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第9章・深夜の追撃
#4
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リビングの入り口に佇む要に気づいて、珠季がふと顔を上げた。
「要――あなた今までどこに行ってたの?」
「ごめん」
要はそれだけ言って部屋の中を見回した。
登美子さんは使いにでも出ているのか姿が見えない。
珠季はソファから立ち上がって息子に近づいた。
「会社も無断でお休みしてるのね。お父さん、カンカンよ。携帯にも出ないって」
「親父、夕べは帰ってきたんだ。何か言ってた?」
「連絡も寄越さず何してるんだって――一体どうしたの?」
「別に……」
それ以上は言葉にならず、要はソファに座り込んだ。
珠季も向かい合わせに腰を下ろした。テーブルの上には一昨日の新聞が広げてあった。
深夜に立て続けに起きた自動車事故を報じるものだったが、意外にも小さな扱いで、ひょっとしたら麻生かサキヤが背後で動いたのではないか――という有らぬ疑いが頭をもたげてくる。
要は思わず記事から目を逸らした。
珠季は何も言わず、ただじっと俯いているだけだった。
親子2人で向かい合い、今更改まって話をすることなど何もない。
逆に気まずいだけなので、いつもならさっさと自室に引っ込むところだが、この日は何故かそうしなかった。
珠季も動こうとはせず、何か言いたげな素振りを見せている。
そんな母の様子に、要は言った。
「何?何か言いたい事でもあるの?」
「……」
黙っている母に、要は尚も聞いた。
「親父、何か言ってた?俺の事クビにするって?」
「いいえ。そんな事言ってないわ」
「じゃあなに?」
そう言ってから、ふと気づいたように要は聞いた。
「もしかして、三島さんの事?」
「え?なぜ?」
珠季は驚いてみせたが、それは意外なことを聞かれたから――というよりも、何故分かったのか?という驚きに近かった。
「この間、三島さんが退職するって教えてくれた時、なんだかその原因が、自分にあるみたいに聞こえたから……」
「そんな風に言ったかしら?」
「俺にはそんな風に聞こえたけど」
珠季は放心したように虚空を見つめた。
自分で言った言葉は覚えていないようだが、何かしら思い当たることはあるのだろう。
暫く黙っていたが、やがてポツリと呟くように言った。
「そうね……言ったかもしれない。だって、三島さんがこんなことになったのも、元はと言えば私のせいだもの」
「母さんのせい?どうして?」
珠季は苦笑すると、「誤解しないでね」と前置きしてから言った。
「あなたが心配するような、そんな変な関係じゃないのよ。ただ、三島さんとは時々話をしていたの。単なる話し相手よ」
「――」
「会社の事とか、仕事の事とか――色々あるでしょう?相談事よ。だってお父さんに聞いても埒が明かないから。三島、本当に誠実で優しくて裏表がなくて……」
話をする母の顔を見ながら、要は黙っていた。
――この人はまだ、息子が中学生か高校生だと思っているのだろうか?
三島の話をしている時の母の顔は、まるで好きな人の話をする少女のようだった。
嬉々として目を輝かせながら、それでいて表情も穏やかで柔らかい。
物心ついてから、母が父の前でそんな顔をして話すのを見たことがなかった。
なのに今、そんな顔をして夫以外の男の話をする母に、要はどう言葉を返していいか分からなかった。
関係はないと言うが、感情は持っていたのだろう……
好意という感情を。
「要――あなた今までどこに行ってたの?」
「ごめん」
要はそれだけ言って部屋の中を見回した。
登美子さんは使いにでも出ているのか姿が見えない。
珠季はソファから立ち上がって息子に近づいた。
「会社も無断でお休みしてるのね。お父さん、カンカンよ。携帯にも出ないって」
「親父、夕べは帰ってきたんだ。何か言ってた?」
「連絡も寄越さず何してるんだって――一体どうしたの?」
「別に……」
それ以上は言葉にならず、要はソファに座り込んだ。
珠季も向かい合わせに腰を下ろした。テーブルの上には一昨日の新聞が広げてあった。
深夜に立て続けに起きた自動車事故を報じるものだったが、意外にも小さな扱いで、ひょっとしたら麻生かサキヤが背後で動いたのではないか――という有らぬ疑いが頭をもたげてくる。
要は思わず記事から目を逸らした。
珠季は何も言わず、ただじっと俯いているだけだった。
親子2人で向かい合い、今更改まって話をすることなど何もない。
逆に気まずいだけなので、いつもならさっさと自室に引っ込むところだが、この日は何故かそうしなかった。
珠季も動こうとはせず、何か言いたげな素振りを見せている。
そんな母の様子に、要は言った。
「何?何か言いたい事でもあるの?」
「……」
黙っている母に、要は尚も聞いた。
「親父、何か言ってた?俺の事クビにするって?」
「いいえ。そんな事言ってないわ」
「じゃあなに?」
そう言ってから、ふと気づいたように要は聞いた。
「もしかして、三島さんの事?」
「え?なぜ?」
珠季は驚いてみせたが、それは意外なことを聞かれたから――というよりも、何故分かったのか?という驚きに近かった。
「この間、三島さんが退職するって教えてくれた時、なんだかその原因が、自分にあるみたいに聞こえたから……」
「そんな風に言ったかしら?」
「俺にはそんな風に聞こえたけど」
珠季は放心したように虚空を見つめた。
自分で言った言葉は覚えていないようだが、何かしら思い当たることはあるのだろう。
暫く黙っていたが、やがてポツリと呟くように言った。
「そうね……言ったかもしれない。だって、三島さんがこんなことになったのも、元はと言えば私のせいだもの」
「母さんのせい?どうして?」
珠季は苦笑すると、「誤解しないでね」と前置きしてから言った。
「あなたが心配するような、そんな変な関係じゃないのよ。ただ、三島さんとは時々話をしていたの。単なる話し相手よ」
「――」
「会社の事とか、仕事の事とか――色々あるでしょう?相談事よ。だってお父さんに聞いても埒が明かないから。三島、本当に誠実で優しくて裏表がなくて……」
話をする母の顔を見ながら、要は黙っていた。
――この人はまだ、息子が中学生か高校生だと思っているのだろうか?
三島の話をしている時の母の顔は、まるで好きな人の話をする少女のようだった。
嬉々として目を輝かせながら、それでいて表情も穏やかで柔らかい。
物心ついてから、母が父の前でそんな顔をして話すのを見たことがなかった。
なのに今、そんな顔をして夫以外の男の話をする母に、要はどう言葉を返していいか分からなかった。
関係はないと言うが、感情は持っていたのだろう……
好意という感情を。
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