薔薇を抱いて眠れ

sorarion914

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第9章・深夜の追撃

#3

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 前方の異変に気付いたレクサスは、速度を上げて要の車を追った。
 そして、前を行くBMWに強引に横付けすると、窓越しに声を掛けてきた。

「アレはあなたがやったのか?!」
「……」

 要は答えなかった。
 声を掛けてきたのが岩田か平野か知らないが、もうそんなことはどうでもよかった。

(だからなんだ?言っとくが、俺はお前たちの味方でもないんだぜ)

 要は無言のまま、速度を落とさずレクサスの方へ身を寄せた。
 強引な幅寄せにレクサスは速度を落とす。それを見越して、要は一気に加速した。

 そしていきなり車体を斜めに傾けて、直進してくる車の行く手を遮った。

「――!!」

 慌ててハンドルを切り、ブレーキをかけた車体が左右にぶれた。
 レクサスは大きく右へ傾いて、中央分離帯に乗り上げる。
 要はそれを見届けて素早くギアを入れ替えると、アクセルを吹かして走り去った。

 背後で何か喚いているだろうが、そんなことはもう知るものか!
 親父がカンカンになって怒るだろうが、そんなのも知ったこっちゃない!



「ザマァみろ!!」



 要は、バックミラーに映る間抜けな連中を見て笑った。
 今ので熱が一気に上がっただろう。
 でも気分は最高だった。

 今、あの子を渡すわけにはいかない。
 麻生にもサキヤにも。

 要は、まるで心地よい夢でも見ているような気分で、夜の街道をひた走った。


 江戸川の車はどこだ……
 彼らはどこへ行った――






 隅田川を渡り、押上方面に向かう途中の路肩に停車していたマークXを見つけて、要は近づいた。
 少し距離を開けて車を止めると、待っていたように運転席のドアが開いて江戸川が姿を見せた。
 要も降りると、静かに江戸川と対峙した。
 冷たい夜風に身震いが出た。少しフラフラとする。
 江戸川がこっちへ近づいてくるのを見て、要は言った。

「もうとっくに逃げたかと思ってました。わざわざ待っててくれたんですか?」
「君も随分と無茶なことをするな」

 あんなことをして――と、江戸川が笑うのを見て、要も笑った。

「まぁでも、そのお陰で助かった」
「そうですよ。お礼ぐらい言ってください」
「なぜあんなことを?サキヤはともかく、レクサスの2人は味方だったんじゃないのか?」
「俺は誰の味方でもありませんよ……まぁ強いて言うなら、唯人君の味方かな」
 要は冗談めかしてそう言い、額に手を当てて息をついた。

「これからどうするんですか?」

 要の問いに江戸川は少し間を置くと、「ひとまず、今夜は車で寝ますよ」と言った。

「そうですね。一晩ぐらいなら車中泊も悪くない」
「君はどうする?あんな事をしでかしたら、うちには帰れないんじゃないか?」

 要は苦笑いを浮かべながら頷いた。
 向こうの助手席には唯人が乗っているようだが、出てくるなと言われているのか姿を見せることはなかった。

 要は、火照った体を夜風に晒しながら天を仰いだ。
 その様子を見つめたまま、江戸川が言った。

「近いうち君とゆっくり話がしたい」
「奇遇ですね……実は俺も、あなたと2人で話がしたいんですよ」
「こちらから連絡する。君の携帯、まだいるんだろう?」

 江戸川はそう言いながら、唯人から貰った名刺をコートのポケットから引き出して見せた。
 それを見て要は頷いた。

 江戸川は車に戻ると、エンジンをかけて静かに走り出した。
 そのテールランプを見送り、ホッと一息ついたら、ふいに全身の力が抜けて要はふらついた。
 慌てて車に寄り掛かり、体を支えながらその場に座り込む。



 世界が回っていた。


 恐ろしい勢いで回っていた。


 遠くから見ていたはずの嵐の中に、いつの間にか入り込み、巻き込まれている――
 今の自分はまるで、風に煽られる木の葉のようだ。
 揉みくちゃにされながら、為す術なく舞い上がり流されていく。


 この嵐に巻き込まれて、果たして自分は無傷でいられるだろうか――


 要は深いため息をつくと、両手で頭を抱えたまま、黙って目を閉じた。
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