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第9章・深夜の追撃
#6
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携帯に電話があったのは、その夜遅くだった。
『明日の午後九時。石神井公園の氷川神社付近で待っている。車は使わず、タクシーで来て欲しい』
それだけ言うと、江戸川は一方的に通話を切った。こっちの了承も何もない。
要は呆れた様に笑ったが、それでも納得すると自室を出て階下へ降りた。
階段の下で、珠季が不安そうに佇んでいた。
「要……」
「心配しないで。先に寝てていいよ」
要はそれだけ言うと、ノックもせずにいきなり父の書斎に足を踏み入れた。
「要か……」
気配に気づいて麻生が顔を上げた。少しアルコールが入っているのか顔が赤い。
要は何も言わずに父の顔を凝視した。
「今までどこを放っつき歩いてた。連絡も入れずに」
「申し訳ありません」
素直に頭を下げる息子に、麻生は眉間を寄せてため息をつくと、「そんなことはこの際どうでもいい」と吐き捨てて、椅子の背に深く寄りかかると、ジッと要を睨みつけて言った。
「アレは何の真似だ?」
「アレって?」
「惚けるな。お前が関与していることは岩田から聞いてる。よりによって味方の邪魔をするとは、いったいどういうつもりだ?」
「邪魔なんてしていません。サキヤの連中を排除しただけです」
「嘘をつくな」
「嘘じゃありません。その過程で、たまたま邪魔をしたんなら謝ります。あの二人に怪我はありませんか?」
岩田と平野がどうなろうと別に知った事ではないが、一応聞いた。
麻生はフンッと鼻を鳴らすと、「社交辞令だけは一人前だな」と嫌味を言った。
「なぜあんなことをした?」
「それが最適だと思ったからです」
「最適?どこがだ?」
「あの子を誰の手にも渡さず、自由にしてあげることがです」
「自由?」
それを聞いて麻生が笑った。
「意味が分からん。どういうことだ?」
要は一瞬考えた。
人体実験の事実を話すわけにはいかない。麻生が欲しいのは、あの少年の中にある薬の製造法だけだ。
「父さん。あの子は何も知りません。薬の事も、麻生やサキヤが動いていることも」
「だからなんだ?」
「だからそっとしておいてあげて下さい。我々が近づけば、あの子は危険な目に遭うだけです。悪戯にあの子を振り回して、辛い目に遭わせるだけだ」
「うちが手を引いてもサキヤは手を引かん。それでもか?」
サキヤが探しているのは恐らく唯人じゃない。
あの子じゃなくて江戸川の方だ。
製造法も知りたいが、それ以上にサキヤが闇に葬りたいものは、薬を使った非合法な人体実験の事実だ。
それを知っている生き残りの存在を消すこと――それがサキヤの本当の目的だ。
今、残っているのは土方と唯人。そして、北岡誠一郎という実験体となった男の息子――
今は江戸川千景と名乗る、身元不詳の男。
彼らがあの夜狙ったのは、江戸川の方だったのだろう。
その事実を明かしたいが、実験の事は明かせない。
要はジレンマに陥った。
その様子が、必死に言い逃れの理由を探しているように見えたのだろう。
麻生は呆れた顔をして言った。
「要……個人的な感情に流されるな。それに勝手な判断で動くなと言ったはずだぞ。連絡は怠るなとも――
どうしてお前は言う事を聞けない?おまけにあんな派手な事故まで起こして。それでも最適な判断だったと言えるか?怪我人まで出たんだぞ!」
「その事については、やり過ぎだったと反省してます。必要とあれば警察にだって行きますよ。
でも、間違った判断だったとは思いません。あの子を逃がすことが出来て、俺は良かったと思ってる」
「良かっただと!?」
麻生は激高して机を叩いた。
赤い顔が、一層赤みを増す。
「お前は一体なにを考えているんだ!今までもそうだったが、いい加減その無責任な態度を少しは改めろ!もう学生じゃないんだぞ。上司の命令には背く、無断欠勤はする、言われたことにはきちんと対応できない――
挙句散々逃げ回り、そんなつまらん言い訳をしにノコノコ帰ってきたのか!?」
「だから態度を改めて、今こうして話をしているんじゃないですか!言い訳なんかしていない!」
