T.M.C ~TwoManCell 【帰結】編

sorarion914

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第2章・邂逅

#3

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 2人は案内されたテーブルに座ると、ひとまず飲み物を注文した。
 なんとなく、気まずい沈黙のまま無言で対峙する。
 俯いたまま、口を閉ざす宇佐美を見て、野崎はヤレヤレ……と溜息をついた。
「あの先生のやり口だよ。引き合わせておいて放置――あの人なりの、変な気の使い方さ」
「マジか……お見合いじゃあるまいし」
 思わず悪態をつく宇佐美に、野崎は「あはは、だよな」と言って笑った。
 つられて宇佐美も笑う。
 笑った時、少しだけ左の口角が上がる。
 眩しそうに目を細めた笑い方が、とても人懐っこい感じだが……
 なぜだろう。笑っているのに寂しそうに見えるのは。
 相手の態度が少し和らいだのを感じて、野崎は、「改めて自己紹介しよう」と言った。
「俺は野崎祐介ゆうすけっていいます。海老名中央署に勤務している。神原先生から聞いているかもしれないけど、あの人は俺の……恩師っていうのかな?大学時代からよく知ってる。なかなかの変人だろう?」
 その言葉に宇佐美は小さく笑った。
 笑いながら、今度は宇佐美の方が相手を軽く観察する。

 目の前に座る野崎は、自分よりも年は若干上だろうか……
 世代的にはさほど隔たりはないはずだが、男の態度からは自信と余裕が感じられた。
 (自分とは正反対だ……)
 優しい目をしているが、その目には冷静に相手を観察している油断のならない鋭さがある。
 現役刑事を欺くのは至難の業だろう。この男の前で嘘をつくのは、あまり得策じゃない。
 今日は休みだからか、シャツにチノパンというラフな服装だ。すっきりと短い黒髪を無造作にかき上げ、額を見せた顔つきは実に精悍で、長身の体格も頼もしい。低く落ち着いた声色も、相手に信頼感や安心感を与えるには充分な要素だ。

 宇佐美は、非の打ち所がない相手に対して劣等感を禁じ得なかった。
 彼の目に、今の自分はさぞ頼りなく映っているんだろうな……
 そう思いながら、宇佐美は言った。
「俺は……宇佐美です。宇佐美尚人なおと。もう数年前から神原さんの雑誌で世話になってる」
「コラムを書いてるって……作家さんなの?」
「そんな大層なものじゃないですけど」
「でも凄いよ。文章が書けるって。俺はそういうの苦手だった……作文とかね」
 宇佐美は微笑んだ。
 コーヒーがテーブルに運ばれてくる。2人はそれを口にして、しばらく互いの出方を探った。
 が、口火を切ったのは、やはり野崎の方だった。
「あー……先生から今日の事――なんて聞いてる?」
 宇佐美は少し考えてから、
「警察に知り合いを作っておくと、何かの役に立つかも」と言った。
「え?」
 驚く野崎を見て、宇佐美はからかうような笑みを浮かべる。
「っていうのは冗談だと思うけど」
「……」
「不思議な事件を担当してて、困っているみたいだから力になってやれって」
 野崎は、相手の真意を探るような目でしばらくじっと見つめた。宇佐美もそれに対して挑むような目を向ける。
「あなたは何て?」
 そう聞かれ、野崎は答えた。
「不思議な力を持っている友人がいるから、会ってみないかって――」
「ふぅん……」
 不思議な力ね……と呟いてコーヒーを一口すする。野崎は、参ったな……というように頭に手をやった。
 やりにくい相手だと感じるが、今更投げ出すわけにもいかない。
 気を取り直して野崎は聞いた。
「俺が担当している事件って……どこまで知ってるの?」
「どこまでって?ニュースで知り得る限りですよ」
「そう……それで――何を助けてくれるの?」
「そんなの知りませんよ。そっちは俺に何を求めてるの?」
「――」
 互いに懐を探りあったまま、少しも前進しない。
 野崎は思わず天を仰ぎたくなったが、何も言わず、ただ目の前の宇佐美を黙って見つめた。
 正直、神原の友人だというから会ってみようと思ったのだが……
 どうも一緒に話をしていて楽しい相手ではない。それに妙に突っかかってくる。
 ろくに挨拶もせず、あまり目を合わそうとしないのは、シャイだからというよりも人間不信に近い気がした。
 そう。
 この男は、ずっと何かを警戒している――
 初めて会う人間に対しての警戒心とは違う。
 何かもっと別の……強い警戒心だ。

 野崎はしばらく考えを巡らせていたが、ふと腹を決めたように一呼吸おくと、言った。
「あなたには不思議な力があるんでしょう?その……見えないものが見えたり、とか。聞こえたり、とか――」
「……」
「それって本当?」
「本当――って言ったら、信じてもらえるんですか?」
 宇佐美は俯いたままそう聞いた。
「あなたは、そういうものを信じない人だって、神原さんは言ってた。自分たちとは真逆だって」
「……そうだな。俺は目に見えるものを信じる」
「目に見えるもの……か。でもそれが正解だよ。警察が、見えないものを信じますって言う方が信用できない」
 野崎は苦笑した。
「俺たち、こうして会う意味あります?」
「どうだろう……」
 宇佐美の警戒心が、相手に対する不信感から来ているのは何となく分かったが……
 野崎はふいに、学生時代に神原と霊能力について議論しあった時のことを思い出した。
 もし、あの頃の自分が今ここにいたら、こんなに穏やかに相手をしていただろうか?
 (いや。きっとムカついて、とっくに立ち去ってるな)
 気に食わない態度と物言いに、本気で相手をする気にもならなかったろう。
 俺も大人になったな……と、野崎は心の中で苦笑した。そして、黙っている宇佐美に向かって言った。
「神原先生は変わり者だけど、意味のないことはしない人だと思う」
「……」
「確かに――俺はそういう……不思議な力は信じないけど、100%否定しているわけじゃない」
 コーヒーをひと口、ゆっくりと口に含んで椅子の背にもたれかかると、静かに腕を組んだ。
「あなたも先生の近くで仕事をしてたなら、知っているでしょう?彼の力」
「……」
「あの人には、鋭い直感力っていうのかな……見えるわけじゃないけど、感じる力があった。それは俺も認めてる」
 宇佐美は黙って野崎の話を聞いていた。
「その力で、先生には時々アドバイスをもらってた。捜査協力って感じかな。大っぴらには公表できないけど、ね」
 苦笑する野崎に、宇佐美も微かに笑ってみせた。
「多分……先生は自分の代わりに、あなたを推薦してきたんじゃないかと思ってる」
「――」
「今後は自分の代わりに……宇佐美さんの力を借りてみては?――って」
 宇佐美は黙っていた。


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