わった動きは見られなかったが、でもなにか変だと感じる。
例のレクサスは以前と同じ、通りの向かい側に停車しているし、要が乗る黒いBMWも止まっている。だが――
マツダとクラウンの姿が見えない。
今朝まで停車していた場所にいない。場所を変えたか、それとも……
(動き出したか?)
江戸川は鞄に荷物を詰め込むと、フロントに電話をし、すぐに料金が精算できるように準備をしておくよう告げた。
そして寝ている唯人を叩き起こす。
「唯人さん、起きて下さい。ホテルを出ます」
「……え?」
半分寝ぼけている唯人の手を引いて、江戸川は部屋を出た。
「エレベーターはあっちだよ」という唯人の言葉を無視して、江戸川は階段を使い一気に駆け下りる。途中、躓きそうになった唯人を抱え上げ、ロビーに出て素早く料金を精算した。
「急いで」
「どうしたの?」
さすがの唯人も、ただならぬ様子に目が覚めた。
唯人達がホテルを出るのと入れ違いに、2人の男がさり気なく中に入ってきた。
眼鏡の男がフロントに近づき、何かを聞いている。
が、江戸川たちが立ち去る気配を感じたもう1人が、慌てて眼鏡の男を呼び戻した。
「チッ!」と舌打ちしてホテルを飛び出す。
その時――
ホテルの駐車場からものすごい勢いで1台の車が飛び出してきた。
それを見て、要はハッとした。
白のマークX。
江戸川の車だ。
続いてホテルから飛び出してきた男たちが何か合図を送ると、すぐさま走り寄ってきた2台の車に乗り込んで、その後を追い始める。
マツダとクラウン。
(サキヤが動いた――)
要は、レクサスに目をやった。エンジンをかけて動き出すのが分かった。
無灯火のまま、2台の後を追う。
それを見て要もエンジンをかけた。
ついに動きだした。
先に動いたのはサキヤの方だったか……監視はやめて、実力行使に出たのだろうか?
要は勢いよくアクセルを踏み込んだ。
前を行くレクサスとの距離はおよそ20メートルといったところか。
更にその先を行く江戸川とサキヤの連中は、どこへ向かおうとしているのだろう?
要は速度を上げながら逡巡した。
前を行く車との距離が徐々に縮まる。
乗っているのは岩田と平野という2人の男だ。顔は知っているが、話をしたことはない。
父のスパイ衛星。
義理もなければ恩もない。
要は後ろからパッシングした。
「邪魔だ、どけ!」というように後ろから煽る。それに対して、向こうも「お前こそついてくるな!」というように激しくケツを振ってきた。
「あぁそうかい!」
要は苦笑すると、車線を変えて速度を増し、レクサスの横に並んだ。
ウィンドウが下がり、「どういうつもりだ!!」と叫んでくる。
だが、要は聞こえないふりをして素早く抜き去った。
前に回り込み、今度はさらに前を行く車との距離を測る。
彼らは、かなり先を走っている。
いくら空いているとはいえ、一般道でこれ以上スピードは出せない。
(追いつけない、このままじゃ……)
そう思い、要はふと、江戸川ならどういうルートを選ぶだろうか――と考えた。
狭い路地には入らないだろう。都内は一方通行が多い。
下手したら回り込まれてしまう。
追っ手との距離を作るまでは、大通りからは逸れないはずだ。
今は国際通りを言問通りへと進んでいる。
奴はこの先、どこへ向かっていくだろう?直進して462号線を行くだろうか?
それとも右折して上野方面へ行くか。
それとも橋を渡って向島方面に逃げるか――
要は速度を上げた。
少し熱があるせいか、体がだるい。でも意識は恐ろしいくらい冴えわたっていた。
言問通りに出た後、要はそのまま直進して462号線を走り、左折して雷門通りに入った。そして馬道通りにぶつかると左折して再び言問通りを目指す。
時間との勝負だった。
要は祈る様な気持ちで言問通りに出た。
そのまま通りを横切り、馬道通りを直進する。
すると前方から、走ってくるマークXのヘッドライトが見えた。
(よし!)
要は覚悟を決めると、いきなり対向車線に向けてハンドルを切った。
正面から逆走してくる要のBMWに、江戸川は一瞬怯んだが、速度を落とさずにその脇を走り抜けた。
要はそれを黙って見送った。
が、その後すぐにブレーキを踏みハンドルを回すと、追ってきた2台の車の行く手を遮るように車体で道を塞いだ。
キュ――――ッ!!というスキール音がした。
ブレーキと急激な方向転換に車体が軋む。
要は歯を食いしばった。
先頭を走っていたクラウンが、慌ててブレーキを踏んだ。しかし、間に合わないと判断したのか咄嗟にハンドルを切った。
正面からガードレールに突っ込み、後ろを走っていたマツダも止まれずそのケツに突っ込む。
激しい衝撃音とクラクションの歪んだ音がして、要はハッと我に返った。
破損した車両から鳴り響く警報に、助けを呼ぼうかと一瞬迷ったが――すぐさま体制を整えると、更にその向こうから迫ってくるレクサスに目をやった。
(あと1台……)
自分は一体なにをしているんだ――と、要は苦笑した。
だがもう後には引けなかった。
先程からずっと、そう感じていた。
何かがおかしい。何か変だ。
江戸川は、微かな胸騒ぎを感じて窓辺に寄った。手元の小さな双眼鏡を目に当てて、真夜中過ぎの表通りを見下ろした。
車の流れはある程度途絶え、街明かりもネオンサイン以外は消えている。
都心部と違い、この辺りは寝静まるのが早い。
そんなこともあるから、人の、ほんの些細な動きでも目に付く。
江戸川は窓を離れた。
特別変わった動きは見られなかったが、でもなにか変だと感じる。
例のレクサスは以前と同じ、通りの向かい側に停車しているし、要が乗る黒いBMWも止まっている。だが――
マツダとクラウンの姿が見えない。
今朝まで停車していた場所にいない。場所を変えたか、それとも……
(動き出したか?)
