T.M.C ~TwoManCell 【帰結】編

sorarion914

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第2章・邂逅

#5

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 宇佐美との対面からちょうど1週間後。
 市内のアパートで事件発生の一報が入った。
 殺人の可能性アリということで、野崎は白石と共に現場入りした。
 既に鑑識班が到着し、現場保存と証拠の採取を行っている。
 場所は市内を流れる川沿いのアパートの一室。築30年。2階建ての2階角部屋。
 住んでいたのは30代と40代の男女2人。夫婦ではないようだった。
 死んだのは30代の女の方で、刺したのは男の方らしい。
「室内は大量の血で凄い有様ですよ」
 2人は鑑識員に導かれて室内に入った。マスク越しでも、むせ返るような生臭い血液臭がした。
「包丁は女の背中に刺さっていました。指紋は判別できるもので1つ」
「男のものかな?彼の意識は?」
「ありませんでした。発見時は玄関付近に倒れており、目立った外傷はありません。意識不明のまま、先程搬送されました」
 そうか……と野崎は呟いて室内を見回した。物が乱雑に置かれていて、正直足の踏み場もない。
 女の遺体は、ダイニングの隣にある寝室にあった。
 頸動脈を刺されたのか、大量の血液を吸った布団の上にうつぶせで倒れている。
「久々だな……これ」
 白石がマスクの上から軽く鼻を押さえた。
「頸部の刺し傷が致命傷でしょうね」
 鑑識員がそう言って、女の首筋を指差す。
 野崎と白石は軽く手を合わせると、共に部屋の外に出た。
「聞き込みに回ろう」
 駆け付けた他の捜査員にも指示を出し、野崎はまずアパートの大家に話を聞くことにした。
 時刻は午前10時過ぎ。
 普段は静かな住宅街の一角だが、今は事件を知り、駆け付けた報道機関が現場付近に集まっていた。
 野崎と白石はその様子を尻目に、アパートの隣に住んでいる大家の60代女性から話を聞いた。
「初めは男の方だけ住んでいたんですよ。それがいつのまにか女性と一緒で……もう3年くらい経つかしら?大人しい方でしたけど、今年に入ってから喧嘩が絶えなくて」
「喧嘩ですか?」
「ええ。他の部屋の方からも苦情がくるくらい……夜中に大声で凄い喧嘩してるって」
 一度警察に通報した事ありますよ、と聞いて野崎は白石に目配せした。事実確認のため、白石はその場を離れた。
「喧嘩の内容は分かりますか?」
「それが、急に佐々木さんが暴れ出して手が付けられなくなるって、女性の方が言ってました」
 佐々木というのが意識不明で搬送された男性で、目下殺人容疑がかかっている男だ。
「酒を飲んで暴れてる感じですか?」
「いいえ。佐々木さん、お酒は飲むけどそんな暴れるような方ではなかったですよ。本当に大人しくて……ただここ最近はお仕事が少なくて大変だったみたいですけど」
「なるほど――今朝はどうでした?」
「いつもの喧嘩だと思っていましたよ。でもね……」
 大家はそう言うと、ブルッと身震いした。
「凄い悲鳴が聞こえたの。助けてー!って。これは尋常じゃないわと思って」
 怖くて1人で様子を見に行けず、隣室の住民男性を伴って様子を見に行ったという。
 その男には今、別の捜査員が話を聞いている。
 そこへ白石が戻ってきた。
「2月に一度、先月も1回、110番通報がありますね。その際、交番の警官が様子を見に来ている」
「そうか……あとで詳しく聞こう」
 野崎はそう言うと、「2人以外に、室内にどなたかいましたか?」と聞いた。
「いいえ。大体いつも2人だけでしたよ。他に出入りしてる人は見たことないわね」
「部屋の鍵は?開いていましたか?」
「いいえ。呼んでも応答がないので心配で……合鍵を使って開けてしまいました」
 いけなかったかしら?と不安げに尋ねる大家に、野崎は大丈夫ですよと笑ってみせた。
 室内の様子を確認したのは一緒に入った男の方で、自分はあまり見ていないという。
「佐々木さんが玄関の近くに倒れてて……」
 そう呟いてから、大家は恐る恐る聞いた。
「女性の方は亡くなったって……本当ですか?」
 野崎は、残念ですが……と頷いた。
「嫌だわぁ……事故物件になっちゃう!」
 その台詞に白石は思わず苦笑した。
 2人はひとまず礼を言って現場の方へ戻った。
「事故物件になっちゃうってさ」
「大家としては死活問題だろう」
「第三者の介入は?」
「それはなさそうだけど……男が殺したとして、意識不明で倒れてた原因は?」
「慌てて逃げようとして……滑って転んだ?」
「外傷はなさそうだって言ってたけどね」
 野崎はアパートの外観をジッと見上げた。
 車2台がすれ違えるくらいの道路を挟んで、すぐ向かいを川が流れている。
 相模川に流れる支流のひとつ、目久尻川だ。
「こんな長閑な場所で、凄惨な事件が起きたもんだな」
「病院行くか?」
 白石に聞かれ、野崎は「そうだな」と呟いた。
「意識が戻ればいいけど――」


 市内の総合病院に搬送された男の意識は、まだ戻っていなかった。
 医師の所見では、後頭部と頸部に強い衝撃を受けた痕跡はあるが、僅かな内出血があるのみで骨に異常は見られないという。
「水か砂を詰めた重い袋状の物で衝撃を受けたような感じです」
 医師の言葉に、「それってなんなの?」と2人は呟いた。
「いや、そもそも誰にやられたのよ?」
 病室に運ばれ、意識を失ったままの男の様子をジッと見ながら、白石が言った。
「女にか?頸動脈刺されて、さらに背中を何度も刺されて、瀕死の重傷負った女が、背後から逃げる男を殴りつける――できるか?そんなこと」
「最初の首の一撃で、それどころじゃないだろうな……」
 女を刺し、慌てて逃げようとして転倒。その時に後頭部を打ったのなら仰向けに倒れるだろうが、発見時、男は玄関付近にうつぶせで倒れていたそうだ。第一発見者の2人も鑑識員もそう言っている。
「仮に現場に第三者がいたとして。佐々木が女を殺した後、その佐々木を後ろから殴って――どこから逃げる?玄関は施錠されてた」
「大家さんたちが入ってきた時、窓から逃げた……とか?」
「それまで室内に潜んでた?でも窓も施錠されてた。現場に第三者の痕跡はない。凶器になりそうな物も」
 野崎はあの凄まじい血痕を思い出した。
「女を刺したのが別の奴だったとしても、あの場にいたら少なからず返り血は浴びてる。そんな奴が現場付近で目撃されたら騒ぎになるだろうが、そういう目撃情報も今のところ出てない」
「後頭部を自分で殴りつけるのは?」
「なにで?どうやって?自分で意識失うまで打ち付けるのは難しいぜ」
 白石は、お手上げというように肩を竦めた。
 男の意識が戻れば詳しい状況も分かるだろうが……

 大人しかった男が急に暴れ出してパニックになる――

 この状況。
 直近で似たようなケースを見たな……
 (でもまさかな――)

 伝染病じゃあるまいし、同じようなことがそうたびたびあってたまるか。
 野崎は釈然としない面持ちで、昏倒している男を黙って見つめていた。


 
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