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第11章・銃口の行方
#4
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手の中の拳銃を弄びながら、独り言のように語る江戸川に、要は言った。
「なぜ直接、咲屋昇一に手をかけなかったんですか?どうして娘にこんな」
「自分が作らせた薬で、最愛の娘が死んだと分かったら、さぞショックだろう?」
本人に直接痛みを与えるよりも、その方が復讐の効果は大きい――
「つまり、自分と同じ苦しみを与えようってことか……」
「……」
「清宮正人を殺した理由も同じですか?唯人君にも同じ苦しみを与えるためにそうしたんですか?宗源氏は?彼を殺したのも同じ理由ですか?」
「ええ、そうですよ」
冷たく言い放つ江戸川に、唯人は視線を向けた。
あの暗い双眸が自分に注がれる。
暗闇の穴が、じっと自分を見つめている――
「どんな気分です、唯人さん?家族を殺された気分は。当時の自分は16――今のあなたと同じだ」
「江戸川……」
――江戸川は、ふいに立ち上がると、要の元に寄って縛り上げていた手の拘束を外した。
「約束です。君はもう自由だ」
「なに?」
「要さん」
近寄ろうとする唯人を、しかし江戸川は素早く制して言った。
「ただし、自由にしていいのは彼だけだ。唯人さん。あなたとは、まだやらなきゃいけないことがあるんですよ」
「……」
唯人は江戸川を見つめた。
要は縛られていた手の痺れに顔をしかめたまま、江戸川の前に進み出た。
「ここまで知った俺を逃がそうっていうのか?」
「表に止めてある私の車を使っていい。その後どうしようと君の自由だ」
そう言って鍵を投げて寄越され、要は動揺した。
「江戸川さん……何をするつもりですか?まさか――」
「要さん」
唯人は要の腕を取ると、「行って下さい」と懇願した。
「僕の事は心配しないで。行って下さい」
「でも」
反発しようとした要に、江戸川は銃口を向けると、
「これ以上余計なことはしたくない。大人しく表に出ろ」
と低く唸った。
要は痛む足を引きずりながら、ゆっくり後退していく。
それでも、首を振りながら必死に訴えた。
「お願いです江戸川さん。馬鹿なことはしないで下さい。唯人君に罪がないことは、あなたが一番分かっているはずだ」
「いいから早く行け!」
「あなたと同じ苦しみを味わう理由が、彼にあるわけない。そうだろう?」
「同じだよ!この子も清宮の人間だ」
「じゃあなぜ10年も何もせずにいたんだ!?」
「……」
「やっと見つけたのに、すぐに行動を起こさなかったのはどうしてですか!?」
「――」
「あなたにとって、予想外だったからでしょう?そこに彼がいたことが――違いますか!?」
唯人を指差されて、江戸川は怯んだ。
「幼い子供がいたことを、あなたは知らなかった。唯人君を見て――あなたは躊躇ったんだ。そこに、死んだ自分の兄弟の姿が重なって見えたんじゃないですか?――だから何もしなかった。いや違う……しなかったんじゃない、できなかったんだ!」
「――ッ!」
江戸川は銃口を要の胸に押し付けると、倉庫の外へ押し出した。
要は体勢を崩してよろけると、締め出された倉庫の扉を素手で叩いた。
「お願いです!江戸川さん――いえ、北岡誠一郎さん!復讐する相手を間違えないで下さい。その子も被害者だ。あなたと同じ……被害者ですよ!」
江戸川は扉の前で俯くと、唇を噛みしめてきつく目を閉じた。
その背中を、唯人は黙って見つめていた。
銃を握りしめる江戸川の右手が、微かに震えているのが分かった。
「江戸川……」
その声に振り向いた江戸川の目は、どこまでも続く暗闇の様に、黒く深く沈んでいた。
「なぜ直接、咲屋昇一に手をかけなかったんですか?どうして娘にこんな」
「自分が作らせた薬で、最愛の娘が死んだと分かったら、さぞショックだろう?」
本人に直接痛みを与えるよりも、その方が復讐の効果は大きい――
「つまり、自分と同じ苦しみを与えようってことか……」
「……」
「清宮正人を殺した理由も同じですか?唯人君にも同じ苦しみを与えるためにそうしたんですか?宗源氏は?彼を殺したのも同じ理由ですか?」
「ええ、そうですよ」
冷たく言い放つ江戸川に、唯人は視線を向けた。
あの暗い双眸が自分に注がれる。
暗闇の穴が、じっと自分を見つめている――
「どんな気分です、唯人さん?家族を殺された気分は。当時の自分は16――今のあなたと同じだ」
「江戸川……」
――江戸川は、ふいに立ち上がると、要の元に寄って縛り上げていた手の拘束を外した。
「約束です。君はもう自由だ」
「なに?」
「要さん」
近寄ろうとする唯人を、しかし江戸川は素早く制して言った。
「ただし、自由にしていいのは彼だけだ。唯人さん。あなたとは、まだやらなきゃいけないことがあるんですよ」
「……」
唯人は江戸川を見つめた。
要は縛られていた手の痺れに顔をしかめたまま、江戸川の前に進み出た。
「ここまで知った俺を逃がそうっていうのか?」
「表に止めてある私の車を使っていい。その後どうしようと君の自由だ」
そう言って鍵を投げて寄越され、要は動揺した。
「江戸川さん……何をするつもりですか?まさか――」
「要さん」
唯人は要の腕を取ると、「行って下さい」と懇願した。
「僕の事は心配しないで。行って下さい」
「でも」
反発しようとした要に、江戸川は銃口を向けると、
「これ以上余計なことはしたくない。大人しく表に出ろ」
と低く唸った。
要は痛む足を引きずりながら、ゆっくり後退していく。
それでも、首を振りながら必死に訴えた。
「お願いです江戸川さん。馬鹿なことはしないで下さい。唯人君に罪がないことは、あなたが一番分かっているはずだ」
「いいから早く行け!」
「あなたと同じ苦しみを味わう理由が、彼にあるわけない。そうだろう?」
「同じだよ!この子も清宮の人間だ」
「じゃあなぜ10年も何もせずにいたんだ!?」
「……」
「やっと見つけたのに、すぐに行動を起こさなかったのはどうしてですか!?」
「――」
「あなたにとって、予想外だったからでしょう?そこに彼がいたことが――違いますか!?」
唯人を指差されて、江戸川は怯んだ。
「幼い子供がいたことを、あなたは知らなかった。唯人君を見て――あなたは躊躇ったんだ。そこに、死んだ自分の兄弟の姿が重なって見えたんじゃないですか?――だから何もしなかった。いや違う……しなかったんじゃない、できなかったんだ!」
「――ッ!」
江戸川は銃口を要の胸に押し付けると、倉庫の外へ押し出した。
要は体勢を崩してよろけると、締め出された倉庫の扉を素手で叩いた。
「お願いです!江戸川さん――いえ、北岡誠一郎さん!復讐する相手を間違えないで下さい。その子も被害者だ。あなたと同じ……被害者ですよ!」
江戸川は扉の前で俯くと、唇を噛みしめてきつく目を閉じた。
その背中を、唯人は黙って見つめていた。
銃を握りしめる江戸川の右手が、微かに震えているのが分かった。
「江戸川……」
その声に振り向いた江戸川の目は、どこまでも続く暗闇の様に、黒く深く沈んでいた。
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