江戸川は鞄に荷物を詰め込むと、フロントに電話をし、すぐに料金が精算できるように準備をしておくよう告げた。
そして寝ている唯人を叩き起こす。
「唯人さん、起きて下さい。ホテルを出ます」
「……え?」
半分寝ぼけている唯人の手を引いて、江戸川は部屋を出た。
「エレベーターはあっちだよ」という唯人の言葉を無視して、江戸川は階段を使い一気に駆け下りる。途中、躓きそうになった唯人を抱え上げ、ロビーに出て素早く料金を精算した。
「急いで」
「どうしたの?」
さすがの唯人も、ただならぬ様子に目が覚めた。
唯人達がホテルを出るのと入れ違いに、2人の男がさり気なく中に入ってきた。
眼鏡の男がフロントに近づき、何かを聞いている。
が、江戸川たちが立ち去る気配を感じたもう1人が、慌てて眼鏡の男を呼び戻した。
「チッ!」と舌打ちしてホテルを飛び出す。
その時――
ホテルの駐車場からものすごい勢いで1台の車が飛び出してきた。
それを見て、要はハッとした。
白のマークX。
江戸川の車だ。
続いてホテルから飛び出してきた男たちが何か合図を送ると、すぐさま走り寄ってきた2台の車に乗り込んで、その後を追い始める。
マツダとクラウン。
(サキヤが動いた――)
要は、レクサスに目をやった。エンジンをかけて動き出すのが分かった。
無灯火のまま、2台の後を追う。
それを見て要もエンジンをかけた。
ついに動きだした。
先に動いたのはサキヤの方だったか……監視はやめて、実力行使に出たのだろうか?
要は勢いよくアクセルを踏み込んだ。
前を行くレクサスとの距離はおよそ20メートルといったところか。
更にその先を行く江戸川とサキヤの連中は、どこへ向かおうとしているのだろう?
要は速度を上げながら逡巡した。
前を行く車との距離が徐々に縮まる。
乗っているのは岩田と平野という2人の男だ。顔は知っているが、話をしたことはない。
父のスパイ衛星。
義理もなければ恩もない。
要は後ろからパッシングした。
「邪魔だ、どけ!」というように後ろから煽る。それに対して、向こうも「お前こそついてくるな!」というように激しくケツを振ってきた。
「あぁそうかい!」
要は苦笑すると、車線を変えて速度を増し、レクサスの横に並んだ。
ウィンドウが下がり、「どういうつもりだ!!」と叫んでくる。
だが、要は聞こえないふりをして素早く抜き去った。
前に回り込み、今度はさらに前を行く車との距離を測る。
彼らは、かなり先を走っている。
いくら空いているとはいえ、一般道でこれ以上スピードは出せない。
(追いつけない、このままじゃ……)
そう思い、要はふと、江戸川ならどういうルートを選ぶだろうか――と考えた。
狭い路地には入らないだろう。都内は一方通行が多い。
下手したら回り込まれてしまう。
追っ手との距離を作るまでは、大通りからは逸れないはずだ。
今は国際通りを言問通りへと進んでいる。
奴はこの先、どこへ向かっていくだろう?直進して462号線を行くだろうか?
それとも右折して上野方面へ行くか。
それとも橋を渡って向島方面に逃げるか――
要は速度を上げた。
少し熱があるせいか、体がだるい。でも意識は恐ろしいくらい冴えわたっていた。
言問通りに出た後、要はそのまま直進して462号線を走り、左折して雷門通りに入った。そして馬道通りにぶつかると左折して再び言問通りを目指す。
時間との勝負だった。
要は祈る様な気持ちで言問通りに出た。
そのまま通りを横切り、馬道通りを直進する。
すると前方から、走ってくるマークXのヘッドライトが見えた。
(よし!)
要は覚悟を決めると、いきなり対向車線に向けてハンドルを切った。
正面から逆走してくる要のBMWに、江戸川は一瞬怯んだが、速度を落とさずにその脇を走り抜けた。
要はそれを黙って見送った。
が、その後すぐにブレーキを踏みハンドルを回すと、追ってきた2台の車の行く手を遮るように車体で道を塞いだ。
キュ――――ッ!!というスキール音がした。
ブレーキと急激な方向転換に車体が軋む。
要は歯を食いしばった。
先頭を走っていたクラウンが、慌ててブレーキを踏んだ。しかし、間に合わないと判断したのか咄嗟にハンドルを切った。
正面からガードレールに突っ込み、後ろを走っていたマツダも止まれずそのケツに突っ込む。
激しい衝撃音とクラクションの歪んだ音がして、要はハッと我に返った。
破損した車両から鳴り響く警報に、助けを呼ぼうかと一瞬迷ったが――すぐさま体制を整えると、更にその向こうから迫ってくるレクサスに目をやった。
(あと1台……)
自分は一体なにをしているんだ――と、要は苦笑した。
だがもう後には引けなかった。
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