「その態度が言い訳と同じだ!」
「じゃあどうすればいいんですか!?」
ドアの影で、聞き耳を立てていた珠季は胸を押さえた。
『明日の午後九時。石神井公園の氷川神社付近で待っている。車は使わず、タクシーで来て欲しい』
それだけ言うと、江戸川は一方的に通話を切った。こっちの了承も何もない。
要は呆れた様に笑ったが、それでも納得すると自室を出て階下へ降りた。
階段の下で、珠季が不安そうに佇んでいた。
「要……」
「心配しないで。先に寝てていいよ」
要はそれだけ言うと、ノックもせずにいきなり父の書斎に足を踏み入れた。
「要か……」
気配に気づいて麻生が顔を上げた。少しアルコールが入っているのか顔が赤い。
要は何も言わずに父の顔を凝視した。
「今までどこを放っつき歩いてた。連絡も入れずに」
「申し訳ありません」
素直に頭を下げる息子に、麻生は眉間を寄せてため息をつくと、「そんなことはこの際どうでもいい」と吐き捨てて、椅子の背に深く寄りかかると、ジッと要を睨みつけて言った。
「アレは何の真似だ?」
「アレって?」
「惚けるな。お前が関与していることは岩田から聞いてる。よりによって味方の邪魔をするとは、いったいどういうつもりだ?」
「邪魔なんてしていません。サキヤの連中を排除しただけです」
「嘘をつくな」
「嘘じゃありません。その過程で、たまたま邪魔をしたんなら謝ります。あの二人に怪我はありませんか?」
岩田と平野がどうなろうと別に知った事ではないが、一応聞いた。
麻生はフンッと鼻を鳴らすと、「社交辞令だけは一人前だな」と嫌味を言った。
「なぜあんなことをした?」
「それが最適だと思ったからです」
「最適?どこがだ?」
「あの子を誰の手にも渡さず、自由にしてあげることがです」
「自由?」
それを聞いて麻生が笑った。
「意味が分からん。どういうことだ?」
要は一瞬考えた。
人体実験の事実を話すわけにはいかない。麻生が欲しいのは、あの少年の中にある薬の製造法だけだ。
「父さん。あの子は何も知りません。薬の事も、麻生やサキヤが動いていることも」
「だからなんだ?」
「だからそっとしておいてあげて下さい。我々が近づけば、あの子は危険な目に遭うだけです。悪戯にあの子を振り回して、辛い目に遭わせるだけだ」
「うちが手を引いてもサキヤは手を引かん。それでもか?」
サキヤが探しているのは恐らく唯人じゃない。
あの子じゃなくて江戸川の方だ。
製造法も知りたいが、それ以上にサキヤが闇に葬りたいものは、薬を使った非合法な人体実験の事実だ。
それを知っている生き残りの存在を消すこと――それがサキヤの本当の目的だ。
今、残っているのは土方と唯人。そして、北岡誠一郎という実験体となった男の息子――
今は江戸川千景と名乗る、身元不詳の男。
彼らがあの夜狙ったのは、江戸川の方だったのだろう。
その事実を明かしたいが、実験の事は明かせない。
要はジレンマに陥った。
その様子が、必死に言い逃れの理由を探しているように見えたのだろう。
麻生は呆れた顔をして言った。
「要……個人的な感情に流されるな。それに勝手な判断で動くなと言ったはずだぞ。連絡は怠るなとも――
どうしてお前は言う事を聞けない?おまけにあんな派手な事故まで起こして。それでも最適な判断だったと言えるか?怪我人まで出たんだぞ!」
「その事については、やり過ぎだったと反省してます。必要とあれば警察にだって行きますよ。
でも、間違った判断だったとは思いません。あの子を逃がすことが出来て、俺は良かったと思ってる」
「良かっただと!?」
麻生は激高して机を叩いた。
赤い顔が、一層赤みを増す。
「お前は一体なにを考えているんだ!今までもそうだったが、いい加減その無責任な態度を少しは改めろ!もう学生じゃないんだぞ。上司の命令には背く、無断欠勤はする、言われたことにはきちんと対応できない――
挙句散々逃げ回り、そんなつまらん言い訳をしにノコノコ帰ってきたのか!?」
「だから態度を改めて、今こうして話をしているんじゃないですか!言い訳なんかしていない!」
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